第22話
カーラは、僕と2人で部屋に残されるのを嫌がり、ベルさん達に付いて行った。
ベルさんは、僕にもついてくるように言ったが、カーラに睨まれたこともあって、1人で残ることにした。
息を潜める。
まだ、近くに、魔物がいる可能性だってあるからだ。
無限にも感じられる時間が流れた。
突然、遠くから、女性の悲鳴のようなものが聞こえた。
「……!?」
今のは、ベルさん達のものではないだろう。
明らかに、宿の外から聞こえた声だ。
まだ、近くに生き残りがいたのか……!
どうするべきか、僕は考える。
ベルさんを呼びに行くべきだろうか?
しかし、ベルさんが、ダッデウドでない誰かを助けるとは思えない。
ただでさえ、彼女は大量の魔力を消費している。オットームのために、これ以上消費するつもりはないだろう。
では、僕が1人で助けに行くべきか?
普通に考えれば、それもするべきではない。
僕は、まだ魔法を自由に使えないからだ。助けに行ったとしても、巻き添えで魔物に殺されるだけ、という結果になることは目に見えている。
合流地点まで行き、レレを呼んでくるか?
それは論外だろう。とても間に合うとは思えない。
ここは、何も聞かなかったことにして、見殺しにするべきか……?
そこまで考えて、僕は首を振った。
クレアは、命の危険を覚悟で、町の人を逃がそうとした。
力さえ引き出せれば、彼女よりも遥かに強いはずの僕が、逃げてどうするのか?
僕は、宿に置いていた剣を抱えて、宿の外へ向かった。
外に出て周囲を見渡す。
人影は見当たらない。魔物らしきものも見つからなかった。
勘で、声がした方を目指して進む。
フードを被っているとはいえ、誰かに姿を見られないように、足音を殺した。
再び、女性の悲鳴のようなものが聞こえる。
それに加えて、男性の声も聞こえた。
思ったより、近い。
僕は、そちらに進み、建物の陰から様子を窺った。
するとそこでは、男らしき人影が、女性らしき人物に馬乗りになっていた。
「何をしてるんだ!」
思わず、声を上げた。
「……なんだ、ガキが邪魔すんじゃねえ!」
男が、大きな声でこちらを威嚇してくる。
僕は、足がすくんでしまった。
相手が人間ならば、剣を見せれば追い払える可能性もある。
しかし、こちらが素人であることを見抜かれたら、反撃を受ける可能性も否定できない。
怒りよりも恐怖心が強いためか、魔法が発動する兆候もない。僕に、この男が止められるだろうか?
「……助けて!」
女性が声を上げた。
僕は、覚悟を決めて剣を抜く。
「その人から離れろ!」
僕は、剣を男に向け叫んだ。
すると、男は僕のことを鼻で笑った。
そして、手をこちらに向けて突き出してくる。
「……!」
僕は、咄嗟に身を投げ出した。
男の手から、閃光が放たれる。
オットームが使う攻撃魔法だ!
「いいか、今すぐどこかに行け。ここで見たことは、誰にも言うんじゃねえぞ?」
男は、勝ち誇った口調で言った。
オットームの魔法は、善良な心によって使うことができる、と言われている。
それが正確なものではない、ということは、ほとんどのオットームが知らないはずだ。
それなのに、この男は、魔法を悪事に使っている……!
当然ながら、男の魔法は、ベルさんとは比べ物にならないほど効果が弱いはずだ。
この距離ならば、直撃しても、死ぬ可能性は低いだろう。
だが、大怪我をする可能性はある。
もっと近付いて撃たれたら、死ぬかもしれない。
男は、こちらが戦意を喪失したと判断したらしく、僕の方に注意を向けるのをやめた。
そして、女性の服を引き裂く音が聞こえる。
女性は、またしても悲鳴を上げた。
僕は腹が立った。
クレアは、本当に善良な心を持ち、常に正しいことをしようとしている。
それに比べて、ろくでもないオットームが多すぎる!
特に、この男は最悪だ。
多くの人が魔物によって殺されたこの町で、どさくさに紛れて女性を暴行しようとするなんて……お前は獣以下だ!
体が自然に動く。
僕は、一瞬で男に接近し、首を刎ね飛ばしていた。
目障りな奴が、これで、また一人消えた。
何の価値もない男だったが、僕が魔法を発動させる役に立ったことで、ほんの僅かな価値が生まれたと言っていいだろう。
ダッデウドの魔法は、繰り返し発動させれば、いずれは自分で制御できるようになるという。
これで、僕も、完全なダッデウドに、また一歩近付けたというわけだ。
覚醒しているためなのか、今は、人を殺したことへの嫌悪感も、本性をさらけ出すことへの抵抗感も無かった。
ただ、満足感だけがあった。




