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白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


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最終話

 再び、ミスティ達の悲鳴が上がる。


 背中が熱い。

 ナイフが引き抜かれて、大量の血が溢れているのが感じられる。


「ティルト! ティルト、しっかりして!」


 叫びながら、駆け寄ってきたミスティが僕を揺する。

 その度に、背中に激痛が走り、意識が遠のいた。


「やめなさい! ティルトを殺すつもり!?」


 慌てて、ベルさんがミスティを突き飛ばす。


 ルティアさんが、傷口を布で押さえてくれた。

 しかし、おそらくは無駄な努力だろう。僕は、もう助からない。


「貴方達、諦めなさい」


 ルーシュさんが、顔を背けながら言った。


「姉さん……どうして、ティルトを殺すことに協力したの!?」


 激昂するベルさんに対して、ルーシュさんは悲しそうな声で語りかける。


「その子が危険だからよ。クレアが言っていることは正しいわ。ティルトは、おそらくゲドルドと同等の力を持っている。しかも、残忍な性格までそっくり。このまま生かしておいたら、ダッデウドにも深刻な被害を及ぼすことは明らかよ」

「そんなことはないわ! ティルトは私達のために、最後まで戦ってくれるわよ!」

「貴方が言っている『私達』って誰のことかしら? ダッデウドの社会にも内部対立があるでしょう? ティルトがどこかの派閥に加わったら、対立する人間は一掃されることになるわよ? 男は全員殺されて、女は全員性奴隷にされるでしょうね。しかも、ティルトは女を苦しめるのが楽しいみたいだから、飽きられた女はなぶり殺しにされることになるわ」

「そういうリスクがあったとしても、ダッデウドのためには必要な人よ!」

「でも、ティルトは、オットームに夢中みたいだけど?」

「……」

「ティルトがオットームの味方をして、ダッデウドを虐殺することが、私が一番避けたかった結末なの。可能なら、命を奪うことだけは避けたかったけど……」

「そんなにティルトが危険だと思うなら、クレアを殺してしまえば、ゲドルド効果は切れたはずよ!」

「クレアを殺したら、ティルトはダッデウドを敵視したはずよ。そもそも、私にはクレアを殺す理由が無いわ。必要があれば、オットームなら誰でも殺すなんて、貴方の考え方は間違っているわよ」

「姉さんは……いつも綺麗事ばっかり!」

「……綺麗なんかじゃないわ。私は、他のダッデウドを守るためにティルトを犠牲にしたのよ? それも、クレアに手を汚させる形で……。貴方と戦うことだけは、どうしても避けたかったから」

「自分が直接人を殺すことが、嫌だっただけでしょ!?」

「その通りだわ。最低の人間よ、私は……」


「ダッドさん……」


 ルティアさんは、複雑そうな表情を浮かべた。


「お母様……」


 レレは、ルーシュさんにすがり付くようにした。


「ごめんなさい。貴方達が、ティルトに対して好意を持っていることを知っていたのに……」

「仕方がないです。全てのダッデウドを守るためでしたら……」


 ルティアさんはそう言った。

 とてもショックな言葉である。


「ルディ、貴方……!」


 ベルさんはその言葉に憤慨した様子だったが、ルーシュさんは、そんな彼女に近付いて抱きしめた。


「分かって、ヴェル。ティルトは、貴方のことを嫌っていたのよ。このまま彼にのめり込むのを、見過ごすわけにはいかなかったの」

「姉さんは……私が、どれだけ……!」

「……ダッデウドの結婚相手が欲しいなら、貴方にはもっと相応しい人がいるわ。貴方の配下が保護した男の子が、既に里で待っているのよ。ダッデウドの女性に夢中で、年上好きの男の子……。きっと、貴方のことも気に入ってくれると思うの」

「……!」


 ベルさんは、ルーシュさんの言葉に動揺した様子だった。


 この人が、ダッデウドの男性ならば誰でも良い、といった価値観を持っていることは分かっていた。

 僕が、ベルさんが好きだった男性の代わりだった、ということも……。

 それにしても、あんなに僕のことが好きだと言っていたのに……。


「……いきなり、そんなことを言われても……」


 さすがに、ベルさんは躊躇した。

 しかし、ルーシュさんは諭すように言う。


「貴方がどんなにアプローチをしても、ティルトが貴方を好きになる可能性だけは無かったのよ。時間はかかると思うけど……いずれは忘れられるわ」

「……」

「何ですか、それ!? 貴方達は、ティルトを何だと思っているんですか!?」


 ミスティが泣きながら叫んだ。

 それに対して、ルーシュさんは首を振る。


「貴方は、ティルトに対する恋愛感情で、きちんとした判断が出来なくなっているみたいね」

「きちんとした判断ですって!? じゃあ、クレアにティルトを殺させることが、まともだっていうんですか!?」

「ゲドルドを殺したヴェルディアの評価が、一般的に高いことは事実よ」

「おかしい……! おかしいです、そんなの……! 自分に対して散々愛情を注いでくれた人を、自分で殺すなんて! そんな酷い人の、どこが称賛に値するんですか!? それに……色々な理由を付けていますけど、貴方達は、ティルトが生きていると不都合だから死なせるだけでしょう!?」

「否定はしないわ」

「どうかしてます! 人としておかしいですよ! 狂ってます!」

「ミスティ、ダッドさんを侮辱することは許さないぞ!」


 ルティアさんが憤るが、ルーシュさんは彼女の肩に手を置いて静止した。


「感情的に納得できないことは理解できるわ。でも、ティルトには死んでもらうしかなかったし、現実的に、彼を助ける方法は無いはずよ。貴方は、1人になって生きていくのは難しいでしょう? ここは、感情を押し殺して、ダッデウドの里まで来てもらいたいんだけど……」

「そんな所に、行くわけがありません! 貴方達みたいな冷たい人と、一緒に暮らせるはずがないでしょう!?」


「……そう。貴方はオットームだから、無理にとは言わないわ。クレアはどうするの?」


 そう尋ねられると、クレアは淡々と答えた。


「私は、可能であれば、ロゼットさんにもう一度会いたいと思っています。あの人に、ティルトを殺したことを報告したいので」

「そう……。手を汚してくれたことに、感謝しているわ」

「必要ありません。私の意志でやったことです」

「……そう言ってくれると、私は少しだけ助かるわ」

「何も変わりませんよ。人殺しです。私も、貴方も」

「……」

「クレア、お願い! ティルトを治して!」


 ミスティは懇願したが、クレアは一瞥して立ち去った。

 その背中に、ミスティは声をかけ続けたが、クレアが振り向くことは一度もなかった。


「さあ、里に帰りましょう。新しい仲間を紹介しないと……」

「嫌です!」


 ルーシュさんが自分を連れて行くつもりであることを悟り、ノエルが叫んだ。


「……まさか、貴方までここに残るつもり?」

「こんなに酷い裏切りをする人達と、一緒に行けるはずがないでしょう!? ティルトを死なせて、貴方達は心が痛まないんですか!?」

「……分かって。これしか方法がなかったのよ」

「分かりたくありません! 確かに、ティルトは酷いことをしました! でも……ヴェルディアは、貴方達と違って、もっと苦しんだはずだと思います!」

「ティルトがしたことを聞いたでしょう? 貴方自身も、男に酷いことをされそうになった経験があるはずよ? それなのに、貴方はティルトを許せるっていうの?」

「許せませんよ! でも……私が危ない時に、助けてくれようとしたのもティルトさんです! 貴方達は、ティルトさんに酷いことをされた被害者じゃないでしょう!? 単に、都合が悪いからティルトさんを死なせたいだけじゃないですか!」

「……」

「……近寄らないでください! 今の私に触ったら……どうなっても知りませんから!」


 後ろからノエルに忍び寄ろうとしていたルティアさんが、警告を受けて動きを止める。


 ノエルの魔法は、接触している人間を、跡形もなく消し飛ばすことができるのだ。

 しかも、彼女はまだ魔法を制御できないのである。

 今のノエルに迂闊に触れれば、彼女に殺意が無かったとしても、殺されてしまうおそれがあることは否定できない。


「……残念だわ。ダッデウドである貴方が、私達の所に来てくれないなん」

「勝手に仲間扱いしないでください!」

「……オットームの社会には、貴方の居場所なんて無いわよ?」

「知っています! でも、私は、このままティルトさんを放り出すような人にはなりたくありません! そして、そういうことを平然とできる貴方達が、オットームよりも良い人達だとは思えません!」

「……」


 これ以上の説得は無駄だと判断したのだろう。

 ルーシュさんは、レレの手を引いて歩き出した。

 その後ろに、ルティアさんとベルさんも付いて行く。


「……まさか、ノエルさんが残るなんて……」


 ミスティが、ぼんやりした様子で呟いた。


「勘違いしないでください。私がティルトさんを許すことは、一生ありません。それに……刺したのがロゼットさんだったら、私は受け入れたかもしれませんから」


 そんなことを言いながらも、ノエルは僕の傷を押さえてくれた。


 ノエルも、ミスティも、優しい子だ。

 ダッデウドとして目覚めた後は、欲望に任せて生きてきた僕には、もったいない女性達である。


 せめて、最期に「ありがとう」とだけ言いたいと思った。

 しかし、それは叶わないようだ。


 遠のく意識の中で、僕は彼女達に感謝の言葉を告げた。

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