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ダンジョン:試練の洞窟・絆③

 ◇◆◇◆◇◆




 あの後も何度かコボルトの襲撃を受けたが俺達は危なげなく倒し、通路を進んだ。そして、通算六度目となるコボルトの襲撃を退けると、さらに下へと続く階段を発見した。

「この辺にモンスターはいなさそうだな。この先がどうなってるかわからないし、ここらで休憩しようぜ」

 ヴェントの言葉に反対する者もおらず、各々地面に腰を下ろした。

「一体一体の強さはそうでもないが、あれだけ数が多いと面倒だな。ティアラ、消耗はどんな感じだ?」

「想定よりも少ないですね。半分以上引きつけてくれていましたから」

「だよな」

 串焼きを食べながらそのやり取りを眺めていた俺はそういう確認をしていない事に気づき、マーネに尋ねた。

「私がいくつかマナポーションを使ったくらいね。援護も最低限に留めてMPを節約しているから問題ないわ」

 まあ、その辺りはマーネは如才ないからな。俺が心配する事もないか。

「ダンジョンに入る前に集めた素材もあるからねぇ。必要なら僕が作るさ」

 そう言いながら持ち歩き可能な簡易調薬セットで調合していたユーナができあがった薬の入ったビンを顔の前で持ち上げた。

「初めてならこんなものかねぇ?」


 [マナポーション]品質B-

 魔力草を用いて作られたMP回復薬。効果はあまり高くない。

 効果:MP15%回復。再使用時間6分


「私達は必要ないから向こうにあげて」

「わかったよ」

 その他にも何本かマナポーションと普通のポーションを作ったユーナはそれをヴェント達に渡した。

「いいのか?」

「途中で倒れられても困るもの。それに、戦闘に参加していないのだからこういうところで貢献しないと」

「そういう事ならありがたく貰っておくよ」

 無償で貰う事に躊躇った様子のヴェントだったが、マーネの言葉に納得して受け取った。

「それにしても、簡易セットでこの品質かよ。お前らんところは生産職まで化け物かよ」

「この人達と一緒にしないでください」

 俺達薄明のもう一人のメンバーであるユーカは向けられた視線に首を振った。

「はい、できました」

 話しながらも手を止めなかったユーカはメンテナンスの終わった蓮華を俺に返してきた。

「他にメンテナンスが必要な人は言ってください。私にはこれくらいしかできないので」

「それだけでも十分だよ。補修ができるってわかってれば多少の無茶もできるしな。そういう訳だから俺の頼むわ」

「あ、俺のもお願いするっす」

「僕もお願いします」

「はい、わかりました」

 ふむ、ユーナもユーカも戦闘にこそ参加していないけど、上手く自分の役割を果たしているな。

「よし、そろそろ行くか」

 ユーカのメンテナンス作業も終わり、マーネ達魔法使い組のMPも回復したところでヴェントが立ち上がった。

 それに続いて俺達も立ち上がり、改めて階段に視線を向ける。

「さて、この先はどうなっているかな」

「行ってみないことにはわからないわね」

「それもそうだ。躊躇う理由もねぇ。行こうぜ」

 先陣を切って進んでいくヴェントに続き、俺達も階段に足を踏み入れる。

「彼はリーダーが様になっているねぇ」

「伊達に大手クランの頭を張っていないという事ね」

「カリスマ、というものでしょうか? あれだけイジられているのに自然と人がついてくるのは」

「かもしれないわね」

 俺達は全員あまり引っ張っていくというタイプではないからな。一応クランマスターであるマーネが先頭に立っているが、本当は後方で策を練る参謀タイプだし。

「なんもねぇな」

 階段を降りるとそこは広い空間だった。見た限り何もなく、奥に扉があるだけだ。

「どうだ、コータ」

「特になんもなさそうっすね」

 聞いた話じゃコータの職業はシーフ系二次職のトレジャーハンター。罠や隠している物の探索は専門らしい。

 そのコータが何もないというのなら本当に何もないのだろう。

「やっぱあの扉っすかね?」

「だろうな」

 俺達は警戒しながら揃って扉に近づいていった。その時──。

「なんだ!?」

 突然足元に魔法陣が現れ、何か行動を起こすよりも早く視界が白く染められた。






 一瞬の浮遊感。そして、すぐに戻ってきた地面の感触に危うくバランスを崩しかける。

「おっと」

「うお!」

「きゃっ」

「へぶっ」

 それに耐えきれなかったコータとカレンが尻もちをつき、何故そうなったのかユーナが顔面から地面に激突する。

 それを視界に収めながら俺は辺りを見回した。

 扉だけがあったさっきの部屋とは違う先へと続く通路。振り返ればあるのは壁だけ。上の階に比べれば幅も狭く、大人数を想定していないのがわかる。

 さっきの魔法陣はここに強制的に移動させるものだったのだろう。そして……。

「どうやら、ここに飛ばされたのは俺達だけみたいだな」




 ◇◆◇◆◇◆




「どうやらパーティに関係なくバラバラに分けられて飛ばされたみたいね」

「そのようですね」

 見回してみてもロータスの姿はなく、いるのはユーカとヴェント、それにティアラ、ルクスの四人。

「向こうも同じような状況か?」

「おそろくはそうだと思いますよ」

「駄目ね」

 メニューからメッセージを送れないかと試してみたけれど、『ただいまメッセージを送る事ができません』と表示されるだけ。

「進むしかないって訳だ」

 戻る道もない以上進むだけ。そうすればいずれ合流できるでしょう。

「まあ、こっちは問題ないだろ。バランスも悪くないしな」

 タンクのルクス、前衛アタッカーのヴェント、後衛アタッカーの私にヒーラーのティアラ。バランスも悪くないし、個々の能力も高い。

「問題は向こうだよな」

「少々攻撃に偏り過ぎていますね」

 前衛アタッカーのロータスに後衛アタッカーのカレン、遊撃のコータ。あと、ルナも向こうみたいね。

「見たところ通路が狭くなっているわ。その分モンスターの数も減るでしょうからロータスがいればなんとかなるわ」

「ま、実際できるだろうな」

「問題があるとしたらユーナが何かやらかさないかね」

 心配だわ。




 ◇◆◇◆◇◆




「ホー」

 静かに俺の肩に降り立ったルナが不満そうに一鳴きした。

「お前もいたんだったな。ごめんごめん」

 謝りながら撫でてやれば気持ちよさそうに目を細めた。

 ルナも入れて四人と一羽か。

「ヴェントさんとかは別の場所に飛ばされたって事か?」

「たぶんそうじゃないかな?」

 コータとカレンも立ち上がって同じように辺りを見回す。

「…………」

「…………」

「…………」

「って、誰かなんか言えよ!」

「そう言われてもな」

 このメンバーだと率先して引っ張っていく奴がいないのか。

「よし、合流するまでロータスがリーダーだ」

「む?何故俺なんだ?」

「だって俺ロータスに負けたし」

「必ずしも強くなければならない訳じゃないと思うが」

「どっちにしろ俺はリーダーとか向いてないんだよ」

 それは俺も同じなんだがな。

「コータ君はそうだよね」

「うるせ。なら、カレンがやるか?」

「え?無理無理!私なんてリーダーなんて柄じゃないし」

 コータのからかい混じりの言葉にカレンは慌てて首を横に振った。

「そういう訳だから頼むよ。合流するまでの間だけでいいからさ」

「そう言われてもな」

「うーん、ロータス君が嫌だって言うなら……」

 チラリとコータとカレンの視線がユーナを向く。

「僕かい?」

「よし、俺がやろう」

 ユーナに任せるとか悲惨な未来しか見えない。

「僕ならやってもいいんだけどねぇ」

「俺がやるから大丈夫だ」

「なら、決まりだな。頼むぜ、リーダー」

 そうして俺は一時的にパーティのリーダーをやる事になったのだった。

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