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白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


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第18話

「ティルト、教育上良くないと心配しているのでしょうけど……ディフィについては、その心配はないわ。ダッデウドにとっては、性的な話は、タブーじゃないのよ。今さら、男女の営みぐらいで、驚いたりしないわ。この子は、オットームがダッデウドにした残忍な行為を、たくさん知ってるんだから」

「レレが、どうして男を怖がるのか分かりました」

 僕はため息を吐いた。


 ダッデウドが受けてきた虐待は、男の僕が聞いても、相当不快なものだ。

 少女にそんなことを話せば、男に対して嫌悪感を抱くのは当然である。


「あら。貴方だってダッデウドなんだから、本当はかなり残忍なはずよ?」

「そんなことありません!」

 僕ではなく、クレアが反論した。

「貴方だって見たでしょ? ダッデウドの魔法を発動させて、女の子をなぶっていた時のティルトが、本来の姿なのよ」

「あれは、魔法のせいでおかしくなっていただけです! 本当のティルトは、あんなことしません!」

「分かってないのね。オットームの影響を受けている今の状態の方が、ティルトの本来の姿とはかけ離れているのに」

「……」


 あんなことをするのが、本当の自分なのだろうか?

 だとしたら、僕は相当狂った人間だと思う。


「……やっぱり、ダッデウドって呪われているような気がします」

 僕は、暗い気分になって言った。

「心配することはないわ。ダッデウドは、人間が普段隠している部分が、ちょっと表に出ているだけだから。他の民族だって、本質的な部分はダッデウドと大差ないのよ。貴方をいじめた連中や、ダッデウドを虐げている、ゴドルのような連中がいい例だわ」

「……」


 僕は、そんな連中と同類なのか……。

 そう考えて、僕の気分はますます落ち込む。


「不満そうね?」

 ベルさんが、不思議そうに尋ねてくる。

「だって……そういう連中は、かなり特殊な、頭のおかしい人間でしょう?」

 僕がそう言うと、ベルさんは首を振った。

「それは違うわ。異質な存在を排除しようとするのは、正常な人間のすることだもの。オットームしか存在しない社会でも、いじめがあるのは一般的なことなのよ? 人は、ちょっとした差異を見つけて、他人を攻撃するものなの」

「でも、普通の人間は、女性を監禁したりしませんよ」

「それはそうね。でも、違う方法で女性を支配しようとする男って多いのよ? 好意を抱いた女性に対して暴力を振るう男は、どの民族でも珍しくない存在だわ」


 ひょっとして……ベルさんって、人間が嫌いなんだろうか?

 そんな風に感じてしまうほど、ベルさんは、人間の良くない部分を、当然のことのように話した。


「……だからって、人をなぶり殺しにしようとするのは、やっぱり頭がおかしいですよ」

「あら、帝国が執行する公開処刑だって、楽しみにして見に来る連中は、たくさんいるじゃない。人間なんて、自分の身が安全なら、いくらでも残酷になれる生き物だわ」

「それは、処刑されるのが悪人だから……」

「そう思うでしょ? でも、ほとんど知識を持たない子供って、平気で小さな生き物を殺したりするじゃない? あれが人間の本来の姿なの。ティルトと同じ能力を与えたら、貴方と同じことをする人間はたくさんいるってこと、覚えておいた方がいいわよ?」

「……」


 ベルさんは、自説を引っ込めるつもりが無さそうだ。

 実は、ベルさんが一番不気味な存在であるように感じる。


「さて、話が逸れたけど……作戦をまとめるわね。魔物が襲ってきたら、クレアは町の人間を逃がして。ディフィは、クレアを守りなさい。ダッデウドだと気付かれてはいけないから、絶対にフードは脱がないようにしなさいよ?」

 ベルさんに言われて、クレアとレレは頷いた。

「私とティルトは、ゴドルの屋敷に向かうけど……戦うのは、基本的に私だけよ。ティルトは、私の傍から離れないで」

「分かりました」

「ただし、魔法が発動したら、ティルトは自由にしていいわ」


 ベルさんがそう言うと、クレアは非常に嫌そうな顔をした。

 僕が魔法を使う可能性について、考えるのも嫌なようだ。


「さて、じゃあ……話もまとまったし、4人でお風呂に入ろうかしら?」

 ベルさんが楽しそうに言った。

 当然ながら、クレアはうんざりとした表情をする。

 そして、レレは僕から逃げるような素振りをした。


「ベルさん、からかうのはやめてください」

「あら、私は本気よ?」

「だったらなお悪いです! 先に3人で入ってきてください」

「そう? ディフィだって、もう子供じゃないのよ? せっかくのチャンスなのに、もったいないと思うけど?」


 ベルさんの言葉を聞いて、レレは、何故か僕を睨み付けてきた。

 怒るなら、ベルさんに対して怒ってもらいたい。


「貴方は、僕に何を期待してるんですか……?」

「ダッデウドの子孫を増やすことよ」

「……もういいです。とにかく、僕のことは放っておいてください」


 僕は、3人を送り出した。

 1人になって、今後のことを考える。


 ベルさんは、僕のことを「ダッデウドの男」としか考えていないところがある。

 口では僕のことを好きだと言っているが、どこまで信用していいか分からない。


 レレは、男に対して嫌悪感を抱いている。

 僕が酷い人間ではないことを理解してもらうまで、仲良くするのは難しいだろう。

 いや……最近では、僕自身が、自分の人格に対して疑問を抱いているのだが……。


 とにかく、当分は、クレア以外の人間のことを信用できないのは確かだ。

 にもかかわらず、僕はベルさんと二人で、ゴドルの屋敷に潜入することになってしまった。

 ダッデウドの魔法を発動させることができればいいのだが、今のままでは不安だ。


 そして、もっと恐ろしいのは、魔法が発動してしまった後で、残虐な行為を平然と行うことだ。

 さらに、それこそが自分の本性である、ということを突き付けられるのが一番怖かった。

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