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白銀の簒奪者  作者: たかまち ゆう


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第99話

 僕達は、アンナという名前の黒髪の使用人に、別荘の中を案内してもらった。

 歩きながら、先ほどの出来事について考える。


 スピーシアは、僕達の全員について、心の奥底で言ってほしいと思っている言葉を見抜いた。

 到底信じられない、神がかった芸当である。


 ルティアさんとベルさん、そしてレレのことは、事前にルーシュさんから聞いていたのかもしれない。

 僕に対して言ったのは、誰でも思い付きそうなレベルの言葉である。

 クレアに対して言ったのも、当たり障りのない言葉だった。


 しかし、ベルさんがルーシュさんに対してコンプレックスを抱いていることに、ルーシュさん自身が気付いているかは分からない。

 気付いていたとしても、そんなことまでスピーシアに伝えるだろうか?


 さらに、ミスティに言ったことは、事前の調査なしで分かるようなことではない。

 自分が見た人物の些細な反応から、あんなことまで見抜くなど、信じ難いことである。


 そして、ノエルに言ったことは、通常であれば、初対面で伝えるべき言葉ではないだろう。

 あんなことをスピーシアのような立場の人間に言われたら、不快になる人間だって多いはずだ。

 きっと、僕が言われたら、不愉快だと感じたのではないかと思う。

 人によっては、激昂してもおかしくない。


 だが、スピーシアはそれを言った。

 ノエルは素直な女の子だ。あの言葉で怒るような性格ではない。

 その絶対の確信がなければ、口に出してはいけない言葉だったはずである。


 それを言ったのは、スピーシアが無神経だからではないだろう。

 自分があれを言ったとしても、ノエルが怒らないと確信していたからだ。

 そんなことを、あの女性は初対面で見抜いてしまったのである。

 スピーシアは、心を読む魔法でも使えるのではないだろうか?


 僕達は、とてつもなく危険な人物と出会ってしまった。

 皆の様子を見ると、ルティアさんやベルさんは、同じように感じているようだった。


 一通り別荘を案内してもらった後で、僕達は食堂に通された。

 そこには、既に料理が用意されており、スピーシアが席に着いていた。

 その傍らには、サーシャという名前だと紹介された、先ほどの金髪の使用人がいる。


 加えてもう1人、先ほどはいなかった使用人がいた。

 ブラウンの髪の、とても美しい女性だ。

 僕は、その女性に見覚えがあった。


「君は……!」

「あ、貴方達、どうして……!?」

 僕とベルさんを見て真っ青になり、後ずさった女性は……カーラだった。


「まあ、貴方……ティルト様達とお知り合いでしたの?」

 スピーシアがそう言うと、ベルさんが怒りを押し殺すように言った。

「その女は、ダッデウドの少女を殺したも同然なのよ。今この場で、死んで償うべきだわ」

 ベルさんがそう言ってカーラを睨み付けると、カーラは震え上がった。


「カーラ、こんな場所で粗相をしてはいけませんよ? これから、ここで食事をするのですから」

 何故か楽しげな様子で、スピーシアは自分の使用人に言う。

「も、漏らしたりしてません! 人前で、そういうことを言わないでください!」

 カーラは、顔を真っ赤にして言った。

「事前に済ませておいたようですわね。感心ですわ」

 スピーシアは、変わらず楽しそうな様子だ。

 まるで、状況を理解していないかのような態度である。


「残念だけど、ここで食事なんてできないわ。今すぐ血の海になるんだから」

 ベルさんが冷たい声を発する。

 本当に困ったことだが……こういう時のベルさんは、いつにも増して綺麗に見えるのだ。

 そんなことを考えている場合ではないのだが、ついそんなことを思ってしまった。


「ヴェル様。ミアという女の子の話でしたら、私もカーラから聞いて存じ上げておりますわ。ですが、その一件で、カーラには悪意が無かったのです。許してあげてください」

「許せ、ですって? その女がミアを勝手に連れ出したせいで、私達は大切な仲間を失ったのよ?」

「カーラがそのような行動をしたのは、ヴェル様がお金を盗んだために、不信感を抱いたからでしょう?」


 スピーシアは、僕とベルさんにとって知られたくなかった秘密を暴露した。

 その言葉に、クレア達が激しく反応する。


「本当なんですか、ベルさん!?」

 クレアに詰め寄られて、ベルさんは鬱陶しそうな顔をした。

「……ミアを養うために、仕方がなかったのよ」


 そう言ってベルさんは取り繕ったが、スピーシアは首を振る。

「嘘ですわね。そのために金貨を何枚も盗むなんて、どのような贅沢をさせるつもりだったのでしょう? 罪悪感があったとは思えませんわ」

「相続したお金で贅沢な暮らしを送っている貴方に言われると、凄く腹が立つわね」

 そう言いながら、ベルさんがスピーシアを睨んだ。

「いけませんわ、他人を妬んでは。まあ、それはともかく……カーラは、決して悪い子ではありませんわ。ゴドルという男に飼われ、色々と酷いことをされていたミアという少女に対して、親身になって接していたのでしょう? 結果は残念でしたが、ヴェル様の元から逃げ出したことも、状況的にやむを得ない行為だったと思いますわ」

「一番問題なのは、ミアを死なせたという結果よ」

「そうですか。しかしながら、カーラは私の大切な使用人ですわ。むざむざ死なせるわけにはまいりません」


 そう言うと、スピーシアの顔から笑顔が消えた。

 彼女は立ち上がって、ベルさんを見据える。


 この人は、笑顔が魅力的だが……無表情でも、やはり美しい。

 やはり、スピーシアもダッデウドなのだ。そのことを再認識する。


「……やめましょう。ダッデウド同士で殺し合うなんて、不毛だわ」

 ベルさんは、思ったよりもあっさりと引き下がった。

「そうですわね。私達にとって、これからが大切な時です。仲間は大切にしなければなりませんわ」

 スピーシアは、あえて仲間という部分を強調した。


 ベルさんが悔しそうな顔をする。

 自分にとって不利な情報を暴露され、スピーシアに軽くあしらわれてしまった。


 どうやら、ベルさんは、駆け引きのようなものが苦手なようだ。

 ダッデウドは欲望に忠実で、それを押し通すための圧倒的な力を持っているために、単純な実力勝負が得意なのだろう。

 ノエルの時のように、相手が明らかに挙動不審ならば対応できるのだろうが……スピーシアは、ベルさんとは比べ物にならないほど、緊迫したやり取りに慣れているように見えた。


 スピーシアに隙は見せられない。

 カーラが安心した様子で息を吐くのを見ながら、そのことを改めて認識した。

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