第16話
「ところで……いつまでも隠れていないで、そろそろ出てきなさい」
ベルさんが、路地の奥に呼びかけた。
「……?」
そちらを見ると、僕やベルさんと同じようにフードを目深に被った人物が、こちらを窺うようにしていた。
「叔母様……その2人は?」
フードを被った、小柄な人物が問いかけてくる。
どうやら、女の子のようだ。
「ダッデウドの仲間と、そのお友達よ。どちらも私達の味方だから、安心してこっちに来なさい」
「……はい」
恐る恐る、といった様子で、フードを被った女の子は、こちらに歩いてきた。
「ベルさん、この子は……?」
「この子は、私の姉の娘よ。つまり、私の姪、ということになるわね。名前はディフィルドレレ。私はディフィって呼んでるわ。仲良くしてあげてね?」
「……」
その女の子は、ベルさんの陰に隠れるようにして、僕達から離れた。
こちらのことを、かなり警戒しているようだ。
「ごめんなさいね。この子、私と違って、人見知りが激しいの。……ほら、ご挨拶しなさい」
そう言って、ベルさんは女の子のフードを取った。
「……!?」
一目見て、とてつもない衝撃に襲われた。
その女の子は、ベルさんを頭一つ分ほど縮めたような姿だった。
違う点は、ベルさんの瞳が赤いのに対して、少女の瞳が青いこと。
そして、銀色の髪を、三つ編みにしていることだった。
いや、姿形ではなく、ベルさんとの決定的な違いがある。
その女の子は、酷く怯えた様子だった。
少し、目が潤んでいるように見える。
「可愛い!」
クレアが、目を輝かせて言った。
「そうなのよ。ダッデウドの多くは、とても美しい姿をしているものだけど……この子は、特に可愛いの」
そう言って、ベルさんは少女の頭を撫でた。
「君の名前も、僕達には呼びにくいから……レレって呼んでいいかな?」
ふと思い付いて、僕は言った。
「……」
少女は、困った様子でベルさんを見上げた。
「いいと思うわ。可愛いじゃない」
ベルさんがそう言うと、レレは小さく頷いた。
「この子、本当にベルさんと血がつながってるんですか?」
クレアが、不思議そうに尋ねた。
あまりにも、ベルさんと性格が違うからだろう。
「姉は、ダッデウドの女としては珍しい、のんびりとした性格なの。この子も、ダッデウドにしては珍しい性格をしているわね。姉は、幼い頃から、男の子に凄く人気があったのよ? 私とは大違いだったわ」
「そうでしょうね……」
僕は思わず呟いてしまった。
「あら、それはどういう意味かしら?」
ベルさんが、少しムッとした表情をする。
「……いえ、何でもありません」
僕は、そう言って言葉を濁した。
ベルさんの性格は、女性としては滅茶苦茶キツイ。
ベルさん以外の、ダッデウドの女性のことはあまり知らないが、ダッデウドの社会は、元々男性に対して厳しい環境だ。
そんな環境において、のんびりしているというベルさんのお姉さんは、男にとっての癒しに感じられたはずだ。人気が出るのは当然である。
改めてレレを眺める。
年齢は、僕やクレアと同じか、少し下だろう。
レレは、皆に注目されるのが恥ずかしいらしく俯いた。
「さて、それじゃあ、宿を取りましょうか」
ベルさんがそう言った。
確かに、いつまでも、路地裏で立ち話は良くない。
不審に思われるかもしれないし、タチの悪い連中に目を付けられるかもしれないからだ。
僕達は、町で一番安い宿を取った。
当然のように4人部屋である。
クレアは、嫌そうな顔はしていたが、文句は言わなかった。
しかし、レレがクレア以上に嫌がった。
意外なことに、オットームであるクレアのことよりも、僕と一緒にいることの方が嫌らしい。
「ごめんなさいね。この子、男の子が怖いみたい」
ベルさんがそう言った。
こんなに可愛い子に嫌われるなんて……少しショックだった。
「それじゃあ、ディフィが調べたことを教えてくれる?」
部屋に入って、急に真顔になったベルさんがそう言った。
「……この町に、ゴドルという商人がいます。ミアという名前の、ダッデウドの女の子は、その男の屋敷に閉じ込められているようです」
「ねえ、レレ。その女の子って、本当に閉じ込められているの?」
突然、クレアが疑問を提起した。
「あら。仮に本人が望んでいても、認めるべきじゃないって言ってたでしょ?」
「そうです。ですが……もし仮に、ですよ? ダッデウドが差別されているから、ミアのことを匿っているだけだとしたら? その行為には、非難する理由がありません」
ベルさんは、クレアの言葉に、感心した様子で頷いた。
「確かにそうね。ディフィ、その可能性はあるの?」
「……無いと思います。ゴドルは、客の前で、その女の子を、その……見せ物にしたそうです。裸に近い姿で、晒し者にしたとか……」
「酷いことをするのね……」
ベルさんが心から憤っている様子だったので、僕は、つい文句を言ってしまった。
「ベルさんも、クレアに対して、同じようなことをしましたよね?」
「あら。私は、クレア以外の子に、あんな酷いことはしないわ」
「クレアにもしないでください!」
「分かってるわよ。二度としないわ」
「……ねえ、ティルト。怒ってくれるのは嬉しいんだけど……あの時のことは、そろそろ忘れてくれない? 何度も思い出されたら、恥ずかしいわ……」
クレアが、顔を真っ赤にして言った。
言われて、クレアの下着を直視してしまったことを思い出す。
あれは、被害者にとっても、思い出されたくないことだろう。
「ごめん……」
忘れてくれと頼まれても、色々な意味で忘れ難い出来事だが……とにかく、忘れたことにしておいた方が良さそうだった。




