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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第15章 悪役令嬢の幸せ生活
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15. 愛しい時間は永遠に

「ルカ、ルチア、母様たちからお土産の荷物が届いたぞ」

「本当。? 今度はどこに行ったのかしら」


 ここはマリンフォレストの王城。

 書類仕事していた手を止めて、ルチアローズがぱっと顔を輝かせた。ルカは「まめだね」と言って笑う。


 ティアラローズとアクアスティードが旅行に出かけてから早一年。

 時折こうやって各地のお土産が届いている。ルチアローズはそれがとっても楽しみで、いつもまだかしらとそわそわワクワクしているのだ。


「母様はお菓子が多いですけど、父様は魔道具類も多いですからね。私も結構楽しみなんですよ」


 シュティルカがお土産の入った木箱を物色し始めると、「お、これは」と声をあげる。


 手に取っているのは楕円型の石のような魔道具だ。


「なんだそれ?」


 シュティリオが不思議そうに覗き込むと、シュティルカがすぐ横に置いてあった説明書を読んでくれる。


「水のろ過装置みたいですね。これ一つで木桶一杯分が綺麗になるらしいですよ」

「ふぅん……」


 なかなかいい代物であることはわかるのだが、木桶一杯分という制限がついてしまうと使い勝手がいいのか悪いのかわからない。

 そんななんとも言えない魔道具も、こうして送られてくることが多い。


 けれどきっと、シュティルカが夜な夜な改良に励んでいるのだろう。魔道具を作ったりするのが好きだから。

 そういったことも考慮して、アクアスティードはお土産を選んでいるような気がしてならないシュティリオだ。


「それにしても、いつ頃帰ってくるのかしら? わたくし、お母様たちに手紙を書こうかしら」


 一年も会っていないとさすがに寂しいと感じるようで、ルチアローズは頬を膨らませつつ便箋を手に取っている。

 しかし、タイミングよく二人がどこにいるかがわからないので、なかなか送ることができないでいるのだ。


「エリオットに頼んで魔法で送ってもらったらどうだ?」


 シュティリオの提案に、ルチアローズはうーんと悩む。


「せっかくだから、わたくしが魔法で自分で魔法を使って送りたいわ。今、グリモと練習中なの。ハルカのお母様もその魔法が得意でしょ? だから、ハルカにコツを教えてもらっているのよ」


 どうやらその魔法が使えるようになってから、自分の手でティアラローズたちに手紙を送りたいようだ。

 それならば、シュティリオが何か言う必要もないだろう。ルチアローズが魔法を使えるようになるように応援するだけだ。


 そんな話をしている横で、シュティルカは自分がほしいお土産をせっせと仕分けして抱え込んでいた。


「ちょ、ルカ。勝手に選ぶなよ。俺だってまだ見てないんだぞ」

「いいじゃないか。どうせ魔道具は私しか使い道がないだろうし。それとも、この水を浄化する魔道具いる?」

「いや、それはいらないけど……」


 シュティルカが選んだのは、すべて魔道具だった。

 残っているクッキーなどのお菓子類や小物などはルチアローズが手に取っている。

 シュティリオの元に残っているのは片がけのマントだとか、木彫りの置物、万年筆などだ。


 とはいえティアラローズが三人に合うと思って選んでくれているものなので、お洒落だし質も良い。


「じゃあ、俺はこのマントでもつけるかな」

「それがいいわ。とっても似合うもの」


 シュティリオがマントを肩にかけると、ルチアローズが拍手をしながら褒めてくれた。


「リオはマントが似合うよねぇ。片掛けって、格好いいよね。もしかしたら、エレーネも惚れ直しちゃうかも」

「ルカ!!」


 定期的に送られてくるティアラローズとアクアスティードのお土産で、マリンフォレストの王城は笑い声が絶えない。



 ***



 どこまでも広がる空と波の音。

 広い海原に、ティアラローズとアクアスティードはきていた。マリンフォレストを出発してから一年と少し。

 二人は旅行を続けていて、今は船で西の孤島へ向かっているところだ。


「風が気持ちいいですね、アクア」

「そうだね。ティアラ、船酔いは大丈夫?」

「はい」


 大きな船には、ティアラローズたちの他にも大勢のお客さんが乗っている。

 向かう先は観光スポットで、そこには大昔からある歴史的な遺跡があるのだという。

 噂によると何やら魔力が強いパワースポットらしく、それもあって訪れる人が多いようだ。



 島に到着すると、「いらっしゃ〜い!」と言葉に訛りのある島民たちが総出で出迎えてくれた。

 孤島とはいえ遺跡が観光スポットになっているだけあって、観光客向けの宿屋やお店がたくさんある。想像していたよりも発展しているようだ。


 船から降りると、歓迎の印に大きな花をティアラローズの髪につけてくれる。アクアスティードには、花輪を首にかけてくれた。


「ありがとうございます」

「ありがとう」

「ぜひ島を楽しんで行ってちょうだいね!」


 美味しいものもたくさんあるから、と歓迎してくれた島民がウィンクを飛ばしてくる。陽気な人が多そうで、この島でも楽しく過ごすことができそうだ。


 そんな島をきょろきょろとアクアスティードが見渡して、「あの店に行こう」とティアラローズに声をかけてきた。


「どこですか?」


 アクアスティードがこんなに積極的に言ってくることはあまりないので、ティアラローズは驚きつつも嬉しそうに頷く。

 そしてその視線の先を見ると、あったのは民族衣装を取り扱っているお店だ。


 ――わあ、可愛い雰囲気のお店!


 この島の民族衣装は、植物で染めた布に花の刺繍をしている。

 飾りに海で採れた貝殻を使い、小さなものをいくつもつなげ、シャラシャラと音がするようにつけられている。

 腰に巻いた大きな1枚の薄布は、ちょうど膝がかくれるくらいの長さだろうか。足元はサンダルとマリンフォレストの貴族の女性たちから見たら随分肌の露出が高い。


 ――ああいった丈の服は、この世界ではあまり見なかったわね。


 日本では日常的に着られているものだったため、ティアラローズはあまり気にはならないけれど。

 男性も同じデザインのハーフパンツの民族衣装があったので、ティアラローズはアクアスティードの手を取って一緒に着てみないかと誘う。


「ティアラが着た姿を見たいとは思っていたけれど、いいの?」

「もちろんです。せっかくだから着ていきませんか?」


 ティアラローズがそう言うと、アクアスティードは驚いて目を瞬かせた。


「私は宿で二人きりになったら着てもらおうと思っていたのだけれど」

「え? あ……」


 マリンフォレストのドレスから比べると露出が高いそれを、ティアラローズに強引に着せるようなつもりはなかったようだ。

 というよりも、アクアスティードがそんなティアラローズの姿をあまり他の観光客や島民に見せたくなかったのだろう。


 その意図に気づき、ティアラローズは顔を赤くする。


 ――そうよね。水着ではないのだし、普段着にするには……。


「でしたら、一緒に宿屋で着ませんか?」

「そうだね」


 ティアラローズの言葉に頷いて、アクアスティードはあれもいいこれもいいと結局数着の民族衣装を購入することになった。

 もちろん、ティアラローズもアクアスティードが着る民族衣装を数着選んだ。



 宿屋を取った後は、一度荷物を置いて観光の目玉である遺跡までやってきた。


 遺跡は古い石造りの建物になっていた。階数は中の構造がわからないけれど、三階から五階程度だろうか。

 中に入ると等間隔に松明が並び、明るさが確保されている。冷んやりした石が気持ちよくて、島民たちの休憩スポットにもなっているようだ。


 通路には壁画があり、人々が昔どのように暮らしていたかを描いているものらしい。


「こういったものを見るのも楽しいですね」

「興味深いね」


 ティアラローズたちが壁画を見ながら歩いていると、不意にその様子が変わってきた。


「……んん?」


 今までの壁画は海に潜って魚をも獲る海女さんだったり、農業を営む男性だったり、大工だったり、狩猟だったりというものだったのだけれど、どう見てもソファに座ってテレビでゲームをしているように見える壁画があった。

 それを見たアクアスティードは、止まって「これは一体何を示しているんだろうね」と首をかしげた。


「この島特有の作業か何かだろうか?」

「どうなんでしょう……」


 ――もしかして乙女ゲームをしているのかしら。


 ティアラローズはそんなことを考えてしまった。けれど、歴史的価値のありそうな遺跡でこれは乙女ゲームです! とは言いづらい。

 そもそもティアラローズの勘違いかもしれないのだから。


「不思議な。壁画ですね」


 若干引きつった笑い声になってしまったけれど仕方がない。

 そんなティアラローズを見たアクアスティードが、こっそり耳打ちをしてきた。


「もしかして、ティアラの前世に関わるもの……とか?」

「――!」

「その反応は、あたりみたいだね」


 ティアラローズの反応で、アクアスティードは察したようだ。くすくす笑って、「どういう状況なの?」と聞いてくる。


「あ〜あれは〜〜……」


 ダラダラして遊んでいるというべきか、真剣な儀式ゲームというべきか、なんというべきか……ティアラローズは悩む。


「あれは……そう……心のエネルギーを回復しているのです!」


 多分そんなに間違ってはいない……はず!

 堂々と言ったティアラローズだったが、「なるほど、すごいんだね」と真顔でアクアスティードに返されてしまい羞恥で顔が赤くなるのだった。



 それから遺跡の中を1周して中央まで行くと、上へ上る階段があった。


 そこを上ってみると遺跡の屋上に出た。夜はちょうど月の光が当たるのだと、屋上にいる観光ガイドの方が説明してくれる。


「なんだか神秘的な場所ですね」

「うん。こういった他国の歴史ある建造物を見るのは楽しいね。あまり今まで機会がなかったけれど、これからはもっとたくさんのものが見られたらいいと思うよ」

「はい」


 この次に旅行に行く国にも、きっと歴史的価値のある遺跡などはあるだろう。

 そういったものを探して国を決めるのもいいし、もしかしたらまだ発見されていないような遺跡があるかもしれない。そう考えると、この旅行はとてもワクワクがたくさん詰まっている。


 遺跡の屋上にだけ咲くと言われている月の花をお土産に購入し、ティアラローズたちは宿へと戻った。



 ***



「やっぱりティアラは何を着ても似合うね」

「あ、アクアこそ、とても似合っています」


 宿屋へ戻った二人は、さっそく先ほど購入した民族衣装を着てみた。


 薄手のヒラヒラした衣装は、ティアラローズが歩くたびに装飾品の貝殻がシャラシャラと揺れる。

 その音は涼しげであると同時に、ほんの少しばかりマリンフォレストの海を思い出させる。


 一年も帰っていないのでさすがに少し恋しいし、子供たちが元気かどうかも気になってくる。


「なんでしょう。……ホームシックではないですけれど、久しぶりにみんなに会いたいですね」

「確かにそうだね。もう一年経ったし、マリンフォレストに戻るとしてもここからは数ヶ月ぐらいかかる」

「確かに帰り道もありますものね」


 この世界での移動は基本的に馬車だ。

 急ぐのであれば乗馬でも構わないけれど、街に寄るたびに馬を替えたりしなければいけないのでかなり大変だ。


 ――飛行機や新幹線って本当にすごい発明よね。


「あ、そうだ」

「アクア?」


 アクアスティードが閃いたとばかりにティアラローズを見る。


「せっかくだから、ここの民族衣装をお土産にして一度帰ろうか。ルカとリオも、何か相談したいことがあるかもしれないからね」

「即位後すぐに任せるスパルタでしたものね」


 子どもたちがどのように過ごしているかこの目で確かめてみるのもいいだろう。もしかしたら、悩み事を抱えている可能性だってある。


「たくさんのお土産を買いながら帰りましょう」

「辻馬車じゃ乗せ切れずに、馬車を何台か購入した方がいいかもしれないね」


 ティアラローズが買い込むであろうお土産の量を想定して、アクアスティードが笑う。


「そこまでではない――とは、言い切れないかもしれません」


 全く笑えないと、ティアラローズは肩をすくめる。

 子どもたちはもちろん、フィリーネやエリオット、オリヴィアやレヴィたちにもたくさんのお土産を買って帰りたいと思っている。


「顔見て少しゆっくりしたら、今度は北の方に旅行へ行こうか」

「それは楽しみです!」


 もしかしたら、他の国にも、先ほどの壁画のような運営の悪戯心――みたいなものがあるかもしれない。


 ――そういうのを探すのも楽しいかもしれないわね。


 ラピスラズリ王国にも寄って、アカリに教えてあげるのもいいだろう。


「楽しみですね、アクア」

「そうだね」


 これからアクアスティードと過ごす時間が、さらに楽しみで仕方がない。ティアラローズはぎゅっとアクアスティードの手をとって、とびきりの笑顔で微笑んだ。

これにて完結です!

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

長く連載できて楽しかったです。


コミカライズはまだ続いておりますし、書き下ろしがある書籍版などもどうぞよろしくお願いいたします。


少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。

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