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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第6章 悪役令嬢の祝福
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13. 悪役令嬢の指輪

 王城に戻り、すぐ国王への謁見を――の前に、ティアラローズにはフィリーネの雷が落ちた。


「ティアラローズ様!! 出かけられたり何かあるのでしたら、わたくしに一報ください。とても、とても心配しました……」

「ごめんなさい、フィリーネ」

「……わたくしでは、ティアラローズ様のおそばに相応しくないですか?」


 もし不要であれば解雇してくれと言わんばかりのフィリーネに、ティアラローズは慌てて首を振る。幼いころから姉妹のように過ごしてきたのだ。フィリーネのことは誰よりも信頼している。

 ぎゅっとフィリーネの手を握り、心から謝罪する。


「誰にも話すことが出来ないことだったの。もちろん、アクア様にも。心配をかけてしまってごめんなさい、フィリーネ。それでもわたくしは、そうやって叱ってくれるフィリーネが大好きよ」

「ティアラローズ様……っ」


 二人でぎゅっと抱き合ってから、ティアラローズはフィリーネに事情を説明した。そして慌てふためくフィリーネに、思わず笑みが零れる。


「え、そのようなことが!? すぐ、謁見の準備を……」

「いや、そのままでいい」

「かしこまりました。アクアスティード殿下がそうおっしゃるのであれば」


 ティアラローズがフィリーネと話をしている間に、エリオットが謁見出来るよう手配は整えた。

 ドレスに着替える時間まではないため、服装はそのままでいいと予め許可を得ている。アカリなんて、乗馬スタイルのままだ。


 謁見後には支度をするからと、ティアラローズはフィリーネに自分とアカリのドレスの準備を頼んで国王の下へと向かった。




 ◇ ◇ ◇



 国王の下に向かったのは、ティアラローズ、アクアスティード、フェレス、アカリの四人と、先ほど合流したリリアージュの計五人だ。

 キースたちは新しく得た自分の領域の調整をすると言って、帰って行った。


 まだ早朝ということもあり、部屋にいるのは国王一人だけだ。昼間の時間であれば、妃であるラヴィーナがずっと付きっきりになっている。

 しかし今は、ラヴィーナも一緒にいた方がいいだろうと近くのメイドに至急だと伝えて呼びに行かせる。


「アクアスティード、それに……」


 朝から至急だと言われた国王ソティリスは、ドレスコードも曖昧なまま息子からの謁見を受け入れた。そしてその集まった人物たちを見て、いったい何が始まろうとしているのかと思う。


 自分の息子と義娘はいいだろう。

 しかし、ラピスラズリのハルトナイツ王子の妃であり、聖なる祈りの使い手であるアカリ。そしてこの国の初代国王が揃っているのだ。

 これを見て、何もないと考える人間なんていない。

 しかもアクアスティードはラヴィーナを至急と言って呼びに行かせているのだから、ことさらだ。


 ソティリスが寝台から上半身を起こしたのを見て、ティアラローズは淑女の礼をする。


「おはようございます、陛下。このような姿で御前に出ること、申し訳ございません」

「いいや、構わない。何かあって、ここへ来たのだろう? アカリ様も、はるばるラピスラズリから来てくれたというのに、このような格好で申し訳ない」


 首を振り、何も問題ないと告げるソティリス。逆に、客人に対して寝たようになっていることをアカリに謝罪するほどだ。

 アカリこそ、そんなことは気にしない。


「大丈夫です、王様。私こそ、ティアラ様が心配でなんの触れもせずこちらへ伺ってしまったんです」


 にこやかに告げるアカリだが、好奇心九割ティアラローズの心配一割というところだろう。

 そうこう話しているうちに、慌てたようすでラヴィーナがやって来た。髪は結っておらず、ドレスも簡易的なものだ。アクアスティードの言葉通り、急いでくれたのだろう。

 揃っている人間を見て、すぐにメイドを下がらせる。


「いったい何があったというのですか? 朝からこんなに大勢で……」

「母上。みなの協力を得て、父上の病気を治す薬を手に入れたのです」

「本当なの!?」


 アクアスティードの言葉を聞き、ラヴィーナが声を荒らげる。そしてすぐ、自分の言動が相応しくないと気付き呼吸を整える。


「取り乱してしまってごめんなさい。……その薬というのは?」

「これです」

「まあ、綺麗……」


 アクアスティードが取り出したのは、水晶の花の、花びら一枚だ。これだけあればソティリスの病気を治すことが出来る。残りの花は、王城で大切に保管する予定になっている。


 この花は、祝福で咲いている。そのため、魔力を流すと水晶に集まった祝福が雫となり、万病に効く治癒の特効薬になるのだ。

 ソティリスもラヴィーナも、いったいどこでこんなものを手に入れたのかと考える。けれど、聖なる祈りの力を持つ希有な存在に、妖精王から祝福を得ているアクアスティードとティアラローズがいるのだ。

 もう、どんな奇跡が起こったとしても不思議ではないと思っている。


「母上、これに魔力を流してください。そうすると雫になるので、そのまま父上に飲ませてください」

「わかりました」


 ラヴィーナに頼むのは、ティアラローズたちの魔力が普通の人間に比べると異質であり巨大だからだ。ソティリスに何か影響を与えてしまう可能性があるので、ラヴィーナに任せた。

 すぐに水晶の花びらを受け取り、ラヴィーナはその雫をソティリスに注ぎ飲ませる。すると温かい光が部屋に溢れて、ソティリスの顔色がどんどん赤みを取り戻し回復したことが一目でわかった。


「ああ、ああ……ソティリス様。よかった、よかったです……」

「そのように泣くでない、ラヴィーナ」


 回復した嬉しさのあまり泣き出してしまったラヴィーナを、ソティリスはあやすように優しく撫でる。その様子はとても微笑ましいけれど、今はティアラローズたちがお邪魔虫だろうか。

 病気が治ったのであれば問題ないので、二人を残し、挨拶もすることなくそっと部屋を後にした。




 ◇ ◇ ◇



「よかったですね、王様が元気になって!」

「ええ。アカリ様もいろいろ協力してくださって、ありがとうございます」


 ドレスに着替えて落ち着くと、フィリーネが紅茶とお菓子を用意してくれた。これですべて解決! やっと羽が伸ばせる――というには、まだちょっと早い。

 アカリはソファに沈み込むようにだらだらしているが、ティアラローズにはこれからやらなければならない大事なことが一つだけ残っているのだ。


「まだ、フェレス殿下とリリアージュ様の件が解決してませんから」

「そういえば、アクア様が王になったから死んでしまうかもしれないって言ってましたね」


 今ここには、ティアラローズとアカリの二人しかいない。

 アクアスティードは至急で必要な書類の確認などを行っており、フェレスはリリアージュと一緒に妖精の星祭を見に行ってしまった。

 今はまだ元気にしているが、どうなるかはわからない。


「わたくしが二人の幸せを決めていいわけではないけれど、まだ生きていてほしい」

「それには私も賛成ですけど、手はあるんですか?」

「……あるわ。フェレス殿下がヒントをくださったから」


 こっそり耳打ちしてくれたときのことを思い出す。


「わたくしも、指輪を創ろうと思うの」

「え、ティアラ様が!? それって悪役令嬢の指輪ってことですよね、なんだか格好いいかも!」

「この指輪に、わたくしの力もいれるの。そうすれば、妖精王の力もあるわたくしの指輪が出来上がる」


 ティアラローズの話しを聞いて、アカリは「無敵そう!」と楽しげに言う。

 でもそれならば、また指輪を創るための場所が必要になるんじゃ? とアカリが首を傾げる。もし何か協力が必要なら、任せてくださいとアカリが胸を叩く。


「ありがとうございます、アカリ様。でも、今回は一人で大丈夫です。夜になったら創れるので、わたくしは少し仮眠しますね」

「そうなんですか? なら、邪魔しちゃ悪いだろうし……私はオリヴィア様と一緒に遊んでようかな」

「きっとオリヴィア様も喜びます」


 アクアスティードが仕事をしているのに一人だけ仮眠をするのは申し訳ないが、肝心のところでへばってしまうわけにはいかない。

 ティアラローズはアカリと別れ、ひとまず眠りについた。




 ◇ ◇ ◇



 空から降る星の力を借りることにより、ティアラローズの指輪を創れるよ。


 そうフェレスに教えてもらったティアラローズは、夜の日付が変わる時間の少し前に王城の屋上へとやってきた。妖精の星祭はまだ続いていて、降り続ける星があるためとても明るい。

 ティアラローズがやってきた屋上は、王族か許可を得た人間しか入ることの出来ない場所だ。そのため、ほかに人はおらず星空を独り占めするという贅沢が出来る。


「夜風が気持ちいい……」


 このまま寝ころんでしまいたい衝動に駆られるけれど、さすがにそれははしたない。


「ようし、指輪を創ろう!」


 妖精王の指輪を一つにしたプラチナリングは、まだティアラローズが持ったままだ。

 これを使えば星空の王の力を制御出来るようになるのだが、それだけではまだ足りない。制御出来たとしても、フェレスたちが死んでしまっては意味がない。


 誰もが幸せになってほしい。

 最初は大好きなゲームキャラクターたちに浮かれていた一面もあったけれど、今は人としての彼らが大好きなのだ。


「私が指輪に込める願いは、幸せな生涯」


 つまり、ハッピーエンドだ。


「降ってくる星空を、大元になるこのプラチナリングで受け止める……っと」


 手のひらの上に指輪をおいて、それを空高く掲げるようにする。こうすることによって、この指輪にある妖精王の力が星を引き寄せてくれるのだという。

 どうなるのだろうと見ていると、夜空に降り注いでいた星が急に方向を変えてティアラローズめがけて降り注ぎ始めた。


「――っ!!」


 思っていた以上の迫力に、思わずぎゅっと目をつぶって顔を背ける。大きな星が自分の目の前に迫ってきて、そう簡単に直視出来るわけがない。

 ぶつかるのでは!? と焦りの感情から冷や汗が伝うけれど、それは杞憂に終わった。

 降り注いでいる星は、ティアラローズの下に来る前にしゅんと小さく形を変えて、優しくプラチナリングの中へ吸い込まれていった。


 ――びっくり、したぁ。


「はぁ……」


 思わず腰が抜けて、その場に座り込んでしまう。

 けれど、ティアラローズの手の中にはいっそう輝きを増したプラチナリング。どうやら指輪を創り変えるための基礎部分にあたる、星の力の獲得には成功したようだ。


 あとはこれに、ティアラローズの魔力をこめていけば完成する。

 指輪を創るための誓約のことばは、ちゃんと覚えているから大丈夫だ。アクアスティードが自分のために指輪を創ってくれたときと同じ言葉を口にする。


「マリンフォレストの大地を見守る星よ、ティアラローズ・ラピス・マリンフォレストの名においてここに誓う。流れる星と、国を支える大地が滅びようとも、指輪が輝きを失うことはありえないと――」


 すると、プラチナだった指輪はハニーピンクに色を変えた。ティアラローズの髪色と同じで、光沢があり艶やかだ。


「はあぁ、すごい、本当にわたくしの指輪が出来た」


 感動の一言だ。

 じっと指輪を眺めていると、屋上と室内をつなぐ扉が音を立てて開く。やって来たのは、少し呼吸の乱れたアクアスティードだ。いそいでここへ駆けつけたというのがわかる。


「ティアラ……っ」

「アクア様?」

「なんでそんなにけろっとしてるんだ……」

「?」


 がくりと項垂れる様子のアクアスティードを見て、ティアラローズは首をかしげる。


「どうかしたんですか? というか、アクア様は仮眠していたのでは」

「一時間ほど休んだから問題はない。……下では、王城に星が降り注いできたと大騒ぎだ」

「えっ!」


 アクアスティードの言葉を聞き、肩が跳ねる。

 確かにあれは迫力があるものだった。遠目から見ていたら、隕石が王城にぶつかった! そう思われても仕方がないだろう。


「ごめんなさい、アクア様。大丈夫です」

「そのようだね」


 安堵を浮かべたアクアスティードは、ティアラローズの隣に腰を下ろすと、「こんなところで何してるの?」と問いかける。

 そしてその視線は、ティアラローズが持つハニーピンクの……悪役令嬢の指輪に注がれた。


「その、アクア様に指輪を贈りたくて」

「私に?」

「そうです。この指輪は、幸せになれるように願いを込めたんです」


 はにかむように笑い、ティアラローズは最初から説明していく。

 どうしてアクアスティードの持つ空の妖精王の指輪を持ち出したのか、この指輪は何で出来ていて、どのような効果があるのかなど。


「この指輪は、星空の力を制御して安定させることが出来ます。そして、わたくしの力を加えたことにより、大切な人たちとの繋がりが出来ます」

「繋がり?」

「はい」


 ティアラローズの創った悪役令嬢の指輪は、持ち主の大切な人との繋がりを作る指輪だ。

 そのため、悪役令嬢の指輪を通してフェレスとリリアージュの力もある程度コントロールすることが出来るようになるのだ。

 つまり、フェレスとリリアージュに星空の王であるアクアスティードの祝福を、指輪を通して与えることが可能になる。


「なるほど、それなら確かにフェレス殿下とリリアージュ様が世代交代の影響で亡くなる必要はない」

「はい。アクア様の眷属……とか、そういった意味合いになると思います」

「ありがとう、ティアラ。はめてくれるんだろう?」


 左手を差し出したアクアスティードを見て、もちろんですと頷く。

 ずっと、自分だけが左手の薬指に指輪をしていたのが寂しかった。結婚指輪のように、二人でいつか指輪をはめることが出来たら……と、何度も思っていた。


 ――二回目の結婚式みたい。


 頭上には、祝福するように星が降り注いでいる。

 まだ正式に婚約する前、一緒に見たときとはまったく違うシチュエーション。けれどどちらも、最高潮というくらい心臓が早鐘のように音を立てる。


 アクアスティードの薬指にゆっくりと指輪をはめ、その手を優しく撫でる。ティアラローズよりもひとまわり大きくて、いつも守ってくれる優しい手だ。


「ティアラ」

「アクア様、ん……」


 優しい口づけをされ、目を閉じて受け入れる。

 何度かついばむようにキスを繰り返して、アクアスティードはティアラローズを抱き寄せて自分の膝の上に座らせる。

 そのままさらにキスを深めて、ティアラローズを堪能する。


「……はぁ、ん」

「ん……。互いの指輪をはめるのは、独占しているみたいでいいね」

「もう、アクア様ったら」


 しかし、それはティアラローズも思っていたことだ。

 アクアスティードは自分の左手の薬指にはまった指輪を見て、満足そうに微笑む。


「私のために創ってくれたティアラの指輪」

「改めて言われると、すごく恥ずかしいです……」

「恥ずかしがってるティアラも可愛い」

「もう、ん……」


 そう言って、アクアスティードはもう一度――星の降る空の下でティアラローズに優しいキスをした。

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