発見
〈歩法術Lv8になりました〉
〈アーツ:空歩を取得しました〉
「空歩?」
最後の一体を倒したところで流れてきたインフォに首を傾げた。
「空歩は簡単に言えば二段ジャンプね。空中で一度だけもう一度跳ぶ事ができるの」
「なるほど」
ウィンドバードみたいな飛行型のモンスターはこれからも相手にする事があるだろう。そういう時にマーネ頼りだけではない空中での移動方法があるのはいい事だな。
「あれだけ囲まれても無傷ッスか」
「流石というか、相変わらずだニャ」
戦いに参加せず、離れて観戦していたラピスとミャーコが呆れたような表情を向けてきた。
「錬金術に使えそうなアイテムはないねぇ」
「なあ、食材はドロップしてないのか?」
「ないねぇ。ドロップアイテムは大蜻蛉の薄羽ばかりだねぇ」
「なんだよ。ちょっと食ってみたかったんだけどな」
ユーナからドロップアイテムに食材がないと言われたサテラはつまらなさそうにため息を吐いた。
虫料理に然程忌避感はないんだが、流石にあれだけ大きいトンボを食いたいとは思わないな。
「トンボよりもお米の方が重要でしょ」
「おお!それもそうだな!なら、早速行こうぜ!」
本来の目的を思い出したサテラが意気揚々と歩き出した。
その後ろ姿を俺達は呆れた表情で眺め、無言で後に続いた。
「見つかんねぇ!」
時折襲ってくるメガヤンマを倒しながら森の中を進んでいたが、なかなか目的の稲は見つからない。
それに痺れを切らしたサテラが立ち止まって叫び声をあげた。
「私に考えがあるわ」
「考え?」
「ええ。ミャーコ、稲は持ってる?」
「持ってるニャ」
頷いてミャーコは稲を取り出した。
「ルナ、これと同じ物を探せる?」
「ホー?」
その稲を受け取ったマーネはそれを俺の肩にとまっているルナに見せた。
「ホー!」
首を傾げて稲を眺めていたルナは力強く頷いて飛び立っていった。
「森の中を彷徨うより空から探した方が効率がいいでしょ。あの子なら夜目も効くし」
「ニャるほど。その手があったかニャ」
「でも、なんで最初からそうしなかったんだ?」
「ここのモンスターはルナよりも格上だから心配だったのよ」
「それもそうか」
そのうえ、メガヤンマは飛行型のモンスターだ。今までは空中から一方的に攻撃できていたが、ここではそうもいかない。
「無音飛行と気配隠蔽のスキルがあるから大丈夫だとは思うけれど」
「ルナは賢いから格上のモンスターに無謀に挑んだりはしないだろ」
「そうね。じゃあ、ルナが戻ってくるまで私達は少し休憩しましょう」
「ルナだけに働かせて休むのは少し心苦しいけど」
「帰ってきたらしっかり労ってあげましょう」
「そうだな」
他のメンバーからも特に異論は出ず、俺達は一旦休憩を取る事に決定した。
「ルナちゃんはロータスさんのテイムモンスターッスよね?」
サテラの取り出したサンドウィッチを食べていると、ラピスがそんな疑問をぶつけてきた。
「ああ、そうだけど」
「その割にマーネさんの言う事もちゃんときくんスね」
「他は違うのか?」
「どうッスかね?テイマーはあまり他のプレイヤーと組む事がないッスから」
テイムモンスターはパーティの枠を一つ使うからな。自分以外をモンスターで固めたら他のプレイヤーと組む機会が少ないのは当然か。
「少なくとも本来の主人であるロータスさんに確認する様子もなく飛び立っていくという事はないと思うッスよ。例え同じクランメンバーだとしても」
ふむ、ルナはテイムモンスターという括りではあるが、生まれが少し特殊だからな。その辺りが関係しているのかもしれない。
「あのフクロウの話を聞いてると鳥肉が食いたくなってくるな」
「…………」
まさか、うちのルナまで食材として見ているんじゃないだろうな?流石にそれは許容できないぞ。
「お、あんな所に美味そうな鳥が。ロータス、あれ取ってくれよ」
サテラの視線を追うと枝に丸々とした鳥がとまっていた。
「取ってくれと言われてもな……ふむ」
枝の上にいるせいで蓮華では届きそうにない。
「誰か弓を持ってないか?」
「持ってるニャ」
ミャーコの取り出した弓を受け取り、弦を引いて調子を確かめてみる。
かなり硬いな。引くには相応の力が必要そうだ。少なくとも生産職であるミャーコが使える物ではないと思うんだが。
「依頼品だニャ。ついでに配達するようルイーゼに頼まれたんだニャ」
「いいのか、それ?」
「ちょっとくらい大丈夫だニャ。それくらいで怒る人じゃニャいニャ」
本当にいいのか疑問に思いながらも、大丈夫だと言うミャーコを信じて弓に矢をつがえた。
ギリギリと弓を引きしぼり、放つ。
放たれた矢は一直線に鳥に向かって飛んでいく。
迫る矢に気づいた鳥が見た目に似合わぬ俊敏な動きで飛び立とうとするが、それよりも早く矢がその羽を貫いた。
「ピィ!」
羽を貫かれた鳥は鳴き声をあげて落下。それを真下で待ち構えていたサテラがキャッチした。
[丸鳥]
脂の乗った上質な肉を持つ鳥。警戒心が強く、見た目に似合わぬ俊敏さで捕まえるのは困難。高級食材として取引される。
「ロータスくんは弓まで使えたのかニャ?」
「俺は昔道場に通っていてな。そこで剣を習ったんだけど、他にも槍とか弓も教えていたんだ。まあ、俺はあんまり弓は得意じゃないんだけどな。今も首を狙ったんだけど、外れて羽に当たってしまったし」
「あの弓で当てるだけでも十分だニャ」
やれやれと言わんばかりにミャーコは首を横に振った。
「ホー」
「ん?」
聞き覚えのある声に上を見ると、木々の間からルナが降りてきて俺の肩にとまった。
「おかえり。見つかったか?」
「ホー」
撫でながら聞いてみると、ルナは気持ちよさそうに目を細めて頷いた。
「さーて、この鳥どうしようかな。焼き鳥か?唐揚げか?それとも……」
「それは一旦後回しニャ。稲が見つかったみたいニャ」
「なに!?」
涎を垂らさんばかりに丸鳥を見つめていたサテラはミャーコの言葉にバッと振り向いた。
「どっちだ!すぐ行こう!あっちか!」
「落ち着くニャ。ロータスくん、案ニャい頼むニャ」
「ああ、わかった」
俺は頷いてルナに道案内を頼んだ。
「ホー」
少し先を飛ぶルナを追いかけてしばらく進むと、地面がぬかるみ出し、さらに進むと開けた場所に出た。
「これはまた違う風情があるッスね」
月明かりを受け、風になびく黄金の稲穂。それが森の開けた場所に広がっていた。
「おお!米だぁぁぁ!」
その風景を楽しむ暇もなく、サテラが汚れるのもいとわず泥を跳ねあげながら飛び出していった。
「まあ、ずっと楽しみにしていた訳だしな」
それを苦笑して眺め、俺達も稲の収穫を手伝うべく歩き出した。
「いやー、助かったぜ」
その場にあった稲を手分けして収穫すると、サテラが満足そうに礼を言ってきた。
「でも、そこまで量はないよな?」
その場にあったのは全部収穫したが、決してたくさんある訳ではない。精米したらいったいどれくらいの量になるのか。
「問題ニャいニャ。帰ったら栽培するニャ」
「ふむ、ないなら増やせばいいという事か」
馬を育てる事ができるんだから畑があったとしてもおかしくはないか。
「でも、できればもっと欲しいな。近くにもっとないのか?」
「なら、もう少し探してみるか」
俺は暗視と遠視を発動させて周囲を見回した。
「む?」
「どうかした?」
「いや……」
一瞬視界に映ったものを確かめるべく俺は近くにあった池に近づいていった。




