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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第15章 悪役令嬢の幸せ生活
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3. 魔力ドック

 アカリがハルカを連れてルチアローズの鍛錬の見学に行ったあと、ティアラローズは彼女の来訪を告げるためアクアスティードの執務室を訪れた。


 すると、執務室にはアクアスティード、エリオット、オリヴィア、レヴィの四人がいた。

 すぐこちらに気づいたアクアスティードが「ティアラ」と声をかけてくれる。


「お疲れ様です、アクア。実は、ご報告したいことがあってまいりました」

「何かあったのか?」


 アクアスティードの言葉に、ティアラローズは苦笑しながらアカリが来たことを告げる。すると、アクアスティードはまたか……といった顔で肩をすくめた。


 しかし逆にオリヴィアはアカリが来たと聞き、テンションを爆上げする。

 いつ鼻血が吹き出してもいいようにハンカチを顔にあて、「アカリ様が来られたのですか!?」と瞳をランランと輝かせている。

 レヴィはオリヴィアの後ろでハンカチの予備を準備している。オリヴィアのことに関しては、いつでも用意周到だ。



 この乙女ゲームの続編の悪役令嬢、オリヴィア・ルービアリア。

 元々は公爵家の娘だったが、功績を称えられ女伯爵の地位を手に入れた。そのままレヴィに求婚し、彼を伴侶に迎え入れている。

 ローズレッドの長い髪に、キラキラ輝くハニーグリーンの瞳。この乙女ゲームが大好きなガチのオタクだ。



 オリヴィアを影から支える、レヴィ・ルービアリア。

 整えられた黒髪と、オリヴィアの髪と同じローズレッドの瞳。執事服を元にしたデザインのジャケットに身を包んでいる。

 常にオリヴィアの執事として付き従っていた彼が、今ではオリヴィアと夫婦になり、とても幸せそうに過ごしている。



 オリヴィアの反応を見たティアラローズは、ふふっと苦笑しながらも、誘いの言葉を口にする。


「アカリ様が滞在している間に、みんなでお茶会をしましょう」

「ええ!ぜひ、いたしましょう!むしろ、今すぐにでも!!」


 気合が入りすぎて手をわきわきしているオリヴィアに、ティアラローズは笑う。


「今すぐは無理ですよ。アカリ様はハルカくんを連れてルチアの鍛錬の見学に行きましたから。ですが、本日の夕食はみんなで一緒にとりましょう。話したいこともたくさんあると思いますから」

「はあぁぁっ、楽しみですわ……!!」


 オリヴィアがそう言った瞬間、ハンカチが赤く染まった――。



「そういえば今は、何を話していたんですか?」


 オリヴィアがアクアスティードの執務室にいることが珍しかったので、ティアラローズは首を傾げつつ問いかける。

 すぐに、アクアスティードが話し合いの内容を教えてくれた。


「王城の修繕が終わったから、その確認をオリヴィア嬢にしてもらっていたんだ」

「そうだったのですね」


 王城の修繕とは、王族だけが知る緊急用の抜け道や、リリアージュとフェレスが封印されていた地下の間など、それら全般を指す。

 オリヴィアはゲームのことなら全て覚えているため、協力してもらい改めて王城内を修繕し、新しく地図を作ったのだ。

 もちろん王族のみが知る通路に関しては、地図に起こすことさえできないものもある。


「無事に修繕が終わってよかったです」


 ――けれど、少し寂しくもあるわね。

 こうして生きていくうちに、この世界のゲームとの接点が少しずつなくなっていくのだろう。



 ***



 本日の夕食はとても楽しいものになった。アカリが来たことにより、ずっと彼女が喋り続けている。

 ルチアローズの鍛練の様子がすごかっただとか、ラピスラズリではどういったものが流行っているだとか、そういったことをいろいろと話してくれる。


 夕食の会はティアラローズとアクアスティード、それからルチアローズとシュティルカとシュティリオ。オリヴィアとレヴィ、エリオットとフィリーネ、そしてアカリとハルカだ。

 ルチアローズとハルカは昼間に仲良くなったようで、楽しそうにおしゃべりしながら食事をしている。


 ――もしかしたら、アカリ様の作戦通りになってしまうかもしれないわね。


 と、ティアラローズはそんなことを思う。


 すると、その様子を見ていたアカリがルチアローズに言葉を投げかけた。


「ねえねえ、ルチアちゃん。ルチアちゃんは将来どんな人と結婚したい?」


 その発言に、場にいた全員がゴクリと息を飲む。


「んー……お父様みたいな人!」

「――!!」


 ルチアローズは何の悪気もない、輝かんばかりの笑顔で言い切った。


 ――アクアより強い人なんて、そうそういないわよね。


 脈なし宣言のようなものだけれど、しかしアカリはあきらめきれないみたいだ。


「なら、ハルカは毎日鍛練しないと駄目ね。でも、毎日鍛練したぐらいでアクア様より強くなれるかな?」


 そんなアカリの言葉に反応したのはオリヴィアだ。


「そもそもアクアスティード陛下より強い方はいらっしゃるのでしょうか。うちのレヴィだって、今では手も足も出ないのですから」


 以前、アクアスティードとレヴィが戦ったときはいい勝負であった。しかし、今はアクアスティードの方が圧倒的に強くなっている。

 レヴィは肩をすくめながら、オリヴィアの言葉に続く。


「これでも、かなり鍛えているつもりなんですけれどね。陛下に勝てる者がいるとすれば、妖精王や精霊くらいのものではありませんか?」

「私を買いかぶりすぎだ」


 アクアスティードが笑いながら首を振るけれど、その顔はなんだか嬉しそうで。まだまだアクアスティードが一番好きなルチアローズを見て、ティアラローズは微笑んだ。



 デザートを食べ終え、紅茶を淹れてもらい一息ついたところで――アカリが「そうだった!」と場の空気を持っていく。


「実は私、修業して聖なる祈りの力がパワーアップしたんですよ!」

「聖なる祈りが!? それは……すごい、としか言いようがないですね」


 ティアラローズが褒めると、アカリは「そうでしょう」と胸を張りドヤ顔になる。


「ティアラ様も妖精王になりましたし、私だってパワーアップしていかないとですからね! なんてったって、ヒロインですから!」


 自分ばかり成長できないのはよろしくないと、アカリは頑張ってずっと魔法の修業をしていたようだ。


「それで、どうパワーアップしたんですか?」


 ティアラローズが問いかけると、よくぞ聞いてくれました! とばかりにアカリの目が輝く。


「攻撃や防御の魔法はもちろんなんですけど、体内の魔力の流れとか、状態とか、そういうのも詳細に見れるようになったんです。治癒の応用って感じですね」

「え、それはものすごいんじゃ……」


 治癒系の魔法は希少なものだ。怪我を治すだけでもすごいのに、体の状態も見られるようになるとは……と、ティアラローズは感心する。

 アクアスティードを始め、オリヴィアたちも感心しているようだ。


「あ! せっかくですし、ティアラ様とアクア様の体も見てあげますよ。ほら、二人とも魔力が増えたりもしましたし、体の状態が知りたいんじゃないですか? 人間ドックの魔力版だと思ってもらえばいいですよ。魔力ドック、みたいな」

「アカリ様ったら」


 アカリのお手軽な言い方に、ティアラローズは思わず笑う。人間ドックならば、確かに一年に一度は受けておきたい。


「それに、自分の魔力状態を知ることは大切ですよ? 力だって、使いやすくなるかもしれませんし」

「ええ。それはとても大切ですね」


 そう考えると、魔力の量が多い人や不安定な人は、一年に一回魔力検査ができたらとてもよいなと思う。


 ティアラローズは苦笑しつつも、アカリの提案に頷く。


 現在までに――かなりいろいろなことがあった。

 悪役令嬢として生まれたことから始まり、妖精王の祝福を得、星空の指輪でアクアスティードの力の一部を自身に取り込み――ティアラローズ自身はお菓子の妖精王となり、猫に変身できるようになった。

 改めて、本当にいろいろなことが起こっているなと思う。

 可能な限り自分の体のことは知りたい。それにはアカリの聖なる力はうってつけだろうとティアラローズは魔力ドックを了承した。


「よーし、任せてください!」


 自信満々なアカリは、ハッとしてすぐにアクアスティードを見る。


「アクア様もどうですか!?」

「いや、私は遠慮する」

「ちぇ~」


 ぶーたれるアカリの様子に、アクアスティードはやれやれと肩をすくめる。魔力を見てもらえるのはいいかもしれないが、このハイテンションのまま見られたら疲れてしまいそうだ。

 それならばと、ティアラローズがアカリへお願いを口にする。


「わたくしが終わったら、ルカとリオを見てほしいわ。二人は魔力が大きくて、扱いが大変なの」

「私たちもいいのですか?」


 ティアラローズの提案に驚いたのは、シュティルカとシュティリオだ。

 聖なる祈りの力はとても希少なものなので、自分たちまで診てもらえるとは思っていなかったのだろう。

 アカリはシュティルカとシュティリオを見て、にっと笑った。


「お任せあれ!」

「ありがとうございます」



 アカリは深呼吸をしてから、「よしっ!」と気合を入れた。


「それじゃあ、まずはティアラ様を診ますね。手を」

「ええ」


 アカリが手を出したので、ティアラローズはそこに自分の手を重ねる。


「悪役令嬢だから、きっとすごい魔力があるはずですよ!」


 ふんすと鼻息を荒くして瞳を輝かせるアカリに、思わず全員が一歩下がる。しかしもちろんオリヴィアは例外で、むしろずずいと前に出てアカリの横に立った。


 ――アカリ様はもしかして、メインキャラを診てみたいだけなんじゃ……。


 なんて考えがティアラローズの思考をよぎるが、すぐに忘れて集中する。アカリが目を閉じて集中し始めたからだ。とはいっても、ティアラローズにできることはじっと立っていることだけだけれど。


「……ん? これは、アクア様っぽい魔力も感じますね」


 アカリが魔力を感じ始めたようだ。


「星空の王の指輪から、アクアの魔力がわたくしに流れてきているんです」

「なんて美味しい設定……」

「アカリ様!」


 気合の入ったアカリの聖なる力を受けると、なんだかとても温かい気持ちになった。が、アカリの台詞で台無しだ。


「でも、アクア様の魔力もってなると――きゃあっ! 二人の魔力が大きすぎて制御できない!!」

「――っ!?」


 アカリの悲鳴に、全員が身構える。

 ティアラローズの魔力にアカリの聖なる力が加わってしまったせいか、どんどん大きくなっていき、可視化できるまでになってしまった。

 淡く輝く光が、部屋の中に溢れていく。


「ティアラ!」

「母様!!」

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