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25 無粋な割り込み



「なんだ、面白いことをしているじゃないか」



 リカルドの背後から快活な声を上げたのは、タシオ=テオス=タラバンテ。

 赤い豪奢な民族衣装を身にまとった彼は、リカルドにニヤリと笑うと、彼を横切り、ずかずかとテラス席に入っていった。

 慌ててリカルドもテラス席へと追いかける。どうやら、三人の会話を注視しすぎて、彼は後ろにいるタシオに気が付かなかったらしい。


 わたしは無遠慮にテラス席に入ってきた乱入者とそれを追いかけるリカルドに、目を丸くした。


「タシオ? えっ、あれっ、リカルド!?」

「……マリア」

「待って。もしかして聞いてた? 今の、聞いてたの?」

「……」

「ちょっと、リカルド!?」


 顔を真っ赤にして慌てるわたしに、リカルドは緩む頬を隠すためか、口元に手を当てながら目をそらしている。

 タシオはそんなわたし達を見て、ふんとつまらなさそうに息を吐いた後、レイモンドに近づいた。


「惚れた女を正面から奪いにいく気概。気に入ったぞ、レイモンド。お主の誇りは、草原の民のものと変わらない」

「……盗み聞きは、誇り高い行為とは程遠いと思うぞ」

「ははは! 言うじゃないか。それでこそ、我らと対等に並び立つ友に相応しい」


 喜ぶタシオに、レイモンドは引きつった笑いを浮かべている。

 わたしはあまりの態度に、タシオに苦言を呈した。


「タシオ! もう、本当にデリカシーがないんだから!」

「マリア。お前、まだ子がいないらしいな」

「えっ?」


 子ども?


「子を連れてきているが、それは義理の娘だと聞いた。ならば俺も躊躇うまい」


 そう言うと、タシオは突然わたしの手を取り、なんと口づけを落としたではないか!


 わたしは仰天して振り払おうとしたけれども、想像以上の力でがっちり握られてしまい、手を奪い返すことができない。

 リカルドもレイモンドも青ざめているし、ルシアおばあ様は「ちょっと!」とその場で立ち上がっている。



「レヴァルだ。私、タシオ=テオス=タラバンテは、その生涯一度きりのレヴァルを、あなたに捧げよう」



 レヴァル?

 生涯、一度きり?


 わたしは何を言われているのか分からず、けれどもタシオの満足そうな笑みに、ただ嫌な予感だけがして、冷や汗をかく。


 我に返ったリカルドが慌ててわたしとタシオの間に割って入ってくれたので、わたしは立ち上がってリカルドの陰に隠れたけれども、タシオは挑戦的な笑みを浮かべたまま、余裕のある様子だ。


 わたしも、リカルドも、レイモンドも、タシオが何をしたのかが分からない。

 ただ、ルシアおばあ様だけが、飛び上がるようにして叫んだ。


「タシオ君、何を言っているの! マリアさんは、うちの嫁よ! 草原の民じゃないのよ!」

「ルビエール辺境伯領の民は、草原の民を尊重すると契りを交わしたはずだ」

「だ、だけど、マリアさんは、うちの嫁なのよ! 草原にやったりしないわ!!」

「それはレヴァルの結果次第だな。詳細は追って告げる。今日はここで引き上げよう」


 わなわな震えるルシアおばあ様に、タシオは朗らかに笑うと、わたしにウィンクをして去っていった。


 一体なんなのだ、あの男は! わたしは結婚していると言っているのに、もう!


「ルシアおばあ様、一体あれはなんなんです?」

「まずいわ。どうしましょう、どうしたらいいの? わ、わたくしでは、どうしようも」

「おばあ様?」

「マリアさん。レヴァルは、女を賭けての決闘なの」

「……え?」

「タシオ君――あの男、マリアさんを賭けて、リカルドに決闘を申し込んだのよ!!」


 青ざめるルシアおばあ様に叫ばれて、ようやくわたし達は気がついた。



 これは、相当にまずい事態である。




ここでようやく起承転結の転に入ります。



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