39 魔法使いさんと走る馬車 ※リーディアSIDE
「本当に、間に合うでしょうか」
会場に向かう馬車の中、ディエゴはマーカスに問う。
「レヴァルは草原の民にとって、結婚式よりも重要視される儀式です。その開催時間はそれなりに長いでしょうね」
「それってどういうことなのよ?」
「間に合うの? 魔法使いさん、間に合うの?」
「レースはこの儀式の大トリだから、やるとしたら最後だ。今頃は各部族による余興合戦だと思いますよ」
ニコニコ笑っているマーカスに、金銀の催促娘は安心したように微笑む。
しかし、ディエゴは暗い顔のままだ。
実際のところ、間に合うかどうかは厳しい。
レースは日が昇るうちに行うものだから、一日の日照時間が少ないこの季節、そろそろレースに着手していてもおかしくはない。
それに、レースの後の祝賀会を考えると……。
「ディエゴ君」
悪い方向にばかり考えが及ぶディエゴに、マーカスは優しく声をかける。
「大丈夫。君が気負うことはありません」
「……ですが」
「間に合わなかったら、ちょっと私がブーイングされるだけです。それに、私達が心配しすぎなだけで、リカルド君が勝つかもしれません。ね、そう考えたら、気楽なものでしょう」
ちょっとブーイング。
この人にかかったら、草原とルビエールの絡むレヴァルも、子どもの喧嘩の仲裁のようではないか。
目を丸くした後、思わず失笑するディエゴに、金銀の六歳児二人も釣られてコロコロ笑っている。
青い顔をしているのは、不幸なる引率の侍女サーシャだけである。
「ほら、そろそろ着きそうですよ」
マーカスの言葉に、リーディアは馬車の座席の上に立ち、窓から首を出して外を見た。
「こら、危ないですお嬢様!」とサーシャに叱られたけれども、お行儀が悪いことも、今のリーディアは気にしていられない。
そんな彼女の紫色の瞳に、会場と思しき建物が映った。その建物の中からは、歓声が鳴り響いている。
「魔法使いさん、あそこ!」
「やあ、賑やかだ。もしかして、もう始まってしまったかな」
「!? 魔法使いさん、急ぐの!」
「そうよ、急ぐのよ!」
「うんうん、馬車が止まったら急ぎましょう」
「急ぐのー!」
魔法使いさんの両手をエルヴィラと共に両側から引っ張りながら、リーディアは窓の外を見た。
(パパ、ママ! 待ってて! 今、リーが助けに行くの!)








