第15話
「グラート人の魔法は、ダッデウドとは違うんですね。……そういえば、オットームの魔法は、ダッデウドと大して変わらないと言ってましたよね?」
僕が尋ねると、ベルさんは頷いた。
「そうよ。といっても、オットームが使う回復魔法は、ダッデウドには使えない魔法なのだけど……攻撃魔法や補助魔法に関しては、完全に同じ魔法よ。魔力の元になる感情もね」
「えっ……!?」
クレアは、すかさず反論した。
「そんなの、嘘です! ダッデウドは、憎しみを魔力に変えるんでしょう? オルト人の魔法は、善良な心を元にした魔力を使っているはずです!」
「まあ、間違ってはいないわね。不充分な情報ではあるけど……」
「どういうことですか?」
僕が尋ねると、ベルさんは解説してくれた。
「善良な感情って、具体的にはどんなものかしら? 例えば、誰かが襲ってきて、オットームであるクレアが、ティルトや他の人を守りたいと考えたとするわね? そういう感情は、確かに善良だと表現できるのでしょうけど……その気持ちの中には、色々な感情が含まれているはずよ? 例えば、敵を拒む感情は防御魔法を使うための魔力になるし、ティルトが怪我をしたら、それを治したいという感情が発生して、それが回復魔法を使うための魔力になるの。なら、攻撃魔法の元になる感情は、何だと思う?」
「……敵を攻撃したい、という感情ですか?」
「その通りよ。いくら善良な心を持っている人でも、敵に襲われて、相手を攻撃したいと思わないなんてあり得ないわ。つまり、襲ってきた相手に対する憎しみの感情が、攻撃魔法のための魔力になるのよ。それは、ダッデウドのものと全く同じだわ」
「……」
ベルさんの説明を聞いて、クレアは、凄く不快そうな顔をした。
ダッデウドのことがあまり好きでない彼女にとっては、受け入れ難い話のようだった。
「……その話が本当なら、どうしてオットームは、ダッデウドに比べて弱いんですか?」
「簡単なことだわ。先天的に、抱えていられる魔力の量が違うからよ。おそらく、ダッデウドの魔力量は、オットームの数倍はあるわね」
「数倍……」
同じ人間でも、そんなに違うものなのか……。
しかし、考えてみれば、オットームの方が、ダッデウドよりも肉体的には強いはずだ。
民族によって、得手不得手がある、ということだろう。
「それに、オットームは、回復魔法を使うわ。純粋に殺し合うための能力なら、ダッデウドの方が上回るのは当然でしょ?」
「だったら、どうして、オットームはダッデウドを虐げることが出来たんですか? ダッデウドの方が強いはずなのに……」
「ダッデウド同士では、子孫を残せない事情は話したでしょう? オットームに拒まれたら、ダッデウドは数を減らすしかなかったのよ。つまり、立場が弱かった、ということなの。オットームの社会で暮らせなくなったダッデウドの多くは、人里離れた場所に身を隠すしかなかったわ。そして、オットームの社会に取り残されたダッデウドは、オットームに対して発言力を失っていったの。……それに、魔力の量が多くても、ダッデウドの魔法は消耗も激しいから、長時間戦えないっていう弱点があるのよ」
僕は、村が襲われた際に、ベルさんに助けを求めた時の会話を思い出した。
「そういえば、ベルさんは、戦うのを渋ってましたよね……」
「ティルトみたいに、補助魔法を自分にかけて戦うスタイルなら、消耗も少ないんだけどね……。あの魔法も、オットームのものと同じものよ。ただ、ティルトの使い方は、オットームと比べると上手いわね。自分を強くして、敵を殺すことに特化した使用方法だわ」
「じゃあ、僕は、ベルさんよりも、長時間戦うことができるんですね?」
「そうよ。しかも、ティルトは魔力を生み出す能力が高いはずだから、余程長時間戦わない限り、残量の心配は必要ないわね」
「えっ……? 魔力を生み出す能力の高さなんて、分かるんですか? そういうのって、本人が、感覚的に認識するしかないって言われてますけど……」
「分かるわよ。たくさんの魔力を作れる環境にいると、ダッデウドは、魔力を生み出す能力が高まっていくと言われているわ。ティルトは、そういう意味では恵まれた環境にいたわね」
「……どういうことですか?」
「攻撃のための魔力を生み出す、一番理想的な環境は、大勢の人間から自分だけが嫌われている、というものなのよ。自分に対して向けられた、攻撃的な感情に晒されることこそが、ダッデウドが効率よく魔力を作る方法なの」
「……」
「複雑な気分かしら? 多くの人に嫌われていたから、貴方は強くなれたのよ。嫌な思い出でしょうけど、いずれは感謝できる時が来るわ。ティルトがダッデウドとして完全に目覚めたら、どれほど強いのか楽しみね」
「……ベルさん。ひょっとして……私に嫌われるような言動を繰り返したのは、魔力を回復させるためですか?」
クレアが、ベルさんに白い目を向けた。
「あら、気付いた?」
「貴方は……私のことを、何だと思ってるんですか?」
「そんなに怒らないで。私、これでも貴方とは仲良くしたいと思ってるのよ? まあ、ティルトのことは譲るつもりはないけど」
「だったら、私達が仲良くするのは無理です」
「あら、冷たいのね」
最近まで嫌われ者だった僕を、女性が取り合う時が来るなんて……。
こういう状況を、普通の男性は喜ぶのだろうか?
それとも、悲しむのだろうか?
それすら、よく分からなかった。




