首席騎士様は、怒る
魔物の追撃を必死に躱し、防戦する数分のうちに、魔物の数がみるみる増えていく。
「さすがに死を覚悟したよ」
追われて、追われて、アリシア様とも逸れてしまった。
アリシア嬢にはいっさい興味を示さず、自分だけを追ってくる魔物の様子に、さすがのジェードさんもピンときた。
さっきの変な液体が、魔物を惹きつけてるんじゃないかって。
四方八方からの魔物の攻撃に、さすがに防ぎきれずにいくつもの傷を負い、血を吐きながら、このままじゃヤバいと自分を守る結界を張って……リカルド様に助けを求めたのがついさっきのこと。
「お前が来てくれるなら、下手に応戦しない方が賢いだろ? その時点で結構なダメージもくらってたし。だからとりあえず、結界の維持に全力で努めた」
「英断だ」
「でっしょー?」
言葉少なに褒めるリカルド様に、ジェードさんは満面の笑みを見せる。
さっきまで死を覚悟していたなんて思えない安心し切った笑みに、ジェードさんのリカルド様への信頼を見た気がした。
「それで、アリシア嬢は?」
リカルド様が重ねて聞けば、ジェードさんは考えるように小首を傾げる。
「場所は分からないけど、お前たちが来る前に、念話で『結界張って動かないで』って言ってあるから、大丈夫だと思うんだよね」
「そうか」
「あ、さっき俺がやったみたいに閃光魔法撃ってもらおうか。その方が早い」
言うが早いか、ジェードさんは目を閉じた。
あたしはやったことないから分からないけど、きっと今、念話してるんだよね。すごいなぁ、憧れちゃうなぁ。
「よし、大丈夫そう」
目を開けたジェードさんが言った瞬間、遠い空にまばゆい光が点滅する。
「あそこか」
「ひえっ!!!??」
位置を把握したリカルド様が、即座にあたしとジェードさんの手を掴んで転移する。さすがにあたしは慣れたけど、ジェードさんは思いっきりびっくりしていた。
これだけ仲が良さそうでも、リカルド様の転移って見たことがなかったのかしら。
そして、リカルド様の転移精度の正確さには、あたしもまだ驚いちゃうよね。だって、目の前でアリシア様が腰を抜かしたみたいになってるし。
「良かった、大丈夫みたいだね」
しかもあんな目にあっておきながら、すぐにアリシア様にかけよって声をかけてあげているジェードさんの優しさったら。ほんと顔だけじゃなくて男前な人だな。
アリシア様は震えながら、ジェードさんへと手を伸ばした。
「ジェ、ジェードさん……無事で」
「無事で、じゃないだろう!!!」
突然の怒声が、樹海を震わせる。
思わず耳を覆うくらい……リカルド様のこんな声を聞いたのは、初日にあたしが結界を転がり出て以来のことだった。




