第27話
旅を再開した僕達の気分は、最悪のものだった。
ミアを助け出すことに失敗して、死なせてしまったためである。
あの後、僕はベルさんに保護された。
そして、2人でミアの遺体を丁重に葬り、クレア達と合流して町を後にした。
ベルさんは、僕のことを責めなかった。
彼女の怒りは、主に、ミアを勝手に連れ出したカーラに対して向けられているようだ。
おそらく、僕がカーラを逃がしたことはバレていると思うが……ベルさんは、その件について追及しようともしない。
そのことで、助かったと思う反面、不気味にも思えた。
クレアとレレは、沈んだ様子だった。
自分達が、町の人を逃がすことを優先したために、ミアを死なせてしまったと思っているようだ。
しかし、2人がいたとしても、カーラの不信感を払拭できたかは分からない。
ベルさんがお金を盗むことをやめたとも思えないし、結局、同じ結末を辿っていたような気がする。
僕と同じことを考えたのか、ベルさんは、彼女達を責めたりはしなかった。
僕は、ミアやカーラのこと以外でも、頭の痛い問題を抱えていた。
今回の一件で、ダッデウドとして覚醒している時の僕の人格は、元のままだと自覚してしまったのだ。
つまり、人を殺したのも、痛めつけて楽しんだのも、僕自身が行ったことなのである。
今回は、町で助けた女性に対して、とんでもないことをしてしまった。
相手が泥棒であっても、あれは明らかにやり過ぎだ。
それに、ベルさんだってお金を盗んでいる。彼女を裁く権利など、僕達にあるはずがなかった。
僕があんなことをしたと知られたら、クレアに人でなしだと思われるかもしれない。
はっきりとしたのは、ダッデウドとして覚醒した僕は、「やりたいと思ったことを、ほとんど制御できない」ということだ。
これは、恐ろしいことだった。
殴りたいと思った相手のことは殴り、殺したいと思った相手のことは殺す。そんな人間は、ただの危険人物だ。
あんな状態になるのであれば、もう二度と、ダッデウドとして覚醒したくないと思う。
「私達は、魔力を回復させる必要があるわ。リスクはあるけど、人が多く住んでいる街の近くを通りましょう」
ベルさんはそう提案した。
ミアを助けるために、ベルさんは、繰り返し魔法を使った。
なるべく魔力を回復させておくべくだろう。
人が多く住んでいる場所には、争いも憎しみもある。
自身に対して向けられた感情でなくても、発散されたものを吸収すれば、失った魔力を補えるはずだ。
「……ベルさん。次は、グラートとは関係のない場所で、ダッデウドを保護しませんか?」
クレアが言った。
「安心して。魔力が回復しきらない可能性ぐらい、考えているわ」
「そうじゃなくて……あんなに多くの人を巻き込んで、その中から誰かを助けようだなんて、無理がありますよ」
「あら。だったら、監禁されているダッデウドのことは見捨てるの?」
「……もっと穏便な方法はありませんか? こっそりと忍び込むとか……」
「無理よ。ゴドルの家に、どれだけの人がいたと思っているの? すぐに見つかるに決まっているじゃない」
「誰かに見つかっても、すぐに、魔法で動けなくすればいいんじゃないですか?」
「同時に、何人もの住人に見つかったら、そんなことはできないわ。そうなったら、すぐに町の警備隊だって押し寄せて来るのよ?」
「……でも、ミアっていう女の子を殺したのは、グラートの魔物ですよね?」
クレアがそう言うと、ベルさんの顔がひきつった。
「……あれは不幸な事故よ。次は、必ず成功させるわ」
「……」
クレアは、それ以上は何も言わなかった。
触れてはならない話題を口にしてしまった、ということに気付いたのだろう。
そのまま、無言でしばらく歩いたが、突然レレが立ち止まり、ナイフを抜いた。
「レレ……!?」
「気を付けて。囲まれているわ」
ベルさんがそう言ったので、僕は周囲を見回した。
道の両脇の木陰や、茂みの中から、武器を構えた男達が次々と出てくる。
全部で30人近くはいる男達は、下卑た顔でこちらを見た。
「女とガキだけで歩くなんて、無用心だぜ?」
「そんなナイフで、俺達に勝てるわけがないだろ! たっぷり可愛がってやるよ!」
「……ん? こいつら、よりにもよって、髪が銀色だぜ!? 黒い髪の女以外は、始末するか?」
「女なら関係ねえよ! やることやったら、始末すればいいだろ?」
「分かってねえな。あんなのでも、大金を出して買おうとする金持ちはいるんだぜ?」
男達は、口々に好き放題なことを言う。
驚くほど醜い連中だ。金と女のこと以外は、頭の中に入っていないのだろう。
「……気持ち悪い」
レレが、嫌悪感を露わにして吐き捨てた。
「何だとぉ!」
その言葉が聞こえたらしく、男の一人が刃物を構えて詰め寄ってくる。
「ディフィ、始末しなさい」
ベルさんが、冷たい声で命じる。
「はい、叔母様」
レレは、表情を変えずに応じた。




