第16話 こたつ会議と『漢』の宿題
「こういう時はあれだろ?男が仕切って何とかすると言うのが定番なんじゃないか?なあ、神前!ここまでアメリアの提案を貶してきたんだ。何か良いアイディアの一つや二つポンポン出てきて当然だよな……なんと言っても『近藤事件』、『バルキスタン三日戦争』そしてこの前の『同盟厚生局違法法術研究事件』どれでもちゃんと結果を出したアタシが自慢できる立派な男の部下なんだ。当然そのくらいの事は出来て当たり前。アタシに恥をかかせるんじゃねえぞ……当然できるよな?」
得意げに語るかなめの視線が隣の狭苦しそうにひざの先だけコタツに入れている誠に向いた。
「へ?僕に何か期待してるんですか?『もんじゃ焼き製造マシン』のおかげで友達のほとんどいない僕にですか?確かにいい例えだなあとは思いますよ、その表現。僕は下町の生まれなんで、もんじゃ焼き屋とか実家の近くに沢山ありますから。その前を通るたびに乗り物の事を思い出して中で作ってるもんじゃ焼きみたいなのが胃の中で製造されて吐く。だから『もんじゃ焼き製造マシン』。でもそんなこと自慢になります?西園寺さん、そんな僕に素敵な女性のもてなし方を考えることを期待するなんてことは無理があると思いませんか?そもそも彼女いない歴=年齢の僕に一体何を期待しているんですか?それにここは『モテない宇宙人』の国東和共和国ですよ。モテる元地球人の国『甲武国』じゃないんです。そんな妙な価値観で男を見ないでください!」
その『もんじゃ焼き製造マシン』体質から友達のほとんどいない誠にパーティーの企画を頼むこと自体が無茶苦茶だと思いながら誠はそう言った。そもそも友達のほとんどいない誠にはパーティーなどと言う物には出た経験自体が無い。誠の吐瀉物を見たくないという理由でその少ない友人からもほとんど遊びに誘われた経験のない誠にとって遊びの企画を立てることなどそもそも不可能に近かった。
「言うじゃねえか……でもそれはこれまでの『何もできない見てくれと身長とアレがでかいだけの男』だった時のオメエの話だ。オメエはな、もうすでにそれだけの結果を出してるんだ。『近藤事件』。巡洋艦一隻にシュツルム・パンツァー6機撃墜。これが地球人の女だったら抱き着かねえ女は居ねえ。ああ、アタシは遼州人とのハーフだから関係ねえけどな。『バルキスタン三日戦争』。一瞬で数十万の政府軍反政府軍を行動不能にした。こりゃあ、地球の軍隊なら桃色接待間違いなしだ。でもここは遼州人の国の東和共和国だからそんなものはねえ。『同盟厚生局違法法術研究事件』ここではあの正式採用された07式を一方的にボコ殴りにした挙句、現れたあの不死人製造プラントのナマコの化け物を一方的に切り伏せた。こりゃあ、地球の英雄伝説の始まりで、そこは恋の一つや二つ生まれるものだがここは遼州圏だ。恋の生まれる余地なんてねえ。ただ……地球圏ならモテ男の条件をすべて満たしている運命の男である以上、オメエには義務がある。『モテない宇宙人』である遼州人であるオメエにも地球人の文化は容赦なくその義務を与えるんだ。ちゃんとその義務に答えろ。それが上官であるアタシ等に対するオメエの礼儀だ」
かなめの理屈は通っているようで通っていない。誠はこんなことを言われるのなら今の条件なら地球圏のどこかの政府が自分をそれなりのモテモテ待遇で扱ってくれるんじゃないかと期待して本気で地球への寝返りを考え始めていた。
「かなめちゃん言い過ぎ、そんなことをして誠ちゃんがただ『モテたい』というだけでその能力を高く買って素敵な女性をたくさん用意してハーレムを建設してくれると言う条件で地球圏に寝返ったらどうするのよ。そうね、でもかなめちゃんの言うことの一部には真理は有る。たとえ友達が少なくとも真の『漢』を目指している誠ちゃんなら素敵なパーティープランの一つや二つなんて簡単に出来るはずよ。人の望むもの……その人が自分を求める女だったりしたら当然その望むものを手に入れるべく死力を尽くす。それが真の『漢』。ランちゃんもいつも言ってるじゃないの『漢になるまで恋愛禁止』って。つまり、『漢』になりさえすれば誠ちゃんは恋愛し放題なのよ。つまりモテモテ。誠ちゃんは私のゲームのヘビーユーザーなんだからモテモテになりたいんでしょ?ハーレムエンドを迎えたいんでしょ?だったらそれが一番じゃないかしら?コンセプトは誠ちゃんの『漢化』! 甲斐性は鍛えるもの!恋はご褒美!きっとランちゃんならそう言うわよ♪はい決まり。誠ちゃん、宿題。『漢化プラン』提出!」
同意するアメリアの視線がカウラに向く。カウラの頬が朱に染まり、ゆっくりと視線が下に落ちた。二人の視線が触れては外れ、また戻る。コタツの天板の木目だけがやけに細かく見え、みかんの白い筋が指先にまとわりついた。
「もう!カウラちゃんたら!モテモテの誠ちゃんを想像して嫉妬なんかしちゃってるのね!本当にかわいいんだから!」
そう言ってアメリアはカウラにコタツの中央のみかんの山から一つを取って彼女に渡した。
「ほら!おごりよ。遠慮しないで!」
アメリアの良く分からない気遣いにカウラはどうしたらいいのか分からないような顔をした。
「あっ……ああ、ありがとう?」
とりあえず好意の表れだと言うことはわかったというように、カウラがおずおずと顔を上げて、アメリアから渡されたみかんを手に取った。そしてかなめとアメリアが薄ら笑いを浮かべながら視線を投げつけてくるのを見て困ったように誠を見つめた。
誠も隣で身体を摺り寄せてくるかなめを避けながら視線をカウラに向けた。
その様子に気付いたのはかなめだったが、自分が仕向けたようなところがあったので手が出せずにただ頭を掻いて眺めているだけだった。アメリアはすでに飽きてひたすら端末をいじっているだけだった。
警備室に一瞬、なんだか空気が悪くなる『の』が流れるのを感じて誠は逃げ出したい衝動に駆られるのを必死に我慢していた。
そんな時、整備班が手を入れた軽自動車の、独特な高回転アイドリング音が聞こえてきて、ドアロックがぽんと軽く跳ね、ピンクのダッフルがふわりと揺れた。
「あ!誠ちゃんとカウラちゃんがラブラブ!」
そこに突然響いたデリカシーのない女性の声に誠はゲートの方を振り向いた。
ピンクのふさふさの髪と笑顔のサラの顔が見えた。冬らしいピンク色のダッフルコートに身を包んだ彼女の後ろには彼女のポップなピンク色の軽自動車が停まっていた。
「サラは帰りなんだ。作業の方は終わったの?」
アメリアにとってはサラの存在はゲームを作る一従業員に過ぎなかった。それ以外の関心はまるで無いというようにアメリアはサラに向けて厳しくそう言ってのける。
「終わったわよ!かなめちゃんのおかげであとはアメリアの最終デバッグを待つだけ!後は自分に任せろって言ったのはアメリア自身なんだからこれから先はアメリア一人で何とかしてね!ここでまたパーラちゃんにお願いするとか言ったらさすがのパーラちゃんもキレちゃうかもよ!」
帰ってきてすぐに顔を出した修羅場での死んだ表情はそこには無く、アメリアの問いに元気良く答えるサラがあった。
「じゃあゲート開けて!明日の基地祭で警備を担当する正人にケーキを差し入れしなきゃならないんだから早く準備に取り掛かりたいの!急いで!」
島田と付き合っている隊で唯一の彼氏持ちの女子であるサラの言葉に部屋中の女子の雰囲気がどんよりと重くなる。その重い雰囲気に負けて仕方なくせかせかと歩いていった誠がゲートの操作ボタンを押した。
「ありがとうね!誠ちゃん!明日は基地祭で誠ちゃんがヒーロー扱いされると思うから色々頑張ってね!私は隊に居るけど困ったらアメリアの運転手として同行するパーラに連絡すればすぐに駆け付けるから!」
サラはそう言うとそのまま走って消えていく。誠は疲労感を感じながらそのままコタツに向かった。
「なんやかんや言いながら自分も結局パーラを頼りにしてるんじゃないの……それにしてもタフよねえ。サラは。さっきまで死にかけてたのにもう復活してるなんて。いいなあ、サラには島田君が居るから。クリスマスの予定もきっと決まってるんだわ。いくら中学生並みの付き合いとは言えまさに今回のテーマである『ふれあい』はクリアーできそうな関係だもの……それなのに私達ときたら……」
そう言いながらアメリアはもう五つ目のみかんを剥きながらいつもの糸目で誠を見つめていた。
「まあ元気なのは良いことじゃないのか?それにアイツ等の『青春ごっこ』でどこまで行くかって……いいとこキスどまりってのが限界じゃないのか?恋人たちのクリスマスって感じじゃ無いだろ。あんなのは子供の遊びだ。甲武だったらそんなの5歳のガキだってやってるような付き合いだ。さすが『モテない宇宙人』の国だな、この東和は」
同じくカウラはみかんを剥いた。かなめは退屈したように空の湯飲みを握って二人の手つきを見比べていた。
「どうしたのよ、かなめちゃん。計画はすべて誠ちゃんが立ててくれることになったからって……」
アメリアはいつも通り誠の意志や発言を完全に無視して自分の決めたことを誠が実行することを前提に話始めようとした。
そのアメリアの端末が着信を告げた。アメリアの端末に『基地祭目玉は歴戦の最強シュツルム・パンツァー05式乙型搬入/来場見込み:三万人』の文字が点滅した。誠の胃がきゅっと鳴る。
誠はその文字とそれが意味する事実を忘れようとして話題を逸らそうとした。『三万人』のところで、誠の胃がきゅっと縮んだ。
「アメリアさん。いつ僕がすべてを決めると言いましたか?そんな無茶なこと振らないでください。そもそも僕にはそんなことはできないとさっき僕ははっきり言いましたよね?アメリアさんは人の話を本当に聞かない人なんですね?」
異論を挟む誠だが、口にみかんを放り込みながら目の前の向いたミカンの皮を器用に並べて星形を作って喜びつつも眉を寄せるアメリアを見ると反撃する気力も失せた。
「……わかりました……帰ったら考えます」
誠はそう言うのが精一杯だった。
アメリアは誠を見て満足げに笑う。その時、終業のチャイムが頭上のスピーカーでぴいんと鳴り、扉の隙間から入り込む外気が足首を撫でた。誠は親指をぎゅっと丸め、『帰ったら本当に考える』とだけ心の中で言い聞かせた。




