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僕はロマンス小説のヒロインかッ!?~婚約破棄されたモブ令息は辺境伯家に婿入りする~  作者: 砂臥 環
第二章:不思議な婚約者とその裏事情

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12/87

婿殿は憂いながら無自覚に攻撃をかます。①


執務室を出ると、ダニエル付きになる従者が待っていた。

小柄な優男風だが、スラリとした肉体は所謂細マッチョ。温厚そうな顔立ちで、細いキツネ目の中に油断ならないものがある。

なにしろ辺境。従者ではあるが護衛も兼ねているのだろう。


彼の名はネイサン。

フェリスの夫であり、辺境伯家傍系の青年である。

尚、相談の末フェリスは一旦下がらせた模様。


「なんでもお言い付けくださいませ」


彼はそう恭しく頭を下げると、キースを一瞥して部屋へと案内する。



通された部屋は、辺境伯邸の規模や設えと同様になかなかのモノ。雰囲気こそ違えど王宮に引けを取らず、与えられた自室のみを言うならこちらが圧倒的に上。

応接間と大きな執務机のある部屋の先には、プライベートスペース。こじんまりと纏められた室内は華やかではないが品があり、家具の質が良くとても落ち着けそうだ。

ベッドも窓際に置いてはあるが、続き間の扉があるのでメインの寝室はそちらになるのだろう。


扉の向こうはおそらく、夫婦の寝室。

客間ではなく『婿』としての部屋に通されたことが、ダニエルを複雑な気持ちにさせた。


(使うことなど、あるんだろうか)


続き間の扉の向こうを確認する気にはなれず、応接間に戻る。

既にキースが座っているソファの向かいに腰を下ろした。

キースがネイサンに茶を頼んだらしく、彼は既にいない。


長椅子に腰を掛け長い脚を組むキース。

向かいのダニエルと目が合うと、柔らかく微笑む。


(綺麗だな)


それは、美醜には然程こだわりのないダニエルでも見惚れる程の美貌。

暫しそれを見詰め、ダニエルは肩を落とした。


(……そもそも何故キース君がアデレード様のご予定を把握しているのだろう。 彼はアデレード様の騎士なのかな?)


なんせ(キース)は美貌の竜騎士である。

そしてアデレードはここの姫君……そう考えるのが妥当だろう。


歓迎してくれているキースと婚約者との関係を疑ってはいないが、頼りになる美少年が傍にいること自体、不安だ。

少なくとも、彼女の理想が高い可能性は大いに考えられる。


小さな溜息に続けて息を吸い、ダニエルは思い切って尋ねる。


「キース君……アデレード様はこの婚姻が不本意なのでは?」

「えっ?!」


それはキース(アデレード)にとって、思いもよらぬ質問だった。




(言われてみれば、そう取られても全然おかしくない!)


なんだかんだ『キース』として動くと決めたが、衝動的行動につき、そのへんのダニエルの心情には無配慮。

別人とした割に、アデレードである自分が抜けていなかったキースは焦った。


「いやそんなことは……!」

「いえ、いいんだ。 答えにくいことを聞いてしまってごめん」


そうへにょりと力なく笑うダニエルに罪悪感を感じつつも、今『はーい! 実は私がアデレードで~す♪』と言い出すことにも躊躇いがある。

そこに明確な理由など、存在しない。

強いて言うなら『ドッキリで想定外の反応を取られてしまい、ネタバラシできなくなった感じ』だろうか。(わかりづらい)


(違うんだー!! ああっ! でも言えないッ)


困った末、キースは絞り出すように言う。

どうにか伝わって欲しい。


「ダニー……本当に違うよ?」


だがダニエルはまた情けない笑顔を向けるだけで、それには返さない。

代わりに本来聞くはずだったアデレードの予定のことを切り出すと、それにキースが返答する前に更に続けた。


「なるべく彼女の希望に添いたいし、ご負担をお掛けしたくはない。 折角だけどアデレード様のご予定は今はいいよ」

「ダニー……」

「ただ……どうしたら彼女が無理なく交流できるかを君に相談したくて」



なにぶん婚姻式まで日がない。


先程のユーストの説明によると、とりあえずは婚約者としての招聘であるそう。

女性とは違い、妊娠の心配がない男性。婿入りに長い婚約期間は必要がないが、1ヶ月から3ヶ月の婚約期間を取るのがこの国の慣習。

そんなわけで1ヶ月後、婚姻式が行われる。

結婚式はその後、春になってからだ。


てっきりそんなのは関係なく、すぐ婿入りだと思っていたダニエルは少し安堵していた。

これはチャンスだ。できれば婚約者であるこの期間に、なるべくアデレードと交流を持ち、信頼を勝ち取りたい。



「婚姻は決定事項なだけに、少しでも心の内を聞かせて頂ければ、と……なによりアデレード様にご負担を強いることも避けられるのではないかなって」

「──」


──トゥンク


(……えっ?)


今まで聴いたことのない妙な音を胸から感じ、キースは動揺した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] トゥンク♡ 今更かよ!と思ったが、ズボンを脱がしてのトゥンクじゃ何に対しての胸の高鳴りか分かりませんよね。 [気になる点] ①ネイサン。優男風だが細マッチョ! ②フェリス結婚していたの⁈ …
[良い点] トゥンクきたぁーー! これは女の顔になる前兆か! わくわくですぞ!
[一言] 無自覚パンチキターーー!!!!(大歓喜)
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