第29話
僕達は、すぐに旅を再開した。
「そういえば、旅を誰かに邪魔されたのは、今回が初めてですね。警備隊の連中は、僕達を追っていないのでしょうか……?」
「そんな余裕は、無いのかもしれないわね。グラートは、何ヶ所かで魔物を呼び出しているはずだし、その魔物は、オットームの攻撃では倒せないもの」
「……ちょっと待ってください。前の町を襲った魔物は、僕やベルさんが倒した個体以外は、生きたまま別の場所に移動しているんですよね? ひょっとして、大変なことになってるんじゃ……!?」
「あら、そんなことに、今更気付いたの?」
「まずいですよ! 僕の時みたいに、ベルさん達が把握していないダッデウドが、まだどこかにいるかもしれないのに……!」
「問題ないわ。グラートが襲撃する場所の付近は、きちんと調べるもの。だから、貴方のことだって発見できたんじゃない」
「でも、魔物が予想以上の広範囲で暴れたら、想定外の被害だって出るかもしれないじゃないですか!」
「そんなに被害は広がらないわよ。グラートの魔物は、本気で駆除しようと思えば、簡単に片付けられるもの」
「えっ……?」
驚くべき発言だ。
オットームは、グラートの魔物に、全く太刀打ちできなかったではないか!
「簡単に、というのは語弊があるかもしれないわね。人手さえあれば、高い能力なんて必要ない、と表現するべきかしら?」
「……というと?」
「例えば、崖の下におびき出して、上から岩を落とすとか。もっと単純な方法としては、大きな落とし穴を掘って、埋めてしまえばいいのよ」
「……」
言われてみれば、極めて単純な方法だった。
グラートの魔物が、遠距離攻撃を行ったところは、見たことがない。
つまり、大きな穴の底に落としてしまえば、手も足も出せなくなる、ということだ。
「じゃあ、グラートの魔物って……ひょっとして、大したことないんじゃ……?」
「そんなことはないわ。真っ向から戦ったら、オットームに勝ち目がないことに変わりはないもの。あの魔物を落として、這い上がれないようにするために、どれだけ大きな穴が必要か分かってるの? しかも、穴が1つだと上手く落とせないかもしれないから、いくつか掘っておく必要があるでしょう? そのための労力は、相当なものであるはずだわ。他にも、穴を用意した地点まで魔物をおびき寄せるために、囮になる人間が必要よ」
「……」
確かに、大変な作業だ。
そのような作戦を実行するためには、かなりの人手が必要である。
加えて、魔物に破壊された町では、便乗犯による窃盗などが横行するはずだ。
それらへの対応にかかりっきりになっていたら、僕を捕らえるための人員がいなくなっても不思議ではない。
「そういえば、グラートの魔法に必要な条件って、『満月の夜であること』みたいですね」
クレアが指摘する。
それは、僕達が巻き込まれた2度を見た時の、分かり易い共通点だった。
月には、不思議な力があると言われているが……グラートの魔法は、その力を、何らかの形で利用しているのかもしれない。
「そうみたいね。だとしたら、召喚がどのタイミングで行われるのかは簡単に分かるわ。当然、帝国の人間だって、そのことに気付くでしょうから、対策は立てられていくでしょうね」
「ベルさん……やっぱり、グラートの独立運動に便乗しようなんて、無理があると思いませんか?」
「あら、どうして? 彼らが呼び出した魔物が、帝国にとって脅威であることに、変わりはないじゃない」
「グラートは、人々の不安を魔力に変えて、魔物を召喚するんですよね? でも、呼び出されるタイミングも、攻略法も分かっている魔物なんて、それほど不安を煽る存在ではないと思います。そんなもので、帝国を崩壊させるなんて、不可能ですよ」
グラートの魔物は、個人や町などの単位で考えれば、脅威だといえるだろう。
しかし、それで国が滅ぶか、と考えれば、そこまでの脅威ではないはずだ。
「そうね……グラートに、他に打つ手がなければ、貴方の言う通りだと思うわ。これで終わりじゃないことに、期待したいところだけど」
「……期待するんですか? ベルさんの目的は、ダッデウドを助けることであって、帝国を滅ぼすことではありませんよね?」
「あら、いけないかしら? ダッデウドを虐げたオットームが苦しむなら、グラートが頑張ることに期待するのは当然でしょ?」
ベルさんの言葉を聞いて、クレアは暗い声で言った。
「……間違っています。そんなの」
「まあ、貴方はオットームだから、理解できなくても当然よね」
「そういう問題じゃないでしょう!? どうして、ベルさんは、他人が苦しんでいても平気なんですか!」
「あら、心外だわ。私だって、ダッデウドが苦しんでいたら、平気ではいられないわよ。貴方は、オットームとダッデウドが、同じ人間だと思っているの?」
「違うっていうんですか!?」
「だったら質問させてもらうけど、大抵のオットームは、ダッデウドが苦しんでいても平気みたいじゃない。それはどうしてなの?」
「それは……」
クレアは、ベルさんの質問に対して、きちんとした答えが出せないようだった。
「理由は簡単よ。オットームとダッデウドは、人の形はしているけど、全く別の生き物なの。だから、相手がどうなろうと平気なのよ」
「……」
クレアは、ベルさんの言葉が、とても不快だと感じている様子だった。




