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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第15章 悪役令嬢の幸せ生活
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14. ティアラローズの露店

 マリアの家を後にしたティアラローズとアクアスティードは、街の商業ギルドにやってきた。

 ここで登録すると、街の一角に露店を出したり売買をしたりすることができる。


「でも、こんなに突然来て登録できるのでしょうか?」

「お祭りの期間はそれ専用の露店がいくつかあって、簡単な登録で商売することができるみたいだよ」

「それはいいですね」


 ティアラローズが不安を口にすると、アクアスティードがざっくり説明をしてくれた。思ったよりも手続きが簡単そうで、ティアラローズはほっとする。

 けれど、お祭りの機会でもなければこんなことはできなかっただろう。


 商業ギルドの中は、ティアラローズたちのように露店で商売しようと思っている人たちで溢れ返っていた。

 普段この街で商売していない人たちが多く、新規の登録が盛んに行われているようだ。

 いくつかの受付があり、お祭り限定の新規受付には長蛇の列ができていた。かなり待つことになりそうだ。


「さすがはチョコレートのお祭り。大人気ですね」


 ティアラローズたちは受付の列に並びながら、どんなお菓子を販売しようか話し合う。


「チョコレートがメインのものですと、クッキーもいいですし、焼き菓子、チョコドーナツもいいかもしれませんね。さすがに生ものは厳しいですが……う〜ん、悩んでしまいますね」


 ティアラローズは作りたいお菓子がたくさんあるようで、あれもこれもと頭を悩ませている。


「ティアラのお菓子はどれも美味しいから、迷ってしまうね」

「ありがとうございます。アクアは、特にお気に入りのお菓子はありますか?」

「そうだね、私は――」


 アクアスティードが食べたお菓子の中で印象的なものをあげようとした瞬間、「どうぞ」と呼ばれてティアラローズたちの順番がやってきた。


「ああ、順番が来たみたいだね」


 そう言って、アクアスティードは各国で使える身分証を取り出した。

 ティアラとアクアの名前で使える身分証を国で用意していて、それを見せれば登録ができるという仕組みになっている。

 基本的にティアラローズとアクアスティードが王族という情報は伝わらないけれど、特殊な形態の身分証ということはギルド職員にも見ればすぐわかる。

 そのため、身分証を提出すると職員がハッと一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに対応してもらうことができた。


「なんだか特権を利用しているようで申し訳ないけれど、助かるわね」


 ティアラローズは苦笑しつつも、露店の許可を得て説明を受けた。

 ティアラローズとアクアスティードが借りたのは、大通りから1つ逸れた道に入ったところにある。

 主にお菓子を取り扱う露店がメインで並んでいる、スイーツ通りだ。


 利益の5パーセントを商業ギルドに納めれば使うことができる。

 その他、簡単な登録料などがあるけれど、その程度でほかの煩わしい手続きなどはなかった。


「こんなに簡単に商売ができるなんてすごいわね」

「お祭り期間中の措置とはいえ、これは私たちの国でも見習う必要があるね」

「ええ。帰ったらルカとリオにも相談しましょう」


 ティアラローズもアクアスティードも、自分の国にはないいいところを見つけたら柔軟に取り込んでいきたいと思っている。

 今回の世界旅行では色々な発見があり、マリンフォレストの発展に役立つことも多いだろう。



 ***



 そして待ちに待った、お祭り当日がやってきた。

 街の中はチョコレートの美味しそうな香りが溢れ返り、ティアラローズは思いっきり息を吸い込んで幸せそうな顔になる。


「はああぁぁ〜! 見てください、アクア。どっちを向いてもチョコレートが売っていますよ!」

「これはすごいね、想像以上だ。……でも、あまりの甘い匂いにクラクラしてしまいそうだよ」


 よくみんな平気で歩いているものだと、アクアスティードは感心してしまう。チョコレート嫌いだと、きっとこの国では生活できないだろう。


「わたくしからすれば天国みたいな街ですけれど、確かにそうかもしれませんね」


 アクアスティードの言葉にくすくす笑いながら、自分たちに割り振られた露店の前へやってきた。

 貸し出してもらった露店は、水色と白のストライプの模様の愛らしい外観だった。


「わああ、これがわたくしのお店……。なんだかドキドキしますね」

「自分たちで作ったものを売ることなんて、そう経験することではないからね」

「さっそく準備していきましょう」


 ティアラローズはふんすと気合いを入れて、チョコレート色のエプロンをつける。これは昨日、今日のために購入したアクアスティードとお揃いのエプロンだ。


 そこに並べるのは、ティアラローズとアクアスティードがほぼほぼ徹夜で作ったお菓子だ。

 こっそりお菓子の妖精にも手伝ってもらっているので、突発的に参加表明をした割には商品を用意することができた。


「それじゃあ、準備しようか」

「はいっ!」


 持ってきた木箱の中から、色とりどりの花の蝋燭を取り出した。

 それを露店のカウンターに並べ、その上に台を置きその上にチョコレートの入った小さなカップを置いていく。


 これはティアラローズとお菓子の妖精、森の妖精の合作だ。簡単にいえば、お手軽にチーズフォンデュやチョコレートフォンデュができる。

 今回はその溶かしたチョコレートに、クッキーをつけて食べるというのが用意したお菓子だ。

 火を扱うので少し注意が必要だけれど、お客さんに渡すときには温かく溶けたチョコレートとクッキーを五枚渡すだけなのでそんなに危険はない。


 アクアスティードが蝋燭に火をつけると、上に置いたカップの中でチョコレートが溶けてきた。


「ティアラ、どうかな? 上手くできてると思うけど……」

「バッチリだと思います!」


 横でクッキーの入った袋を並べていたティアラローズは、甘いチョコレートの香りにうっとりした表情になる。

 細かくカットされているチョコレートは、昨日の夜にアクアスティードが風魔法を使って用意してくれたものだ。

 前世でチョコレート関係のお菓子を作る際、包丁で刻んでいたことを思い出したティアラローズは少し遠い目をしたとかしなかったとか。


 溶けだすチョコレートの甘い香りが周囲に漂って、道行く人たちがティアラローズの露店を見始めた。


「すごく注目されてるね。ティアラの作るお菓子は美味しいから当然だけど……」

「言い過ぎですよ、アクア」


 アクアスティードは手放しでティアラローズのことを褒めるので、時折、客観的な自分の評価がわからなくなってしまう。けれど、通りすがりの人々が美味しそうな顔でこちらを見てくれているので、あながち外れてはいないかもしれない。


「せっかくだし、実食してみませんか?」

「いいね」


 花の蝋燭で溶けたチョコレートにクッキーをつけて、ティアラローズが一口食べる。

 温かいチョコレートが口の中いっぱいに広がり、その後すぐサクっとほろほろしたクッキーの食感。


「んん〜、美味しい! アクアもどうぞ」


 ティアラローズがアクアスティードの口元に持っていくと、ぱくりと食べてくれた。


「ありがとう。ん、美味しい」


 甘いねと言いながら微笑むアクアスティードは、とても満足そうな顔をしている。


「これなら売れそうだし、なんならマリンフォレストに戻ってからお店を出してもいいくらいだ」

「アクアったら……」


 ティアラローズたちがそんなやり取りをしていると、そわそわした人たちが周囲に集まってきた。

 そして、そのうちの数人が声をかけてきた。


「あの、もう販売は始まっていますか?」

「並んでてもいいですか?」


 すると、それに続くように他の人たちもやってくる。


「私も並びたいです」

「俺も!」

「その蝋燭もすごいな。見てもいいか?」


 わっと人が寄ってきて、ティアラローズにいろいろなことを質問してくる。

 通りすがりのお客さんから、普段お菓子を作っているだろうと思われる職人まで、多くの人が目を止めてくれたようだ。


 ティアラローズは慌てつつも「どうぞ」と声をかけて並ぶように促した。

 その列をアクアスティードが整理してくれて、その間に準備を行っていく。一瞬で行列ができてしまった。


「これは……作ってきたお菓子で足りないかもしれませんね」

「やっぱりティアラのお菓子は世界一だね」


 もしかしたら足りなくなってしまうかもしれないと思いつつも、「販売を開始します!」とティアラローズは声をあげた。



 ――今日は早々の店じまいを覚悟した方がいいかもしれないわね。


「お一つですね。ありがとうございます」

「次にお並びの方、こちらへどうぞ!」


 ティアラローズとアクアスティード二人で販売を行い、どんどんチョコレートを販売していく。

 チョコレートを溶かしながら売っているので、正直に言ってしまうと列に対して商品が追いついていない。


 ――これは、わたくしの選択ミスだわ。


「すみません、アクア。こういったお祭りではすぐに渡せるものを用意しなければいけませんでしたね……」


 温かいチョコが食べられるし、見た目も可愛らしい。そのため、今回のチョコフォンデュにしたのだが……回転率が悪く、あまり良くない結果になってしまっている。

 しょんぼりするティアラローズに、アクアスティードは「大丈夫だよ」と言って笑う。


「早く買えるお菓子を売っているところもあるのだから、ティアラはティアラらしいお菓子を販売すればいいと思うよ。ゆっくり味わいたい人が買いに来てくれればそれでいいんじゃないかな?」


 アクアスティードの言葉に、ティアラローズの気持ちがふっと軽くなる。


「……確かにそうかもしれませんね。効率がいいわけではありませんが、このお菓子にはこのお菓子の楽しみ方がありますものね!」


 とはいえ、早く会計できることに越したことはない。

 ティアラローズは販売をしながらチョコレートを器に乗せ、花の蝋燭にかけていく。それを繰り返しているうちに、慣れて作業スピードも上がってきた。


 すると、どこからともなく『ティアラ〜』という声が聞こえてきた。見ると、空にお菓子の妖精がいるではないか。


「みんな……!」

『じゃじゃ〜ん!』

『足りないかもと思って、持ってきたよ〜!』


 その手には花の蝋燭やチョコレートを持っていて、手伝いに来てくれたのだということがわかる。


「お菓子の妖精たちがティアラの助っ人に来てくれたみたいだけど……」


 アクアスティードはそう言って周囲を見る。


「ものすごく注目されてるね」


 並んでいたお客さんたちは、妖精を初めて見た人がほとんどだったようだ。とても驚いた顔をしつつも、「可愛いぞ!」と目を輝かせている。


「なんだあれは!?」

「もしかして、マリンフォレストにいる妖精じゃない?」

「初めて見た!」

「妖精だ! しかも、お菓子の妖精だ! 俺は、この間マリンフォレストに行ったときに見たんだ!」


 と色々な声があがっている。

 すると、今度は「あそこ、お菓子の妖精が売っているチョコレート屋さんみたいよ!」とさらに人が増えてきた。

 行列だったのに、さらに行列になってしまった。


「どうしましょう、アクア。お菓子の妖精が来てくれたのは嬉しいけれど……大混乱だわ」

「そうだね。でも、もう来てしまったから……」


 今更帰ってもらっても、どうしようもないかもしれない。

 周囲の人たちはお菓子の妖精が来たことにとても喜んでいるし、チョコレートの祭りにお菓子の妖精が来るなんて。と感激している。


「ならば、ここはお菓子の妖精たちと一緒に盛り上げてしまうのがいいかもしれませんね」


 ティアラローズはそう言って、お菓子の妖精たちに声をかける。


「お菓子の妖精たち、今日はチョコレートのお祭りよ。盛大に盛り上げるために、力を貸してくれるかしら」

『うん、任せて〜!』

『チョコレートのお祭りだ〜!』


 ティアラローズの掛け声を聞いたお菓子の妖精たちは、空中でチョコレートのお菓子をたくさん作ってくれる。

 それはどんどんティアラローズの露店に並び、比例して噂を聞きつけた人たちも溢れてくる。


「お菓子の妖精のお菓子、お願いします!」

「こっちもだ!」

「うわ、買うためにはあの列に並ばなきゃいけないのか!?」

「すみません、しっかり並ぶようにお願いいたします……!!」


 このまま販売していては大変なことになってしまいそうだけれど、もう止まることはできない。このまま販売し続けるしかない。

 幸いお菓子のお妖精が来たとはいえ、在庫はそんなに多くない。早めに売り切ってこの場を後にした方がいいだろう。


「なんだか天手古舞になってしまいましたね」

「だけど、なんだか楽しいね」

「はい」


 お菓子の妖精の協力のもと、急いでお菓子の販売を行い、ティアラローズの露店は大きな盛り上がりを見せたのだった。

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