【首席騎士:リカルド視点】今言わずにいつ言うのだ!
「な、なんだ?」
よかった、声が出た。完全に出鼻はくじかれたが、とりあえず声が出たことだけでも良しとしよう。
顔と心臓をおさえていた手もおろして、俺はなんとかまっすぐにユーリンと目を合わせた。俺の情け無い葛藤も知らず、ユーリンは真剣な眼差しで俺を見返す。
「あたし、強くなりたいです。あたしは魔法特化だけど、それでも今日のリカルド様に負けないくらいに」
「ユーリンなら、すぐにその境地には立てると思うが」
何が彼女を駆り立てたのか、ユーリンが急にそんなことを言い出した。だが彼女ほどの魔力の持ち主なら、きっとそう遠くない未来、俺など簡単に追い抜いてしまうだろう。
「リカルド様、色々と魔法、教えてくれますか?」
「もちろんだ」
俺の協力など些少な効果しかないだろうが、役にたてるのならば出来るかぎり協力しよう。そう思って言ったのだが。
「今度は逃げないでくださいね」
ユーリンに念を押されてしまった。さすがに十日も逃げ回ったせいで、ユーリンに不安がられているらしい。むしろ、勘違いだったと分かった今では、彼女に会う機会が増えるのだからこちらから願い出たいくらいなのだが。
しかし良かった。彼女と話しているうちに、だいぶ緊張も解れてきたようだ。さっきまでガチガチだった身体も、ようやく緩んできたように思える。幾分ホッとしながら、俺は言葉を継いだ。
「ユーリンはきっと、王国史に残るような魔術師になるだろう。いや、もしかしたらこの国に留めておくことさえ惜しい人材なのかも知れないな」
「えっ……」
「世の中にはまだまだ魔物の被害を食い止められず、毎年多くの犠牲者を出している国もあると聞く。ユーリンほどの魔力があれば、強大な魔物も、群れをなす魔物も、一掃できそうだ」
一瞬戸惑ったような顔をしたユーリンは、次の瞬間には笑顔になってこう言い返す。
「それならリカルド様の方がもっと適任ですよ。だって転移魔法で一瞬でその場に駆けつけて、剣と魔法で殲滅できるでしょ? 最強じゃないですか」
ああ、本当に彼女と話すのは心地いい。
「俺の転移は一度行ったことがある所へしか行けないが」
「あ、そっか」
「まぁだが、それでも利用価値は高いか。そうだな、卒業したら二人で世界を巡るのも悪くない」
「……!」
急に真っ赤になった彼女の様子に、俺もはたと気づいてしまった。
「そそそそそそ、それって……あたしと、ずっと一緒に旅してもいいって事ですか!? そ、側にずっと居ても、い、嫌じゃないってこと、ですか?」
ユーリンのストレートな問いかけに、喉がぐっと締まる。何気なく、すごいことを言ってしまった気がする。
いや、いや、チャンスだ。これはチャンスだ。黙っている場合ではないだろう。今しかない! 今言わずにいつ言うのだ!
俺は、全力で自身を鼓舞した。




