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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第15章 悪役令嬢の幸せ生活
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5. 挨拶

 約束通りお茶会をしようということで、ティアラローズたちはお茶会室へ集まった。

 参加するのは、ティアラローズ、ルチアローズ、シュティルカ、シュティリオ、アカリ、ハルカ、オリヴィアだ。レヴィはどうやら給仕に徹するようで、オリヴィアの後ろに控えている。


 目の前に並ぶお菓子は、どれも美味しそうだ。


「これって、お菓子の妖精が作ってくれたんですよね!?」

「ええ、朝からみんな張り切ってくれたので、わたくしと一緒に作ったんです」

「なんとティアラ様が!? 美味しさ間違いなしですね」


 ずらっと並んだお菓子を見て、アカリはテンションを上げる。

 隣に座っているハルカも楽しそうにお菓子を見ている。どうやら、動物の形をしたクッキーや、ひよこをモチーフにしたケーキなど、そういったものが気に入ったようだ。食べたそうにじーっと見つめている姿がとても可愛らしい。


「ハルカくん、いっぱい食べてくださいね。遠慮はしなくていいですよ」

「あ……はい。ありがとうございます」


 ティアラローズの言葉に、ハルカはふわりと微笑んだ。アカリと違って大人しく、とてもお行儀がよい。

 すると、ルチアローズとシュティルカ、シュティリオが「これもおすすめだよ」と自分たちが好きなお菓子をハルカの元へ持っていく。


「わ、ありがとう」


 子ども同士、仲良くできているようだ。

 そんな子どもたちを見て、ティアラローズは本当ならばもっと遊ばせてあげたらいいのだけれど……と思う。


 どうしても国が違うので、そう頻繁に会うことはできない。

 幼馴染のような関係になれたらいいけれど、会う回数が少ないのでそこは少し申し訳ないような、そんな気持ちにもなる。


「うんうん、仲良くできていいですね。やっぱりルチアちゃんはハルカのお嫁さんになってくれたら……でも、アクア様よりハルカが強くならないといけないんですよね。帰ったらビシバシし鍛えなきゃ……!!」


 アカリの脳内で立ち始めた作戦に、ティアラローズはため息をつく。そんなことをしては、ハルカが大変ではないか。


「アカリ様……。駄目ですよ、勝手にそんなことをしては。ハルカくんと、ハルトナイツ殿下ときちんと話し合ってくださいませ」

「はぁい」


 諭すようなティアラローズの言葉に、どこかがっくりしつつもアカリは素直に頷いた。



 ティアラローズたちがお茶会を頼んで楽しんでいると、不意に二人の来客が訪れた。転移をして現れたのは、パールとクレイルだ。


「なんじゃ、茶会をしておったのか」

「少し邪魔するよ」


 二人の姿を見たアカリは瞳を輝かせ、「また会えるなんて!!」と感激している。オリヴィアの鼻はレヴィがレースのハンカチですかさず保護した。


 しかし、そんなアカリたちは気にしていないとばかりにクレイルが用件を口にする。


「実はこれからパールと二人で旅行に出るんだ。しばらくマリンフォレストを離れるから、挨拶をね」

「まあ、そうだったのですね」


 以前、パールとクレイルが代替わりをし、新婚旅行に行くという話だろう。

 しかしティアラローズが頷くより早く、アカリが反応した。


「旅行に!? だったら、ラピスラズリに来てください! ぜひ!!」


 間髪入れずにそう口にしたアカリに、クレイルの表情が消える。絶対に嫌だと思っているような、アカリには関わりたくないと思っているような、そんな顔だ。


「アカリ様、お二人にそのようなことを言っては迷惑になりますよ」

「でもでも、ラピスラズリに来ていただけるチャンスなんて滅多にないじゃないですか。もしかしたらラピスラズリにも空と海の妖精が生まれるかもしれないし……」


 アカリの脳内ではハッピーなことがたくさん起きているらしい。

 そんなアカリの期待を裏切るかのように、パールが「わらわたちはもう妖精王ではないぞ」と告げた。


「えっ!?」


 二人が妖精王ではなくなっていることに驚いたアカリは、「本当ですか!?」と思わずティアラローズを始め全員の顔を見た。

 説明していいのかわからなかったティアラローズはちらりとクレイルを送ると、肯定するように頷かれた。

 どうやら、説明しても大丈夫なようだ。


「パール様とクレイル様は妖精王を次代に譲り、結婚されるんです。今回の旅行は新婚旅行ですよね」

「そうじゃ」


 ティアラローズの言葉に、照れつつもパールが返事をしてくれた。その姿はとても可愛らしくて、クレイルが嬉しそうに視線を向けている。


「え、結婚!? ついにですか! わ~~~~、おめでたーい! おめでとうございます、パール様、クレイル様!!」

「ありがとうじゃ」

「ありがとう」


 くるくる回って身体全体でハッピーを表すアカリに、ティアラローズは笑う。


「アカリ様ったら」

「いやもう、これでも足りないくらい嬉しいですよ!でも、まさかそんな理由で妖精王が代替わりするとは思わなかったので驚きました。ということは、もう次の妖精王は決まってるんですか?」


 アカリの問いかけにクレイルは頷く。


「引継ぎにも区切りがついたところだよ」

「旅行へ行く挨拶ついでに、お主たちに紹介しようとも思っていたのじゃが……アクアスティードはおらぬようじゃな」


 お茶会室を見回したパールがそう言ったので、ティアラローズは「執務中なんです」と苦笑する。


「まあ、挨拶と言っても少しだけだから問題ないだろう」


 クレイルは構わないといった様子で、パチンと指を鳴らした。すると、強制転移させられたアクアスティードがパッとその場に姿を現した。

 座ったままの姿勢で片手にペンを持ち、まさに今まで書類仕事をしていたということがわかる。


 突然の転移にアクアスティードは顔をしかめたが、すぐに状況を把握したようで、クレイルとパールに「例の旅行に行くのか?」と問いかけた。


「引き継ぎも終わったからね」

「まだまだじゃが、あとは妖精王として過ごしていくうちに慣れるじゃろうて」


 クレイルとパールの言葉に、アクアスティードはそうかと頷いた。


「しかし、いきなり呼び出すのはやめてくれると助かる」

「善処するよ」


 アクアスティードはクレイルの善処しないであろう返事に肩をすくめながら、ティアラローズの元へ行って横に並んでエスコートする。


「執務中だったのに、すみません」

「ティアラが気にすることじゃないよ」


 二人の様子を見て全員が立ち上がり、紹介されるであろう妖精王たちを待つ。


「では、紹介するかの」

「私たちの後を継ぐ妖精王だ」


 パールとクレイルの言葉とともに、新たな二人の妖精王が転移で姿を現した。


「わらわの跡を継ぐのは、シズリアじゃ」

「お初にお目にかかります。新たな海の妖精王に任命されました、シズリアです。どうぞよろしくお願いいたします」



 新たな海の妖精王、シズリア。

 王の証である金色の瞳。艶やかな黒の長い髪を揺らし、真珠にリボンとレースをあしらわれた髪飾りをつけている。

 着ているものはパールに似た着物風のドレスだ。

 外見年齢は十代前半といったところだろうか。おとなしそうな見た目だけれど、その瞳は凛と輝いている。



 次にクレイルが一歩前に出て、「私の後任だよ」と新たな空の妖精王を紹介してくれる。


「パーシィ」

「はい。クレイル様の後を引き継ぎました、パーシィと申します。どうぞよろしくお願いいたします」



 新たなる空の妖精王、パーシィ。

 王の証である金色の瞳。爽やかな水色の髪に、白を基調にした布地の多いローブをまとっている。

 百八十センチ以上あるしなやかな体格はほどよく鍛えていて、さすがは乙女ゲームの世界というところだろうか。

 人の良さそうな好青年で、しっかりクレイルの後を引き継いで仕事をしてくれそうだ。



 ――二人とも、しっかりしていそうね。


 挨拶した二人を見て、ティアラローズは安堵の息をつく。これから先、お菓子の妖精王としてティアラローズが二人と接することは多いだろうからだ。

 ティアラローズが微笑みながら見ていると、アカリが「はいはいはい!」と元気よく手をあげた。


「今まで小さな妖精しか見たことなかったですけど、大人サイズの妖精もいたっていうことですか?」


 最もらしいアカリの疑問に、ティアラローズも確かにと頷いた。

 今まで妖精王は人の姿をしていたけれど、妖精たちは手のひらサイズと小さかった。大人の人型の妖精は見たことがない。


 アカリの問いに、パールは「ああ、そんなことか」とシズリアたちを見る。すると、それに応えるようにシズリアが説明をしてくれた。


「わたくしたちは、次代の妖精王に任命されるとともに、その力が大きくなり人型になることができるのです。元々は、わたくしたちも他の妖精たちと同じ大きさだったのですよ」

「そうだったんですか! すごい! 妖精の神秘ですね‼︎」


 アカリが目をキラキラさせて、「じゃあ、他の妖精たちも王になったら大きくなるってことですか!? めちゃくちゃいい……‼︎」などと言っている。

 オリヴィアは無言でこそあるが、ハンカチを赤く濡らしながらうんうんうんと何度も高速で頷いている。


 そんなアカリとオリヴィアの様子を見たクレイルは、やれやれと肩をすくめつつも二人の力について話をしてくれる。


「元々妖精とはいえ、今はもう王の証の瞳を持つ立派な妖精王だ。さすがにキースに比べれば劣りはするけど、妖精王としての仕事は問題なくこなすことができるよ」

「はい」

「お任せください」


 パーシィとシズリアが頷き、やる気に満ち溢れた顔をみせてくれる。


「わたくしもお菓子の妖精王として、お二人に関わることが多いと思います。よろしくお願いしますね」

「はい!」


 ティアラローズの言葉にシズリアとパーシィが頷いたのを見て、クレイルが「そろそろ行こうか」とパールに手を差し出した。


「そうじゃの」


 パールがクレイルの手を取ると、二人はティアラローズ、アクアスティードをはじめ、順番に全員の顔を見た。

 最初に口を開いたのはクレイルだ。


「私はマリンフォレストのことを建国から知っているし、こう見えても大切に思っているんだ。アクアスティード、ティアラローズ。私たちがいない間のマリンフォレストをよろしく。もちろんパーシィとシズリアもね」


 真剣味をおびたクレイルの言葉に、ティアラローズは息を呑んだ。

 ゆっくり頷き、クレイルとパールの二人を見て、安心して旅行できるようティアラローズも思いを伝える。


「わたくしもマリンフォレストが大好きです。アクアと二人――いえ、オリヴィア様や妖精たちもいますね。みんなで守ってみせます。どうぞ安心して行ってきてくださいませ」

「ああ。私とティアラをはじめ、全員でこの国を守っていくよ」


 ティアラローズとアクアスティードに続き、パーシィとシズリアも大きく頷く。


「ええ。私もクレイル様の後をしっかり引き継ぎたいと思います」

「パール様、お任せくださいませ!」


 自分の後継者が頼もしく見えたのだろう。パールは誇らしげに口元を弧に描く。


「んむ。そなたたちに任せれば大丈夫じゃろうて。しっかり励むのじゃぞ」

「はい‼︎」


 パールの言葉には、シズリアとパーシィがしっかり応えた。


「それじゃあ行こうか」

「そうじゃの」

「いってらっしゃいませ」

 手を取りあったパールとクレイルがいってきますと微笑んで、転移した。


 ――二人の旅路が幸せでありますように。


 ティアラローズはそんな風に祈りながら、パールとクレイルを見送った。

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