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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
210/225

15. 平穏な日々

本日コミカライズ10巻発売です!

どうぞよろしくお願いします~!

 アリアーデル家から帰宅したティアラローズとアクアスティードは、すでに寝てしまっている子どもたちの顔を見てから自分たちの部屋へ向かった。

 ティアラローズは果実水を用意して、アクアスティードと一緒にソファへ座る。お酒はパーティーでたくさん飲んだので、もう十分だ。


「まさかオリヴィア様がプロポーズするとは思いませんでしたが、丸く収まって安心しました」

「オリヴィア嬢は思い切りがいいね。さすがはティアラと同じ悪役令嬢だ」


 くくっと噛み殺すように笑うアクアスティードに、ティアラローズは眉を下げる。アクアスティードから見たら、自分も同じようなものらしい。


 ――うう、わたくしもいろいろ無茶をしているから、反論できない……。


 しょんぼりしながら果実水を飲んで、ティアラローズはアクアスティードの肩に寄りかかる。

 今日は久しぶりにお酒を多めに飲んだので、いつもより酔いが回ってしまったようだ。アクアスティードの肩口に額をつけて、すりよる。


「こんなに酔っているティアラは、なんだか珍しいね」

「……そうかもしれません。普段はあまりお酒を飲みませんし、ルチアの妊娠以降は飲めませんでしたから」


 今は母乳の必要もないので、気にせずお酒を飲むことができる。

 とはいっても、夜会で酔うほどお酒を飲むわけにもいかないので、顔色が変わるほど飲むことなんてない。


「今回はオリヴィア様のお祝いでしたし、その……オリヴィア様がすでに酔っていましたから。ちょっとつられてしまったのかもしれません」

「確かにオリヴィア嬢の飲みっぷりは男も驚くほどすごかったからね」

「ええ」


 オリヴィアの様子を思い出して、思わず笑う。

 そして同時に、オリヴィアとレヴィが末永く幸せでいられますように……と、心を込めて祈った。


「……これで、ゲームはもう完全に終わりなんでしょうか」

「ティアラ?」

「いえ……。アイシラ様がご結婚されて、オリヴィア様も相手が見つかった……という言い方は変かもしれませんが、結婚が決まりました」


 悪役令嬢も、ヒロインも、幸せな道へ進むことができた。


「わたくしは、その……結婚したあともしばらく不安が残りました。自分は本当にアクアに相応しいのかとか、やっぱりヒロインのアイシラ様を選ばれてしまうのではないか……と。オリヴィア様も、口には出さずともどこか不安があったのではと思うのです」


 見ている限りだと不安はほぼほぼなさそうだったけれど……。そう思いつつも、ティアラローズは続きを口にする。


「だからオリヴィア様も、今……心から幸せなのではないかと思うのです」


 そう言ってティアラローズがとびきりの笑顔を見せると、アクアスティードにぎゅっと抱きしめられた。


「あ、アクア!?」

「可愛いことを言うティアラが悪い」


 ティアラローズは恥ずかしがり屋なくせに、たまに大胆に自分の気持ちを口にする。それをふいに受けるアクアスティードは、たまったものではない。

 ぎゅうぎゅうと抱きしめて、離したくない衝動に駆られる。……まあ、別に離さなくてもなんら問題はないのだけれど。


「それは、その……うぅ……」


 赤くなってしまったティアラローズは、顔から湯気がでそうなほどだ。

 とはいえ本心であることに変わりはないし、アクアスティードと一緒にいられる今はとっても幸せなのだ。ティアラローズも遠慮せずに抱きつくことにした。


 ティアラローズがぎゅう~っと力強く抱きしめてみると、アクアスティードがくすりと笑う。


「笑うところではありませんよ……?」

「いや、一生懸命しがみついてくれてるみたいで、それが可愛くて」


 もうティアラローズが何をしても可愛いことに変わりはないようだ。

 ティアラローズはむむっと頬を膨らませて、「小動物ではありませんからね」と言って、自分からアクアスティードに口づける。

 今日はお酒が入っていることもあって、いつもより積極的だ。そのまま勢いよく「えいっ」と体重をかけて、アクアスティードをソファに押し倒してその上にのしかかった。

 アクアスティードの胸板に手をついて、そのしっかりした筋肉にティアラローズは目を瞬かせる。


 ――すごい、がっしりしてる。

 服を着ているときは気づかないけれど、アクアスティードは鍛錬をしていることもあり体はしっかりしている。いわゆる細マッチョだ。


「……抱きしめられたら、安心するわけですよね」


 ティアラローズはアクアスティードの胸元に頬を落として、すり寄ってみる。上にのしかかっていても安定感があって、まったく不安がない。


 ――すごい。わたくしだったら絶対にぷるぷるしちゃうわ。


 自分にされるがままにされているアクアスティードを見て、ティアラローズは頬を緩める。胸板を枕にするようにして目を閉じると、トクントクンと少し早いアクアスティードの鼓動が聞こえてくる。


「幸せですね、アクア……」

「……そうだね。私はきっと、世界一の幸せものだ」


 返事をしたアクアスティードは、優しく抱きしめてくれた。




「……まあ、こうなるとは思っていたけどね」


 自分の上ですやすや眠る妻の姿を見て、アクアスティードは苦笑する。ほろ酔い気分の時点で今日はすぐ眠るだろうと思っていたが……まさかこんなタイミングで寝るなんて。

 アクアスティードはティアラローズを気遣いつつ、上半身を起こす。自分の胸にすりよって、すやすや気持ちよさそうに眠っている。

 ふわふわのハニーピンクの髪に、長い睫毛。整った顔立ちは、眠っていても可愛らしい。


 眠っているティアラローズをそのままに、アクアスティードはテーブルから果実水を手に取って一気に飲み干す。


「……ふう」


 ティアラローズが酔ってほわほわしていたため気づき難いけれど、今日はアクアスティードもかなりお酒を飲んでいる。

 なので、ティアラローズが先に寝てしまったことが……ちょっとだけ不満なのだ。


「こんなに無防備な顔で寝て……」


 指先をティアラローズの髪に絡めて、アクアスティードはちゅっとキスをする。そのまま指から髪がこぼれ落ちるのを見てから、今度はこめかみに。


「ん……」


 くすぐったかったのか、ティアラローズがわずかに身じろいだ。その様子に頬を緩めて、アクアスティードは額に、目元に、鼻先にと……キスをしていく。その度にティアラローズがくすぐったそうにするので、それがとても楽しくてたまらない。

 ティアラローズの頬を撫でて、親指の腹で唇をなぞる。わずかな吐息に、アクアスティードは無意識の内に息を呑む。


「ティアラ……」


 名前を呼んで、額同士をこつんとつける。

 いつでもキスができそうなほど近い距離で、ティアラローズの長い睫毛が自分に当たってしまいそうだとアクアスティードは思う。


 アクアスティードは親指の腹でゆっくりティアラローズの唇を押してみる。柔らかくて、もっと触りたいと思ってしまう。


 ――この口が、いつも私の名前を呼んでくれる。


 初めて会ったときは、アクアスティード殿下だった。それからデートをして、アクア様と呼んでもらうことができた。本当は愛称で呼び捨ててくれてよかったのに、恥ずかしがってなかなかアクアと言ってくれなかった。

 ときおり恥ずかしそうにしながらアクアと自分の名前を呼ぶティアラローズには、いつもドキドキしたものだ。


 ――もちろん、当たり前にアクアと呼んでくれる今もとても嬉しい。


 何度でも名前を呼んでほしいと思うし、いつまでもティアラと名前を呼びたいとアクアスティードは思う。


「ティアラ」


 もう一度名前を呼んで、アクアスティードは親指でくいっと唇をわずかに開かせて……そのままキスをした――。



 ***



「グリモ、風のページ!」

 〈了解した、姫〉


 ルチアローズは木剣を構え、ぐっと大地を蹴る。その瞬間、グリモワールが開いていたページの魔法を使い、ルチアローズを加速させた。

 向かっていった先は、木剣を構えたタルモがいる。タルモはルチアローズの木剣を軽くいなし、打ち返す。その反動で飛ばされたルチアローズは、大きく尻もちをついた。


「いたたた……グリモの魔法も使ったのに、やっぱりタルモは強いや」


 全然敵いそうにないと、ルチアローズはしょんぼりする。



 オリヴィアが女伯爵となり、三年の月日が流れた。

 ルチアローズは八歳となり、本格的に魔法騎士になる鍛錬を始めている。その相手はもっぱらタルモだけれど、時間があるときはアクアスティードやキースが相手をしてくれることもあり、めきめき腕を上げている。


 そんなルチアローズの後ろを楽しそうについて回るのは、シュティリオだ。五歳になったシュティリオは、ルチアローズと同じように騎士になりたいらしく、いつも鍛錬している様子を見ている。


 逆にシュティルカはあまり剣に興味はないようで、本を読んだり魔法で遊んでいることの方が多い。


 グリモワールはすっかりルチアローズの相方ポジションに収まってしまい、いつも一緒にいる。

 中身はマリンフォレストの歴史書なのだけれど、今はとくに歴史を確認することもないので、キースも司書も自由にさせているのだ。



 ルチアローズとシュティリオとタルモが休憩をしていると、ティアラローズとアクアスティードとシュティルカがやってきた。


「お母様、お父様!」

「鍛錬お疲れ様、ルチア。今日はどうだった?」

「タルモはすっごく強くて、全然勝てないの!」


 いつになったら勝てるんだろうと、ルチアローズは地面に寝転んだ。どうあがいても、タルモに勝てる気がしないのだ。

 ティアラローズはそんなルチアローズを見て、くすりと笑う。


「タルモはわたくしの護衛騎士だもの。そう簡単に勝てるわけがないわ」

「その前は私の騎士だったからな。タルモに一撃でも入れるのは、かなり遠そうだな」


 タルモは職務に忠実で、ティアラローズもアクアスティードも信頼している。周囲にいるのがアクアスティードやキースなど規格外の人物なのでタルモの腕前はわかりにくいが、マリンフォレストでも上位だ。


「ん、頑張ります!」


 ルチアローズのしばらくの目標は、タルモに一撃を入れることになった。

 そのためにグリモワールとの連携を深めたり剣の腕を磨いたりしなきゃ! と、気合を入れている。


「騎士になることに反対はしませんけれど、淑女教育もきちんと受けるのよ? 社交界で恥をかくのはルチアですからね」

「……はぁい」


 ティアラローズの言葉に、ルチアローズはちょっと嫌そうにしつつ頷く。

 ドレスを着るよりも動きやすい騎士服を着ていたいし、マナーの勉強よりも剣の稽古をしているときの方が何倍も楽しいからだ。


「ルチアは恋愛よりも剣……と言う感じですね。お嫁に行くのはゆっくりかもしれませんね?」


 安心しましたか? というような視線をアクアスティードに向けると、「ティアラ」と拗ねたような声を出されてしまった。

 そんなアクアスティードを見て、ティアラローズはくすくす笑う。


「娘は父親に似た男性と結婚したがるといいますし……アクアに似た男性を連れてくるかもしれませんね」


 ただ、アクアスティードみたいな人はそうそういない。ハイスペックすぎる父親を見て育ったルチアローズは、どんな男性を選ぶのだろう……と、母親として気になるところだ。


「それよりも、今日はお菓子の家へ行くんだろう?」

「……はい。わたくしとアクアの秘密基地に」


 子どもたちが成長したこともあり、ティアラローズとアクアスティードは月に数回程度お菓子の家の隠し部屋へ行くようになった。

 その時間はとっても甘く、いつまでも新婚気分のようだとティアラローズは思っている。


 シュティルカがルチアローズたちの方へ行くのを見て、ティアラローズたちは「でかけてきますね」と子どもたちに手を振る。


「はぁい、いってらっしゃい!」

「いってらっしゃい」

「ええ、いってきます。夕食までには戻りますね」


 そう言って、ティアラローズはアクアスティードにエスコートをしてもらいながら鍛錬場を後にした。

これにて14章は終わりです。

ラストはいちゃらぶと三年後のちょっとしたワンシーン。(子どもたちよ、早く成長してくれ……)


15章も早めに更新できたらいいな~と思っているので、がんばるぞ……。がんばるぞ……!

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