寝取ってはいないNTR風味プチざまぁ。
おまたせ!
皆大好き☆副題が酷い回だよ!!
残ったもうひとりの騎士、ヘクター。
長身痩躯で美しく整った顔立ちの彼は、さながら『舞台俳優の騎士』といった容貌。
そんなイケメン騎士であるヘクターは今、穏やかな表情でダニエルと馬を見守るように眺めている。
(くっ……! どういうことだ!!)
ただし、この上なく不機嫌なのを隠しつつ。
その内心は全く穏やかではない。
ヘクターはダニエルの想像通り、馬車に細工をしてはいない。
そもそも問題になるようなことをやるなら、脳筋のクリフォードを上手いこと言いくるめて矢面に立たせるのが彼の常。
自分の手は極力汚したくないタイプといえる。
だがクリフォードを唆すにせよ、馬車に細工などというのは論外。
警護対象者の危機、それは下手したら自身の経歴に傷がつきかねない失態。ヘクターは権力志向が強いので、わざわざそんなリスクの高いことはしないのだ。
勿論ダニエルへの反発はあるので、事故時にすぐ動くことなく静観を決め込んでいた。
しかしヘクターはダニエルが発言をしてすぐ、シレッと……あたかも自分の意見も同じであったかのように立ち回っている。
この要領の良さからでもお察しの通り、彼は『腹黒』とネイサンが評したままの人物と言っていいだろう。
そんな腹黒なヘクター。
馬車に細工などしてはいないが、彼にも目論見はあった。
その為にキースことアデレードを上手く唆し、計画を変更させたのは彼である。
ヘクターは、自身の風魔法を使用し自然現象に見せ掛け、さりげなく馬車を止めようと考えていた。
あくまでも、止めるだけ。それなら方法はいくらでもある。
無論、御者に対する気遣いなどではない。自然現象なら疑われないし、保身的な意味でのダニエルの安全の確保から。
彼の目論見、それは──自分の愛馬をダニエルに貸すこと。
元々彼の計画では、もっと城壁近くまで走ったところで決行する予定だった。馬車が損傷していなくとも、『念の為』という体で、言いくるめるつもりで。
騎士にとって馬は大事な相棒であり、主から賜りしもの。
権力志向の強い彼は、それを貸与し城壁へ向かうことでアデレードに忠義を示し、この先の自身の地位を盤石にしようという魂胆を抱いていたのである。
そしてただ反発心のある脳筋と違い、同時にダニエルに恥をかかせようと目論んでもいた。
ヘクター自慢の愛馬であるドルチェはとても賢く、気位が高い。
暫くは我慢しダニエルを乗せるだろうが、途中で荒れてくるに違いない……という想定。
そこを風魔法で助け、今後の自分の(以下略)。
しかも『馬も満足に乗れない都会の軟弱者』との評判がアデレードに知れれば、ダニエルは幻滅されること請け合い。
(王命なので婚姻は覆らないが、離縁はできる。 今は単なる嫌がらせに過ぎないが、婚姻後の風向きによっては後釜を狙うのもいいだろう)
なんだかんだで手筈が整ったヘクターは、密かにほくそ笑む。
(ちょっとタイミングは早いが、助けたあとに言いくるめてふたり乗りすればいい。 ……ふっ。 麗しい女性以外乗せたくはないのだが、仕方あるまい)
──等と考えていたヘクターだったが。
(何故だッ!)
その目論見は脆くも崩れ去っていた。
いつまで経ってもいきり立たないどころか、ご機嫌にダニエルを乗せているドルチェ。
それは『なんなら自分を乗せている時よりもご機嫌なんじゃないか』とヘクターが感じる程。
(何故そんなに機嫌良く乗せているドルチェェェェ!?)
恥をかかせるどころか、完全に『彼女を寝取られた男』みたいな気持ちにさせられている。
(いや、まだこれからかも……!)
「若旦那様……その、私の愛馬の乗り心地は如何です?」
信じたくない光景を否定すべく、気遣いのフリをして様子を窺うヘクター。
しかし、
「ドルチェと言うんだ。 実にいい馬だね」
『馬も満足に乗れない都会の軟弱者』と思いきや、意外なことにダニエルは馬に乗り慣れている様子。
乗りながら彼が首筋を撫でると、ドルチェはブルルと嬉しそうに鼻を鳴らす。
こうなるともう信じるよりなく……表向きはにこにこしながらも、それを見て歯噛みせざるを得ない。
(嗚呼っ……ドルチェ……ッ!!)
──ギリギリギリッ
(なんたる屈辱──!!)
歯噛みしすぎて口の端から血が出てしまい、慌てて袖口で拭く。
大袈裟ではなく、凄まじい嫉妬──それもその筈、ヘクターはその見た目と外面の良さから女性にモテるが、彼は女性よりドルチェが好き。
自身の腹黒さ故、基本的に老若男女問わず人間を信用していないヘクター。
彼はチャラ男を装った堅物であり、『麗しい女性云々』は単なる拗らせ童貞イケメンの脳内戯言に過ぎない。
そして人間不信故、とても動物好き。
『動物は裏切らない』──少なくとも人間よりは。しかも可愛くて癒される。
特にドルチェは懐いてくれるまで時間が掛かった上、苦楽を共にするようになってからは期待以上に尽くしてくれている。
無償で注ぐ愛、それにより育まれた信頼、そして……返してくれる自分への献身。
こんなかけがえのない相棒に、強い愛情を抱かずにいられようか……否!(反語)
なんなら本当は美女でも乗せたくないが、ヘクターは拗らせ人間不信なので、どうしても権力は欲しいのである。
(くぅぅっ! 何故そんな男に……はっ! お前を私欲の為に利用しようとしたのがいけなかったのか……!?)
自分をよそにイチャイチャしている(※ヘクター目線)ダニエルと愛馬。
(すまないッ、ドルチェ!! 私を捨てないでくれぇぇ!)
ひとりと一頭で培ってきた日々はいずこ……脳裏にドルチェとの想い出が走馬燈のようにキラキラと過ぎり出す程、ヘクターは追い込まれていた。
【どうでもいい裏設定】※容量多め
散々ヘクターの中で脳筋呼ばわりされているクリフォードだが、人間不信のヘクターにとって脳筋は褒め言葉に近い。(近いだけで褒めてもないが、愛せる範疇)
外面のいいヘクターだけでなくクリフォードも女性に対し優しく紳士なのでモテる。(血気盛んで短絡的なところはあまり知られてない様子・一見寡黙な硬派)
これは、脳筋さ故の思春期暴走を恐れた母カトレアが息子クリフォードに対し『女の子は兎に角丁寧に優しく扱い、みだりに触れてはいけない』という躾を厳しく行った為。
ちなみにクリフォードの婚約者は、ヘクターに似た美しい彼の妹・リナリー(16)。
ヘクターとはタイプの異なる、引きこもり系陰キャ。
兄とは違い、クリフォードを『逞しく頼れる人』と素直に好意を抱いている。
ヘクターとリナリーは特に仲良くないが、悪くもなく、幼い頃からなにかと気にかけてくれたのはクリフォード。
それもあってかリナリーは、節度を弁えながら溺愛してくるクリフォードに対し『妹扱いされている』『私では不釣り合い』などと思っており、ちょっと拗れるがそれはまた別の話。
早々にネイサンの婚約者となったフェリス(やはり幼馴染み)のことは姉の様に慕っている。
ネイサンともそれなりに仲が良いが、ネイサンはなんかちょっと怖い。
フェリスはネイサン達のふたつ上。
ネイサンは澄ました顔した一途なドエロ。
クリフォードとヘクターという面倒臭いふたりを上手くいい方へ誘導したのがネイサンであり、同い年だがふたりは彼を特別視している。
クリフォードとヘクターのダニエルへの苛立ちは、そこも関係している。
残念だが、そこにBL要素はない。




