第12話
「さて、それじゃあ……3人で、お風呂に入りましょうか?」
「……!?」
ベルさんは、平然とした口調で、とんでもないことを言った。
「ティルトと一緒に、だなんて……絶対に嫌です!」
当然ながら、クレアは反対した。
「そう? せっかく、貸し切りのお風呂を予約したのに。だったら、私とティルトの2人だけで入ろうかしら?」
「冗談じゃありませんよ!」
僕が抗議すると、ベルさんは意外そうな顔をした。
「どうして? クレアはともかく、貴方が嫌がる理由なんて無いでしょう?」
「ありますよ! そんなの、絶対に良くないことですし……男だって、女性に裸を見られて、平気なわけではありませんから!」
突然、ベルさんが真顔になって、僕の頬に触れた。
「私、貴方のことが好きなの」
面と向かって、そんなことを言ってくる。
からかっているわけではなさそうだ。
ベルさんはとても綺麗な人なので、僕は動揺してしまう。
「……ティルト?」
クレアに、冷たい目で見られてしまった。
全身から冷や汗が噴き出してくる。
「私だって、何人かの男性にアプローチしてきたわ。でも、結局誰も、私を女として見れくれなかったの」
「本当ですか? ベルさんは、こんなに綺麗なのに……」
思わずそう言ってしまった。少し後悔する。
「まあ、嬉しい。そんなことを言ってくれるダッデウドは、貴方以外にはいなかったわ」
ベルさんは、満足そうに微笑んだ。
「……ベルさんは、ダッデウドの男なら誰でもいいんでしょう?」
クレアが、ムッとした様子で言った。
「そういうわけではないわ。私の基準は厳しいのよ? 虚弱すぎる男性は嫌いだし、女に対して関心の無い男なんて好きじゃないけど、あまりにも下品な欲望を抱いている男は気持ち悪いと感じるわ。女性に対する優しさは持っていてほしいけど、敵に回ったら、誰が相手でも容赦なく殺すくらいの迫力がないと駄目ね。顔だって大切よ。ティルトは、私の好みにピッタリなの」
「……それ、ティルトに会ってから考えたんじゃありませんか?」
「まあ、失礼な子ね。私だって、好きでもない男性に裸を見せたりしないのよ? でも、好みの男を見つけたら、どんなことをしてでも手に入れるのが、ダッデウドの女の正しい在り方よ」
「……そんな女性は、下品だと思います」
「異性の存在に困らない、オットームの価値観だとそうでしょうね。でも、子孫を残す権利を手に入れられるか、というのは、生きるか死ぬかの問題に等しいのよ? 貴方だって、ティルトを取られるかもしれない、と感じたら、焦燥感があるはずだわ。それこそが、自分の子孫を残したいという、人間の本能よ」
「相手が貴方みたいな人でさえなければ、私は別に……!」
そこまで言って、クレアは気まずそうにこちらを見て、顔を背けた。
「……私、この部屋で待ってます。お風呂には、二人で入ってください」
クレアは、不貞腐れたような口調でそう言った。
「クレア!?」
「そう、助かるわ」
「待ってください、ベルさん! 僕は、貴方のことが好きなわけでは……!」
「構わないわ。ダッデウドの男性は、オットームの女性の方が好きだっていうのは、当然のことだもの。でも、親しくなれば、気が変わるかもしれないじゃない。私は慌てたりしないわ。時間はたくさんあるから」
「……」
何だか、大変な事態に陥ってしまった。
結局、僕は1人で風呂に入った。
ベルさんには、1人で入らせてもらえるように頼み込んだのだ。
彼女は不満そうだったが、こちらの必死さが伝わったのか、何とか了承してもらえた。
旅で歩き疲れただけでなく、精神的にも、とても疲れた気分だった。
湯船の中でくつろいでいると、突然、風呂場の扉が開いた。
「……!」
僕は慌てる。
やはり、ベルさんが来たのだろう。一瞬でそう判断した。
しかし、違った。
「……クレア!?」
風呂場に入ってきたのは、タオルを身体に巻いたクレアだった。




