統括者:VSガーディアン・マスター①
「これで四つ揃ったわね」
「この階、俺はほとんど何もしてないな」
「なに、そういう事もあるよ」
「ロータスもここまで何もしてない貴女には言われたくないでしょうね」
四つの石版の欠片を揃えた俺達はこの階の構造を把握する途中に見つけた階段を昇っていた。
「次はボスか」
「おそらくね」
そして、階段を昇りきると、目の前に巨大で豪奢な扉が現れた。
「いかにもな扉だねぇ」
「石版の欠片は……ああ、あそこか」
扉の中心。そこにちょうと石版がはめ込めそうなくぼみがある。
俺達は扉に近づいていき、そのくぼみに石版の欠片をはめていった。
「これで最後と」
そして、最後の一欠片をはめた瞬間、ガコンッと音を立てて扉が開いていった。
「行くわよ」
扉の中に足を踏み入れると、そこはどこか神聖さを感じる広い空間だった。
装飾のされた柱が左右に立ち並び、高い天井からはシャンデリアが五つ吊るされている。
地下だというのに窓からは光が差し込み、それが一層神聖さを醸し出している。
そして、その中心。光に照らされて悠然と佇む存在がいた。
ガーディアン・マスターLv38 統括者
種族:魔法兵器
それは例えるのなら機械の騎士。
見上げる程の巨体は目測で五メートルを超えている。その左右には身の丈に合った巨大な剣が突き立てられ、顔の部分にある赤い光が俺達を睥睨している。
『チカラヲシメセ』
合成音声じみた声が響き、ガーディアン・マスターは左右の剣を引き抜く。
「来るわよ」
巨体に見合わない俊敏さで動き出したガーディアン・マスターに向かって駆け出し、振り下ろされた巨剣を掻い潜ってその胴を薙ぐ。
そのまま背後に回り、さらにもう一撃。
振り返りざまに振り抜かれる巨剣を身を伏せて躱せばその頭上を轟音が駆け抜ける。
その隙に放たれた火槍と赤い光を纏った矢がガーディアン・マスターの頭部に直撃した。
ここのモンスター全てに共通する点としてヘイトではなく単純なダメージ量で狙いを決める。
それはガーディアン・マスターも同じらしく、赤い目がマーネの方を向く。
だが、まだマーネまでは距離があるうえ、与ダメージ量にそこまで大きな差はない。落ち着いてダメージを与えればいい。
「む」
その時、ガーディアン・マスターが右の巨剣を腰だめ構え出した。
警鐘を鳴らす本能に俺はなりふり構わずアーツを叩き込む。
(ヘビースラッシュ!)
それによってマーネの与ダメージ量を上回ったガーディアン・マスターはマーネから俺に狙いを変え、そのまま巨剣を振り抜く。
「ロータス!」
硬直が解けた瞬間、俺は蓮華を体の横に立てる。
そこに飛来した風球が蓮華に激突し、風を撒き散らして俺を吹き飛ばした。
その直後、巨剣から放たれた斬撃が床を砕きながら走り、その後ろにあった柱を砕いた。
「これはなかなか厄介だな」
激しい音を立てて倒れる柱を前に俺は一層気を引き締めた。
◇◆◇◆◇◆
「おかしいわ」
その攻撃力は言わずもがな。当てれば私達全員が一撃で倒されてしまう。
巨体に見合わぬ機動力も危険。そのうえ、遠距離攻撃まである。
間違いなく強敵ではあるけれど、それだけなら大した問題ではない。今の私達なら容易に倒せるでしょう。
現に、私達三人の攻撃は何度もガーディアン・マスターを捉えている。
だというのに、そのHPは遅々として減っていない。
レベル差はあるし、ここのモンスターに共通した頑丈さもある。
初めはそのせいかと思ったのだけれど、火力重視の私達の攻撃をあれだけ受けてまだ一割も減っていないというのは明らかにおかしい。
「これ、倒しきれるのかい?」
「無理ね。いつかは削り切れるでしょうけど、その前に間違いなく連続ログイン可能時間を迎えるわね」
だからこそおかしい。デカラビア戦は大きなレベル差があったからあれだけかかったのだけれど、今はそこまでの大きな差はない。
それなのにこれだけHPが減らないという事は何か仕掛けがあるはず。
ガーディアン・マスター自体に弱点らしい弱点はなかった。ロータスとミナスが関節部や目の部分などあちこち試していたけれど、その差は微々たるもの。
魔法に関しても使える六属性全部試してみたけれど、違いはなかった。
「もっと別の何か……」
と、そこで私の目に倒れ、砕けた柱が飛び込んできた。
「もしかして……ロータス!」
私の呼びかけに一瞬こちらに視線を向けたロータスにアイコンタクトで指示をする。
それに頷いたロータスはガーディアン・マスターを引きつけたまま後退していく。
「ファイアバースト」
魔杖から放たれた火球がロータスの方を向くガーディアン・マスターに向かい、その横を通り過ぎる。
でも、それは決して外した訳じゃない。狙いは別にある。
「そういう事ッスか」
ガーディアン・マスターの横を通り過ぎた火球はそのままその奥にあった柱に当たり、爆発を起こす。
それによって柱の根元が砕け、ガーディアン・マスターに向かって倒れた。
「やっぱり」
激しい音を立てて柱はガーディアン・マスターに激突。そのまま下敷きにする。
そして、予想通り今まで遅々として減らなかったHPが今のだけで一割近く減っている。
「ガーディアン・マスターが柱を壊したのがヒントになっていた訳ね。ラピス」
「了解ッス。他に使えそうな物がない探せばいいんスね。そういうのは任せてほしいッス」
そう言ってラピスは素早く去っていく。
上手く当てる事ができずに柱を倒してしまって詰むという事態を避けるために他にも何か仕掛けがあるはず。探しておいて損はないわ。
その時、瓦礫を跳ねあげてガーディアン・マスターが立ち上がり、その目で私を捉える。
ダメージ量で狙いを決める以上、間接的にしろ一番ダメージを与えた私が狙われるのは当然ね。
通常攻撃ではろくにダメージが与えられないせいでロータスが狙いを自分に向けさせるのは難しい。
柱の間隔も広く長さ的に一ヶ所で何本も柱を当てる事もできない。
現状ロータスに取れる手立てはない。
それでも、今の私達には他に頼れる仲間がいる。
ガーディアン・マスターが腰だめに巨剣を構え、斬撃を放とうとした瞬間、頭上から落下してきたシャンデリアが直撃し、再び下敷きにする。
「流石はミナスね」
天井に吊るされたシャンデリアもまた攻撃手段の一つ。
これだけヒントがあったのになかなか気づかないなんて慢心だわ。私達なら何が相手でも勝てるという思い込みが思考を狭めていた。
β時代、ソロで活動していた頃の私ならもっと早く気づいていたでしょう。でも……。
「それをフォローしてくれる仲間がいるというのはいいものね」
「僕の事を言っているのかい?」
「貴女以外の事を言っているのよ」
「つれないねぇ。それにしても、ポンポン柱を倒して天井が落ちてきたりしないのかい?」
「その心配はないわ。そもそも、この柱天井を支えていないもの」
「おや、本当だ」
この柱は単なる飾りのようなものなのでしょうね。
「マーネさん!こっちに魔法陣があったッス!……あ」
聞こえてきた声に視線を向けた瞬間、ラピスのいる壁に直径一メートル程の魔法陣が浮かび上がり、そこから立ち上がりかけのガーディアン・マスターに向けて光線が放たれた。
そして、そのままガーディアン・マスターに直撃。弾き飛ばした。
「触ったらなんか出たッス!ただ、一度使うとしばらく使えないみたいッス!って、こっちに来たッス!?」
今の一撃で私達の与ダメージ量を超えたラピスにガーディアン・マスターが高速で向かっていく。
でも、それを大人しく見ているロータスじゃない。
柱にアーツを叩き込んだロータスによって倒された柱がガーディアン・マスターに直撃した。
攻略法さえわかればこっちのもの。このまま行けるところまで行くとしましょうか。




