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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第15章 悪役令嬢の幸せ生活
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4. 魔力の行方は……

 アクアスティード、シュティルカ、シュティリオが声をあげてティアラローズを助けようとしたのだが――しかし、それは逆効果になってしまった。

 三人がティアラローズに触れた瞬間、その力が混ざってしまったのだ。


「いやあぁぁっ、アクア様とルカ君とリオ君の魔力がさらに混ざってる。やばい!やばいけどこの設定は美味しい!!」

「アカリ様!!」


 どうしようもないアカリの言葉に混乱しつつも、ティアラローズは窘めるように声をあげる。

 しかし、どうしたらいいかわからず、ティアラローズとアカリの手は繋げられたままだ。離すに離せない。


 後ろから見ていたオリヴィアもどうすることはできないらしく、「どうすればいいの!?レヴィ、わかるかしら!?」と問いかけている。

 が、さすがのレヴィもこれには対処できないようだ。力なく首を振っている。


「お母様!!」


 ルチアローズが慌てて前に出てくるが、魔力の扱いが得意なわけではないため、こちらもどうすることもできないようだ。グリモワールを手にしているが、さすがにこれは専門外らしい。今の状況を打破することはできないだろう。


 ――どうすればいいの!?


 ティアラが不安からぎゅっと目をつぶると、後ろから大きな手に包まれた。


「……っ!」

「大丈夫。落ち着いて、ティアラ」

「あ、アクア……!」


 添えられた手は暖かい。そこから緊張がほどけていくように、大丈夫だという思いが強くなっていく。

 とはいえ、このままの状況はよくない。


「アカリ嬢は、この状況をどうにかするのは難しそうだな」

「一応、必死に抑えてはいるんですけど……」


 難しいと思いつつも、アカリは必死に大きく膨れ上がった魔力を制御しようと踏ん張ってくれているようだ。

 ふざけたことを言ってはいたけれど、今は眉間にシワを寄せてものすごい顔をしながら集中力を発揮してくれている。ヒロインとは程遠い顔だ。


 ティアラローズはアクアスティードが支えてくれたことにより、少しずつ冷静さを取り戻していった。

 ここでパニックになってしまっては、この状態を打破することはできないだろう。落ち着いて自分のできることを考えるべきだ。

 深く深呼吸をして、ティアラローズは集中する。

 すると、自分の魔力とアクアスティードの魔力、そして先ほど少し触れてきたシュティルカとシュティリオの魔力も感じることができた。


 ――確かにこれだけの魔力があったら、コントロールが不可能になるのも当然よね。


 このあり余った大きな魔力をどうするか。今はそれが問題だ。

 ティアラローズのキャパシティはもういっぱいいっぱいだし、アカリもヒロインではあるけれど、さすがにこれ以上の魔力を扱うことは難しいだろう。


 アクアスティードもそうそう余裕はない。ティアラローズが対策を考えていると、シュティルカとシュティリオが横に来た。


「母様、私たちにも手伝わせてください」

「……先ほどのようなミスはしません」

「ルカ、リオ!」


 二人の力強い言葉にティアラローズは驚いた。


 ――この状況下で冷静に判断を下せることができるなんて……。


 思いがけない自分の息子の成長に、こんな状況だがティアラローズは嬉しい気持ちになってしまった。

 自分の後ろにいるアクアスティードを振り返り、ティアラローズは目配せをする。シュティルカとシュティリオが加わることを、アクアスティードはどう思っているだろうか。


「……わかった。危険だけれど、本気のようだからね」

「父様!!」


 アクアスティードは二人の心配をしていたけれど、シュティルカとシュティリオの真剣な瞳を見てすぐに了承してくれた。二人の息子を信じてくれるようだ。


 その様子を見ていたアカリが、鼻息を荒くする。


「ルカ君とリオ君ならやれると私は信じています。だって、だって。ティアラ様とアクア様の息子ですからね!!」


 苦しいながらも目をキラキラさせているアカリは、まるで乙女ゲームをプレイしているかのようだ。


 アカリの声を合図に、シュティルカとシュティリオは互いに目視線を交わして頷き合う。

 シュティルカはティアラローズの右側に、シュティリオはティアラローズの左側に、それぞれ立つ。二人はティアラローズ、アクアスティード、アカリの手の上に自分たちの手を重ねた。


 すると、すぐにぶわっと魔力が大きく膨れ上がる。ピリピリとした緊張感が室内に走り、全員がごくりと息を飲む。


 シュティルカとシュティリオはやはりまだ8歳なだけあって、苦しそうな表情だ。

 日頃から自分の中の強大な魔力を抑え込んではいるが、他者の魔力も混ざっている。普段と比べたらまったく違う異質のようなものだろう。


 けれど、ここで負けるわけにはいかない。


「私は父様と母様の息子です。これぐらい大丈夫です」


 シュティルカの言葉にシュティリオも頷く。


「私だって日頃から鍛練してるんです。魔力ごときに負けたりはしません!」


 力強い息子達の声を聞いて、ティアラローズとアクアスティードはこれでは自分達が負けるわけにはいかないと苦笑する。


 ――わたくしも母親として、二人にいいところを見せなければいけないわね。


 ティアラローズはゆっくり目を閉じ、集中を高めていく。

 今、溢れ出してしまいそうな魔力を広がらないように、自分たちの手を中心にまとめていくイメージを思い描く。


 妖精王の力をうまく使えば、魔力はずっとずっと扱いやすくなると考えた。


「わたくしのお菓子の妖精王としての力が、きっと役に立つはずだわ!」


 すると、ティアラローズの力強い声に呼応するようにお菓子の妖精たちが姿を現した。王であるティアラローズを助けるためにやってきたようだ。

 溢れ漏れ出ていた魔力を、すぐに妖精たちがティアラローズの元へ戻しはじめた。


「わ、すごい。妖精たちが……!」


 ルチアローズはお菓子の妖精たちが現れたことに歓喜の声を上げ、「頑張ってお母様!」と応援してくれる。


『すごい魔力!』

『でも私たちは王様の味方だから、きっと大丈夫~!』


 ティアラローズのお菓子の妖精王としての力が、どんどん魔力を一つにまとめていく。それを補助するのはアクアスティードとアカリだ。

 シュティルカとシュティリオはその集まってきた魔力をどうにか制御しようと必死にコントロールしていく。


 その様子を見たティアラローズとアクアスティードは、頑張っている二人のことを見守ることを決める。

 抜群のセンスを持つシュティルカとシュティリオであれば、きっと扱うことができるだろう。

 そう信じ、託してみようと思ったのだ。もちろん、何かあればすぐに助ける心積もりはある。


 シュティルカとシュティリオは、ふっと自身の中に流れてきた魔力に息を呑む。普段感じるものとは違う魔力に、二人は目をパチクリさせて驚いた顔で見合わせている。


「力を抜いたらすぐに暴走してしまいそうだけれど……」

「父様たちの補助があるから、私たちでも扱うことができてる」


 歓喜に似た声を上げるシュティルカとシュティリオに、ティアラローズとアクアスティードは頬が緩む。

 二人ならばやれると思っていたけれど、こんなにも早くこの魔力を扱うことができるなんて。それを見たアカリもふふっと笑う。


「ルカ君とリオ君が頑張ってるんだから、ヒロインの私はもっと頑張らなきゃ!聖なる力を持つのだから、きっと二人の力にだってなれるはず!!」


 アカリが突然張り切って、ぐっと魔力に力を込めた。

 すると、シュティルカとシュティリオの魔力の扱いがしやすくなったようだ。二人はふっと表情を緩めて笑顔を見せる。


「これなら、私の中に取り込んでこの魔力を自分の力にできると思う」


 シュティルカの言葉に、その場にいた全員が驚いた。

 魔力のコントロールだけではなく、それを自身に取り込むことができると言ったのだから。その言葉にすぐ同意したのは、シュティリオだ。


「うん、今ならできそう」


 二人は魔力を手にとどめるようにして、ゆっくりゆっくりティアラローズたちから離れていく。

 離した手には溢れ出した魔力を持ち、それを自分の中へと取り込んだ。


「これが母様の……」

「父様の……魔力……」


 大きな力は、シュティルカにティアラローズのものが。シュティリオにアクアスティードの力が一部溶け込んでいく。


「温かいけれど、強大な魔力だということが……わかる」

「はい」


 緊張するようなシュティルカとシュティリオの声を、明るいアカリの声がかき消した。


「はああぁ~~、よかった! もう魔力の暴走は大丈夫そうですね。それにしても、ルカ君とリオ君がこんなにすごい活躍をするなんて……っ! 見られてよかった!!」

「……アカリ様」


 感激するアカリをティアラローズが窘め、すぐにシュティルカとシュティリオの下へ行く。


「二人とも、大丈夫? 気持ち悪いとか、そういったことはない?」

「普段と違う感覚があるかもしれない。どうだい?」


 心配するティアラローズとアクアスティードに、けれどシュティルカとシュティリオはあっけらかんと笑う。


「大丈夫です。いつもより魔力は多いけれど、扱いやすくなっている。そんな気がします」

「父様と母様の魔力だからかな?」

「……そうかも」


 シュティルカとシュティリオの言葉を聞いて、ティアラローズはホッと胸を撫で下ろした。


 ティアラローズとアクアスティードの魔力だからこそ、息子である二人によく馴染んだのだろう。

 加えて、子どもたちを思う気持ちがより一層、扱いやすくしているのかもしれない。


「はー……。どうなることかと思いましたけれど、無事でよかったです」

「そうだね」


 1歩間違えれば大変なことになったかもしれないけれど、最終的な着地地点だけを考えると、シュティルカとシュティリオには今回のことはプラスに働いただろう。

 ティアラローズとアクアスティードの魔力を取り込んだことでぐっと扱いやすくなった魔力は、今後の二人の力になるはずだ。


「はああぁぁんっ! 素晴らしかったですわ!!」


 全員が安堵したところで、パチパチパチパチパチとものすごい勢いで拍手が響いた。

 もちろんその出所はオリヴィアだ。ハンカチを赤く染め、涙を流し、素晴らしいと無我夢中で拍手を続けている。後ろに控えるレヴィも拍手をしてくれている。

 さらにその横にはルチアローズもいて、同じように拍手をしてくれている。どうやらオリヴィアに釣られたようだ。


 先ほどまでの緊迫した空気がオリヴィアによって拭われたような気がして、全員に笑顔が戻る。


『これは!』

『お祝いのお菓子パーティーしなきゃ!』


 お菓子の妖精たちも嬉しそうに手をたたき、次々お菓子を作り出し始めた。ケーキ、クッキー、アイスクリーム。どれも美味しそうな、お菓子の妖精スペシャルだ。


「わあ、すごい」


 一瞬でティアラローズの目が輝き、シュティルカとシュティリオもそわそわ嬉しそうにしている。

 どうやらこれから、夜更けまでお菓子パーティーが続きそうだ。

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