第24話
「ティルト、これを使いなさい」
突然、物陰からベルさんの声がした。
そちらを見ると、笑みを浮かべたベルさんが、ロープのような物を持っていた。
「……それ、どうしたんですか?」
僕が尋ねると、ベルさんは笑みを浮かべた。
今の僕が、ダッデウドとして目覚めていることが分かっているようだ。
「近くの家の前にあった洗濯紐を借りてきたの。その女が何か悪いことをしたから、お仕置きするんでしょ? これで縛って、目立つ場所に転がしておけばいいわ」
「ちょっと、本気で言ってるの!? あんた、女でしょ!? 助けなさいよ!」
僕が連れている女が、ベルさんに抗議した。
ベルさんは、その言葉を無視して女の首筋に触れる。
すると、女はぐったりとして動かなくなった。
意識を失ったわけではない。以前、僕に対して使ったのと同じ魔法だろう。
女の怒りは、楽しげなベルさんに向けられているようだ。
しかし、ベルさんは涼しい顔をしている。
彼女には、同性に対する哀れみの情などない。
むしろ、好んでオットームから憎まれようとするのだ。
僕達は、女を縛り上げて、町の中央にある広場まで運んだ。
そして、猿轡を噛ませて、地面に転がした。
女は、運んでいる間に、身体を動かせるようになったようだ。
しかし、ベルさんの縛り方が上手いのか、いくらもがいても、ロープが解ける様子は無い。
試しに、女が触られたくないであろう部分を、指先で繰り返しつつく。
女は、何とかして逃れようと暴れるが、徒労に終わった。
その様子を眺めて、僕は満足する。
「いいか? 何が起こっても、僕達のことは黙っているんだ。でないと、お前が大金を盗んだことを暴露するからな。公開処刑になりたくなければ、誰にも、何も言うな。この金貨は全部、町のどこかに埋めておいてやる。後で、自分で探すことだ」
そう告げると、女は抗議の唸りを上げた。
僕達は、そのまま女を放置して立ち去った。
2人で宿の近くまで戻る。
僕は、近くの地面を適当に掘って、そこに、先ほどの女から取り上げた金貨を埋めた。
「もったいないわね。どうして、埋めるなんて言ったの?」
ベルさんが、不満そうな顔で言った。
この人は、ゴドルの家から盗んだ金だけでは満足できないらしい。
とても欲深い人である。
僕は、ベルさんに意図を解説することにした。
「あの女が、あんな格好で発見されたら、きっと色々な噂が飛び交うはずです。そうなったら、この町から、すぐに逃げ出したくなるはずでしょう? でも、どこかに金貨が埋まっていると思ったら、町中の人に笑われながらでも、必死になって、あちこちの地面を掘り返して回ると思います。それを想像したら、面白いじゃないですか」
言いながら、その光景を本当に想像してしまい、僕は笑った。
人々は残酷だ。全裸にされて縛り上げられた女の噂は、町に戻ってきた人々の間で、一瞬にして広がるだろう。
散々笑い物にされながらも、町から離れることができず、地面を掘り返す女のことは、頭がおかしくなったようにしか見えないに違いない。
「でも、それが目的なら、本当に金貨を埋めたりしない方がいいわ。もしも金貨を掘り当てられたら、興醒めだもの。金貨が見つからないまま、一生探し続けさせた方が面白いはずよ。私だったら、埋めないで貰っちゃうわね」
「それじゃ、つまらないですよ。この金貨は、あの女が見つける前に、野犬が掘り返すかもしれないでしょう? そうしたら、他の人に拾われて、あの女は金貨を手に入れ損ねるかもしれません。そういう、どちらに転ぶか分からないところが面白いんですよ」
「……なるほど。他の人間が金貨を手に入れたと知ったら、あの女、私達のことを殺したいほど憎むでしょうね。ひょっとしたら、本当に頭がおかしくなるかもしれないわ」
そう言って、ベルさんは笑った。
「ところで、ミアとカーラは? 部屋で待ってるんですか?」
僕が尋ねると、ベルさんは顔を曇らせた。
「それなんだけど……困ったことになったのよ」
「どうしたんですか?」
「カーラの様子がおかしいの。ひょっとしたら、私がゴドルを殺したことを、勘付かれたのかもしれないわ」
「まさか……ゴドルの死体を見たわけでもないのに、どうして……?」
「分からないわね。女の勘ってやつかしら?」
ベルさんは、首をひねった。
「……それで、どうするんですか?」
「決まってるじゃない。カーラを、殺すわ」
ベルさんは、表情を変えることなく言い放った。




