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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
209/225

14. 女伯爵の誕生

 ニコニコ顔で紅茶を淹れるレヴィを、オリヴィアはジト目で睨む。


 ――何か隠してる気がするわ。


 アリアーデル家、オリヴィアの部屋。

 急遽休みを言い渡され、登城せずにのんびり過ごしているところだ。

 朝はレヴィの淹れたハーブティーで目覚め、身支度を整え、朝食をとり、遊びに来てくれたお菓子の妖精と戯れ、昼食をとり、今は食後のティータイムなのだが……レヴィの機嫌がよすぎるのだ。


「オリヴィア、この後はドレスの仮縫いを行います」

「わかったわ」


 自分のスケジュールを告げられて一応頷くけれど、ドレスの仕立てを頼んだ記憶がなく……はて? と首を傾げる。


 ――レヴィが頼んでくれていたのかしら。

 オリヴィアは公爵家の令嬢の割に、仕立てるドレスの数が少ない。必要なものはあるので困りはしないのだが、さすがにちょっとした見得は必要だ。レヴィが時折、オリヴィアのドレスを注文してくれたりする。

 今回もそうなのだろうとオリヴィアは思っていたのだが……



「レヴィ、このドレスはいつ着る予定なのかしら?」



 ほぼ完成している状態のドレスに袖を通したオリヴィアは、真顔でレヴィを見た。というのも、ドレスがものすっっごく豪華だったからだ。


 ――これ一着で、普段着ているドレスが五着くらい買えるんじゃないかしら?


 いったいどこで着る予定なのか、オリヴィアにはさっぱりわからない。


「レヴィ?」

「…………」


 オリヴィアが追及するも、レヴィは無言のままだ。


「悪いことではございません。仮縫いを進めるようなので、私は一度席を外しますね。よろしくお願いします」

「ええ、任せてちょうだい」


 レヴィは侍女のジュリアに告げると、そそくさと部屋を後にしてしまった。

 そんなレヴィを見て、オリヴィアは頬を膨らませる。


「わたくしが豪華なドレスを着るタイミングなんて……もしかして、お父様がわたくしの婚約を決めてしまったとか!? わたくしは二六歳……さすがに行き遅れすぎているから、せめて見栄えくらいはってことかしら?」


 オリヴィアがアクアスティードと婚約したときもそうだったけれど、なぜ父は勝手に婚約を決めてくるのだとオリヴィアは憤慨する。


 ――わたくし、誰かに嫁ぐなんてしたくないのに!

 レヴィを見つめて、オリヴィアは涙ぐむ。結婚したくない理由も当初は自由に聖地巡礼ができないからで、社交の際に聞かれたときもオリヴィアは冗談を交えて伯爵家の次男くらいが~なんて言っていた。


 けれど今は、結婚したくないちゃんとした理由がある。そして、生涯結婚しなくていいとも思っている。

 オリヴィアがそんな思いにふけっていると、針子から「完成です」と言う声が。どうやら仮縫いが無事に終わり、ドレスが完成したらしい――


「って、完成?」


 聞いていた話と違うと、オリヴィアの目が点になった。



 ***



 マリンフォレストの王城の謁見の間は、そう簡単には入れる場所ではない。そんな場所に今、オリヴィアは立っていた。

 深く赤いカーペットの先にいるのはアクアスティードとティアラローズだ。すぐ近くにはエリオットなど側近や国の中心を担う貴族がいる。


 ――え、いったいなんのイベントが始まるというの?


 こんなところではしたないと思いつつ、血の海にするよりは……と、オリヴィアは念のため自分の鼻をハンカチで押さえた。

 それを見たアクアスティードが苦笑したのを目撃してしまい、ちょっと鼻血がでた。するとすぐ、レヴィが新しいハンカチを持って駆けつけている。




 ティアラローズは壇上からオリヴィアとレヴィを見て、くすくす笑う。この雰囲気の中でもいつも通りな二人だ。

 今からオリヴィアは叙爵されるわけだけれど、ちゃんとわかっているのだろうか。


「オリヴィア様、大丈夫かしら」

「どうだろうね……」


 ティアラローズがもらした呟きに、アクアスティードが苦笑した。


「オリヴィア嬢は、いまから何が始まるかも知らないと思うよ。……アリアーデル公爵には伝えてあるんだけどね」

「…………」


 オリヴィアが戸惑っているのはティアラローズにもわかるので、無言で肩を落とす。このまま進めて大丈夫なのだろうか? と。


 しかしオリヴィアは鼻血を拭きとると、きちんと背筋を伸ばし、歩き始めた。

 凛として、瞳には決意のような色が見える。もしかしたら、オリヴィアは自分で今の状況を推測したのかもしれない。ティアラローズはほっとして、胸を撫でおろした。


 オリヴィアがアクアスティードの前まで歩いてくると、ゆっくり跪いた。



「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます」

「楽にしていてくれ。本日は、オリヴィア嬢の功績を称え、相応しい褒賞を与えたいと思う」


 アクアスティードの言葉に、オリヴィアは「ありがたき幸せでございます」と返した。

 いつものテンションが高い声ではなく、とても落ち着いていて、公爵家の令嬢に相応しい気高さだとティアラローズは思う。

 いつもテンションが高くて鼻血を出しているオリヴィアばかりだったので、なんだか新鮮だ。



「オリヴィア・アリアーデル。新たに伯爵位と領地を与える。今から、ルービアリアを名乗るといい」

「謹んでお受けいたします。オリヴィア・ルービアリアとして、わたくしはこれからもマリンフォレストに忠誠を尽くすことをここに誓います」



「オリヴィア嬢の今後の活躍にも期待している」

「――はい」


 跪いたオリヴィアが爵位を受け女伯爵が誕生すると、わっと拍手が沸き起こった。その中には、オリヴィアの父のアリアーデル公爵や兄のクロードもいる。

 家族を見つけたオリヴィアは「なんで黙っていたんですか」という視線を向けながらも、退室していった。



 ***



「ティアラローズ先輩~~~~!」

「オリヴィア様……酔っていますね?」

「飲まなきゃやってられませんわ!!」


 抱きついてきたオリヴィアを受け止めたティアラローズは、隣にいるアクアスティードと顔を見合わせて苦笑する。


 ここはアリアーデル家で、今はオリヴィアが女伯爵になったお祝いのパーティーをしているところだ。

 先ほどの謁見からは、まだ数時間しか経っていない。


「帰宅したら伯爵おめでとうパーティーが始まるなんて、わたくし以外はみな知っていたのに黙っていたなんて……!!」

「サプライズでお祝いをしたい……とかじゃないかしら?」


 ティアラローズができるだけポジティブな返事をしてみるが、オリヴィアは目を据わらせて「違いますわ」と言い切った。


「わたくしに逃げ道を用意しなかっただけです。……アクアスティード陛下からのお言葉を断るなんて、わたくしにはできませんもの」


 レヴィが徹底的に根回しをしていたようだ。オリヴィアはワインをぐいっと飲んで、「はああぁぁぁ」と大きく息をついた。

 そのまましばらく何かを思案するように目を閉じて、ふっきれたような笑みを浮かべた。


「オリヴィア様?」

「……いえ。今までずっとずっとレヴィに甘えてばかりだったので、わたくしも腹をくくろうと思ったのです。女伯爵、オリヴィア・ルービアリアになったわけですし」


 突然飛び出したオリヴィアの決意に、ティアラローズはくすりと笑う。


「何をするつもりですか?」

「まずはレヴィにお礼が言いたいですね。わたくしをずっと支えてくれて、こうして伯爵になったのですから。レヴィと離れ離れになる心配もありませんし……」


 そう言ったオリヴィアは、お酒のせいもあってかいつもより頬が赤い。

 公爵家の令嬢のオリヴィアがどこかへ嫁に行くとなると、男性であるレヴィは連れていくことができない。そのため、オリヴィアとレヴィがずっと一緒にいるにはゲームのエンディングで追放されるか、生涯独身でいるか、はたまた二人の結婚を認めてもらうか……といったところだった。


 レヴィと離れ離れにならない――一緒にいたいと口にしたオリヴィアを見て、ティアラローズは頬を緩める。


 ――オリヴィア様、やっぱりレヴィのことが好きだったのね。


 二人のことをいい雰囲気だとずっと思っていたティアラローズだったけれど、恋人のような甘い雰囲気か? と考えるとわからなかった。

 これからどうしていくのかはオリヴィアとレヴィ次第だけれど、腹をくくったらしいのできっと上手くいくだろうとティアラローズは思う。


「何かあれば協力しますから、いつでも相談してくださいませ」

「ありがとうございます、ティアラローズ様。ルービアリア家は、マリンフォレストをこよなく愛し、未来永劫この国を一番称える家門にいたしますわ!」

「え」


 突然の壮大な計画に――いや、オリヴィアであれば全然壮大でもなくむしろ普通? ――というようなものに、ティアラローズは今後生まれるのであろうオリヴィアの子どもが少しだけ心配になった――。


 ティアラローズとオリヴィアを見て、アクアスティードはこれからも大変なことが起こって振り回されていくのだろうなと悟った。



 三人で話をしていると、レヴィとアリアーデル家の当主のオドレイがやってきた。オリヴィアの母クローディアと、兄のクロードも一緒だ。


「アクアスティード陛下、本日はありがとうございました」

「いえ。私も優秀なものが新たに爵位を得られたことを嬉しく思います」

「……そう言っていただけると、安心します」


 オドレイは苦笑しながら、オリヴィアのことを見る。その視線は慈しむようなもので、とても大切にしているということがわかる。

 オリヴィアとアクアスティードは以前婚約をし、すぐ解消したという過去がある。それもあり、いろいろと気がかりだったのだろう。


「アクアスティード陛下、ティアラローズ様、お久しぶりでございます。本日は足を運んでいただき、ありがとうございます」

「素敵なパーティーにお招きありがとうございます」

「お久しぶりです、クローディア様」


 クローディアとは夜会やお茶会で何度か顔を合わせたことがある。二人の子どもを持っているとは思えないほど美しく、透き通るような肌はいつ見てもほれぼれしてしまう。


「妹はティアラローズ様の侍女になってからというもの、毎日がとても楽しいようでして……ご迷惑をおかけしていませんか? ハンカチが足りない事態になっていないといいのですが……」


 心配そうに声をかけてきたのは、クロードだ。

 オリヴィアの鼻血体質をとても心配しているようで、どこか落ち着かない様子だ。


「お兄様、わたくしはちゃんとしていますわ! レヴィがいるのでハンカチが足りなくなることもありません!」

「ヴィー、そうじゃない……」


 国王と王妃の前で鼻血を出しすぎることが問題なのだとクロードは頭を抱えているが、これもオリヴィアの個性だから仕方がないというのもわかっている。


「あまり無理をしすぎないようにして、何かあればすぐ私に相談するんだよ?」

「はい! ありがとうございます、お兄様」


 にこにこしながら会話をするオリヴィアとクロードを見て、ティアラローズもつられて笑顔になる。家族仲がいいのはいいことだ。


「でも、オリヴィアが伯爵になるということは……新しく屋敷を構えることになる。そう思うと、寂しくなるね」

「お父様ったら……。わたくしはもう二十六ですし、本来ならとっくにお嫁に出て家にはいませんよ?」

「……そうだったね」


 オリヴィアの言葉で、オドレイは遠い目になる。娘が結婚してほかの男の下へ行ってしまうのはとても嫌だが、いつまでも結婚していないというのも嫌なのだ。男心とは難しい。

 そんなオドレイの心の内を読みとったのか、クローディアがオリヴィアとレヴィを見て口を開いた。


「伯爵になるのですから、結婚は婿を取るかたちになりますね。オリヴィア、結婚したい殿方がいるのではありませんか?」


 クローディアがくすくす笑いながら言うと、一瞬でオリヴィアが耳まで真っ赤になった。


「オリヴィア!?」


 オドレイはオリヴィアの反応を見て聞いてないぞ!? と言うような顔になっているが、クローディアはとっても楽しそうだ。


「あなた、オリヴィアももう二十六歳ですよ? それに、オドレイ様とクロードが思っているよりオリヴィアはしっかりしています。将来のことだって、ちゃんと考えられるのですよ」


 ね? と、クローディアはオリヴィアに微笑む。

 オリヴィアは、「お母様は何もかもお見通しですね……」と言いながら、レヴィの腕をぐいっと引っ張った。


「――! オリヴィア?」


 突然のことにレヴィが驚いてオリヴィアを見るけれど、オリヴィアはつんとすまし顔で何も答えない。

 今日のことを質問しても答えてくれなかった仕返しのようだ。



「わたくしは、レヴィと結婚いたします!!」



 オリヴィアが堂々と宣言した声は、部屋中に響き渡った。賑やかだった話し声や音楽が一瞬でピタリと止んで、全員の視線がオリヴィアとレヴィに集まった。

 クローディアは嬉しそうに微笑んで、オドレイとクロードは口を大きく開けて絶句している。


 ――まさかの公開プロポーズ!

 ティアラローズは自分までつられて赤くなってしまい、慌てて自身の頬を両手で抑える。ドキドキして、見ていていいのだろうかとそわそわしてしまうが、目を逸らせない。


「オリヴィア、私は――」

「これは決定事項よ、レヴィ。それとも……嫌なの?」

「私ではオリヴィアに釣り合いません」


 レヴィが異を唱えると、オリヴィアは大きくため息をついた。


「なら聞くわ、レヴィ」

「はい」

「女伯爵となったわたくしの夫として相応しい相手は、いるかしら?」

「――!」


 オリヴィアの問いかけに、レヴィは言葉を失った。

 同時に、ティアラローズも息を呑む。一歩間違えれば修羅場になってしまいそうなこの雰囲気に、どうすればいいのかとハラハラしてしまう。


「アクア……」


 思わずアクアスティードを見ると、困ったような笑みを浮かべている。


「今回はオリヴィア嬢の方が一枚上手みたいだね」

「そうでしょうか……? レヴィは相応しい相手と結婚させたいようですけれど……」


 すでにオリヴィアの勝利を確信しているアクアスティードを見て、ティアラローズは顎に手を当てて悩む。


 ――レヴィは自分が平民だから、オリヴィア様に相応しくないと思っているのよね?


 となると、もしやレヴィにも爵位が与えられるのでは!? という考えがティアラローズの中に浮かぶ。それならば、レヴィが身分で断る必要はなくなるはずだ。


 ――でも、レヴィに表立った功績はないし、もしレヴィが叙爵されるのであれば、オリヴィアの叙爵を聞いたときに一緒に教えてもらえているはずだ。

 そうなると、ティアラローズには理由がわからない。う~んと悩んでいると、その理由はすぐにレヴィの口から告げられた。


「……いません。オリヴィアに相応しい男性なんて、元々数えるほどしかいませんから……」


 がっくりうなだれたレヴィを見て、オリヴィアは勝利の笑みを浮かべている。


「え、そういうことですか!?」

「そういうことだね。今のマリンフォレストに、オリヴィア嬢の年齢とあう男性は少ないだろうけど……そもそも年齢を考えなくても、難しいだろうね」


 今は伯爵、元は公爵令嬢、さらには元の婚約者はアクアスティード。婚約解消を汚点と考えるなら結婚相手に高望みをするのは難しいだろうが、今は功績を称えられた伯爵。


 ――レヴィがそこら辺の令息を認める……わけがないわね。

 アクアスティードのような王太子、もしくは王族くらいしか認めないのでは? と、ティアラローズは苦笑する。


「つまりアクアスティード陛下なみにスペックの高い男性は――レヴィ、あなたしかいないということよ」


 レヴィはオリヴィアのためにと研鑽し鍛錬を積んできた結果――とんでもないハイスペック男子になっている。


「ねえ、二度も言わせないでちょうだい。レヴィ、わたくしはレヴィと生涯を共にしたいと思っているわ。新婚旅行はラピスラズリにして、一緒に聖地を巡りましょう?」


 なんとも楽しい新婚旅行のプランを口にしたオリヴィアを見て、それは今言うことではないのでは!? とティアラローズはハラハラする。こんなに安心して見ていられないプロポーズがあるなんて……。



「……オリヴィアの御心のままに。私は生涯、オリヴィア様の隣におります」

「ええ。ずっと一緒にいましょう、レヴィ」



 オリヴィアがレヴィに抱きつくと、会場からわあっと盛大な拍手がおくられた。

悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される、コミカライズの10巻が明日発売です!

ということで、14章のラストは明日の朝7時に更新です。

もう10巻とか、めちゃくちゃ早いですね。驚きです。(月日の流れが早すぎる…)


そしてついにオリヴィアとレヴィが結ばれ、私が一番驚いている……。

プロットではこんな告白シーンはなかったのですが、書いていたらなぜかこうなってしまいました。不思議だ。

そんなオリヴィアが主人公のスピンオフ「悪役令嬢は推しが尊すぎて今日も幸せ」は小説、コミックともに2巻まで発売中です~!

こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

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