大図書館の幽霊
〈レベル31になりました〉
〈カウンターLv9になりました〉
〈テイムLv4になりました〉
「ミナス、絆のリングは手に入った?」
「……ん」
マーネの問いにミナスはコクリと頷く。
「俺達にはないという事は取れるのは一人一つという事か」
「そうでしょうね」
「残念だねぇ。高く売れそうなのに」
「お金には然程困っていないでしょう。目的はミナスに絆のリングを取らせる事なんだから問題ないわ」
「……お揃い……嬉しい」
手に入れたばかりの絆のリングを早速指にはめて眺めるミナス。
「ミナスは可愛いわね」
「そうだな」
その姿に俺とマーネは思わず頭を撫でた。
「……あう」
「さて、今日はここまでね。王都に戻ってログアウトしましょう」
「とりあえず目的は達したけどどうするんだ?予定通り西側に行くのか?」
「そうね……。できれば大図書館に行きたいのだけれど。この前はあまりゆっくりできなかったから」
そう言ってマーネは視線をユーカに向けた。
「急いでいる訳ではないので大丈夫です」
「なら、決まりか」
西側に行く前に大図書館に行く事を決めた俺達は大図書館に向けて歩き出した。
「大図書館といえば、何か噂になっていた気がするねぇ」
「噂?」
「幽霊が出るっていう話でしょ」
「そう、それだよ!」
「幽霊?」
マーネの言葉に俺は首を傾げた。
「閉館間際にどこからともなく苦しげな声が聞こえてくるらしいわ」
そう言われて俺はある事を思い出した。
「もしかしたら、その声俺も聞いた事があるかもしれない」
「本当に?貴方が大図書館に行ったのって前に行った一度きりよね?」
「ああ、その時だ。帰り際に声が聞こえたんだ。気のせいかと思っていたんだけど、そんな噂があるなら気のせいじゃなかったのかもしれない」
「面白そうだねぇ。僕としては是非とも調べたいところだよ」
瞳を輝かせるユーナに俺、マーネ、ユーカは顔を見合わせて揃って首を横に振った。
こうなっては止めたところで止まる奴ではない。その共通認識を確認し、代表してマーネが頷いた。
「わかったわ。調べてみましょうか」
「そうじゃなくちゃねぇ。そうと決まれば急ごうじゃないか!」
「急いだって閉館まではまだ時間はあるわよ……って、聞いてないわね」
一人でさっさと進んでいくユーナにため息を吐き、俺達もその後を追いかけた。
そうして一週間ぶりにやってきた大図書館は前に来た時に比べて多くのプレイヤーがいた。しかも、本を読む訳でもなく、何かを探すように歩き回っている。
「このプレイヤー達も幽霊探しか?」
「そうでしょうね」
「それで、どうする?」
「これだけプレイヤーがいるんじゃ適当に歩き回っても何も見つからないでしょうね。少し考えてみましょうか」
人目につきづらい端の方の机につき、俺達は今わかっている情報を整理する事にした。
「とりあえず、わかっているのはその声が聞こえたっていうのは決まって閉館間際という事ね。でも、必ず聞こえる訳ではないみたい。だから、掲示板では他に何か条件があるんじゃないかと言われているわ」
「他の条件か……。曜日とか?」
「王都にプレイヤーが集まりだしたのはここ一週間くらいよ。関係ないんじゃないかしら」
「職業とかでしょうか?」
「それは私も考えたわ。でも、ロータスも聞こえているとなるとその可能性も低そうね」
「なんでだ?」
「普通に考えたらそういうのが聞こえるとしたら魔法使い系の職業だと思わない?それか、感知能力の高いシーフ系かしらね」
ふむ、たしかに戦闘以外に取り柄のない狂戦士である俺が聞こえているんだからその可能性は低いか。
「……人数?」
「一人で聞いたというのが多いそうだけれど、中には二人だったり三人同時に聞いたという話もあるわ」
「現状だとやっぱり情報が少ないねぇ。声が聞こえるのも閉館間際なせいで碌に調べもできてないそうだしねぇ」
「閉館時間になると締め出されてしまうから仕方ないわ、よ……」
「マーネ?」
そこでマーネは何か気づいたように口をつぐんだ。
「もしかしたら、難しく考え過ぎていたのかもしれないわ」
「どういう意味だ?」
「幽霊という呼び名はプレイヤーが勝手につけたものよ。でも、これだけ噂が広まっているという事は何かしらのイベントがあるのは間違いないわ。だけれど、普通は閉館になると外に出されてしまう」
「それだとイベントを見つけてもクリアするのは難しそうですね」
「そう。だから、もしイベントがあるとするなら図書館内であって図書館内じゃない場所にあると思うの」
「隠し部屋か?」
「ええ、その通りよ。ロータスが声を聞いたという場所に行きましょうか」
「ここね」
移動した俺達は前回俺が声を聞いた場所にやって来た。
「時間以外の条件は場所だとマーネは考えた訳だね」
「ええ、そうよ」
「でも、それならもう誰かが調べているんじゃ?」
「周りを見てみて」
言われて周りを見回してみるが、あるのは本棚とそこに収められた大量の本だけ。
「どう?」
「どうと言われても。相変わらず本がたくさんあるとしか思わないけど」
「そう、それよ。これだけ広い図書館。しかも、等間隔で並んだ本棚とそこに収められた本はどこに行っても同じ景色が続くの」
「そういう事か」
この図書館の本棚には番号なんかもついていない。正直、自分がどこにいるのかもわからなくなる程だ。俺一人じゃ声を聞こえた場所に辿り着くのにもっと時間がかかったはずだ。
「他のプレイヤーも同じよ。同じ景色が続いているせいで自分がどこにいるのか覚えられない。だから場所という基本的な事に気づかなかった」
そう言いながらマーネは俺が声を聞いたピンポイントの場所で立ち止まった。
「あの時貴方が立ち止まって何かを気にしていたのはここね。たぶん、この辺に何かあるはずよ」
「隠し部屋があるとしたら地下か」
その周辺をトントンと爪先で叩いていく。すると……。
「ここだ。この下に空間がある」
わずかに感触の違う床を見つけ、その場にしゃがんで床を触って確かめる。
「あった。ここに触れないとわからないくらいの切れ込みがある。たぶん開く。ユーカ、短剣か何かないか」
「試しに作ったのがあります」
ユーカの取り出した短剣を受け取り、切れ込みに差し込む。そして……。
「開いた」
「やっぱりあったわね」
それは真っすぐ地下に続く穴。壁にはハシゴがかけられ、下に降りられるようになっている。
「行くか?」
「ここで引き返すという選択はないでしょ」
「それもそうだ」
マーネの出した光を先行させ、俺達は地下へ続く階段を降りていった。




