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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
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10. 二人の時間

 とっても楽しいパーティーは、時間が経つのもあっという間だった。


 子どもたちは疲れて花のベッドで寝てしまい、花酒を一気に飲んだパールは酔いつぶれてクレイルの肩にもたれかかってうとうとしている。

 キースはお菓子をつまみに花酒を飲んでいたけれど、今はのんびり花茶を飲んでいるようだ。クレイルをからかって楽しんでいるらしい。


 オリヴィアは目をキラキラさせて、お菓子の妖精と話をしている。今まで森、空、海の妖精たちには嫌われていたので、楽しくて仕方がないのだろう。

 残念ながら、今もお菓子の妖精以外はオリヴィアの近くにはいないけれど……。

 レヴィはそんなオリヴィアの横でニコニコしている。


 フィリーネとエリオットは「お腹がいっぱいですね」と苦笑し合って、寝ているフィンとエレーネの頭を優しく撫でている。

 クリストアはルチアローズたちと一緒に寝ていて、今は楽しい夢の中だ。



 ――すごい盛り上がりだったわね。

 みんなの様子を見たティアラローズは、くすりと笑う。

 グリモワールのことやオリヴィアの知識量の話はもちろん、今度はどんなスイーツが流行るだろうとか、森の様子はどうだとか、いろいろな話をした。


 隣を見ると、アクアスティードも頬を緩めて子どもたちの様子をみている。


「アクア」

「ん? どうしたの、ティアラ」


 ティアラローズが小声で呼びかけると、アクアスティードも小声で返事をしてくれる。


「子どもたちは妖精が見てくれていますし、みんなゆっくりしているので……少し席を外しませんか?」


 くいっとアクアスティードの袖を引くと、「もちろん」と了承が返ってくる。アクアスティードは「どこへ連れて行ってくれるの?」と、なんだか楽しそうだ。


「着くまで内緒です」


 ティアラローズとアクアスティードは、まだ続いているパーティー会場をこっそり抜けだした。盛り上がっているので、二人がいなくなっても誰も気づきはしない。

 クッキーのドアを開けて廊下を進んでいくと、二階へ上がる階段があった。ティアラローズは「こっちです」とアクアスティードと手を繋いで上がっていく。


 二階の一番奥、廊下の突き当り。

 しかしそこには、アクアスティードから見れば壁しかない。ここに連れてきたかったのだろうかと、不思議そうに首を傾げた。


「お菓子の妖精王……わたくしが許可した人だけは入れるんです」


 ティアラローズがそう言うと、何もなかった壁に薄っすら扉が浮かび上がってきた。ここに扉があると意識しなければ、気づくこともできない。


「こんなこともできるのか、すごいな」


 感心するアクアスティードの声に、ティアラローズは「頑張りました」と微笑む。


「さあ、どうぞ。ここは――わたくしとアクアの部屋です」


 みんなには内緒ですよと、ティアラローズは悪戯が成功したように告げる。この場所は、お菓子の妖精だってそう簡単には気づかない。


「私たちの?」

「はい」

「……誰も知らない、わたくしとアクアしか入れない部屋です」


 部屋の中は、壁などはお菓子で作られているが、花のソファに葉のテーブルが置かれ、ティアラローズの花が飾られている。

 窓からは海が見えるので、仕事を忘れてゆっくりすることができるだろう。


 王城でも二人きりの時間はもちろんたくさんあるけれど、たまにはこんな雰囲気があってもいいのでは? と、ティアラローズは思ったのだ。

 子どもたちや外の様子がわからなくて不安に感じるかもしれないけれど、この中にいる限り何かあってもお菓子の妖精王であるティアラローズにはすべてわかるのだ。猫の姿の方が感じ取りやすいけれど、人間のままでも問題はない。


 アクアスティードは部屋の中を見回して、いろいろ見ている。


「なんだか秘密基地みたいだね」

「楽しいですね、それ」


 ティアラローズとアクアスティードしか知らない秘密基地。自分の好きなものを持ってきて、のんびりした時間を過ごすような、そんな場所。


「アクアはここに何か置きたいものはありますか? 好きな物とか、家族の思い出があるものでもいいですね」


 自分だったら何を置くだろうと、ティアラローズも考えてみる。

 ラピスラズリからお嫁に来るとき一緒に持ってきた装飾品を飾ってもいいし、家族揃って描いてもらった姿絵を壁にかけるのもいいだろう。

 キッチンはお菓子の家に備え付けられているので、たくさんの茶葉を揃えてみるのもいいかもしれない。森の妖精に頼んで花のお茶を用意したり、パールにもらった珊瑚茶も置いておきたい。


 ティアラローズがそんな想像をしていると、アクアスティードが「楽しいね」とティアラローズの手を引いて花の椅子に座らせた。


「考え出すと止まらなくなってしまいますね。秘密基地は子どもの特権のような気がしていましたが、大人でも十分わくわくしますね。未来に行ったとき、ルカとリオも森の中に秘密基地を作っていたんですよ」


 木で作った食器を使っていて、手作りの温かさを感じることができた。ここも、アクアスティードと二人でそんな空間にできたらいいなと思うのだ。


「私は……そうだな、好きな本を並べるのもいいかもしれないね」

「本! いいですね。わたくしも大好きです」

「今より子どものころの方が読んでたかな。最近は資料ばっかりだったから、これを機にここで読書するのも楽しそうだ」


 この世界の本はほとんどがハードカバーで、装飾が凝っている。その分、量産はあまりできないけれど、本の収集が趣味だという人も一定数いたはずだ。

 今は森の書庫の葉の本も、司書が貸し出しできると言っていたので借りて来て読むのもいいかもしれない。


 ――本を読むのなら、おともにスイーツと紅茶が必要ね。


 やはり茶葉を揃え、冷蔵庫のようなものを用意しておくのもいいかもしれない。冬は温かい紅茶で、夏は冷えたアイスティー。冷凍庫を用意して、アイスを作るのも楽しそうだ。


 ティアラローズがいろいろ考えていると、ふと視線を感じた。顔を上げると、アクアスティードにじっと見られていた。


「! アクア?」

「いや、ティアラが何か考えている様子を見るのは楽しくてね」


 ついつい見つめてしまうのだと言って、アクアスティードは笑う。


「アクアと一緒に楽しい読書時間を過ごすために、いろいろと考えていたんですよ? それなのに、アクアはわたくしを見ていたなんて」


 ティアラローズが頬を膨らませて文句を言うと、アクアスティードは「ごめんごめん」と体をかがめてティアラローズの額にキスをする。


「ティアラは何時間でも見ていられるし、飽きないから不思議だ」

「もう……。わたくしだって、何時間だって飽きずにアクアを見ていられますよ?」


 それはグリモワールの中で何度も思ったことだ。赤ちゃんのアクアスティードはとっても可愛らしく、永遠に見ていたいほどだった。

 今度こっそり一人で堪能しに行くのはどうだろうか? ティアラローズがそんなことを考えると、アクアスティードが両手で頬をむぎゅっとしてきた。


「ティアラ?」


 何を考えていたんだ? というアクアスティードの視線で、自分が考えていることがバレバレだとティアラローズは悟る。


「アクアはわたくしの心の中が読めるのですか?」

「読めたら、ティアラがどこにも行かないように閉じ込めてしまいそうだよ。私のお姫様は、突然どこかへ行ってしまうからね」

「う……」


 以前、妖精王の指輪を求めて王城から抜け出した前科があるので反論ができない。昨日だって、オリヴィアを助けるためにグリモワールの中へ飛び込んだりした。


 ――心の中を読まれていたら、きっと大変だったわね。


 今となっては懐かしい出来事に、ティアラローズはくすりと笑う。が、アクアスティードとしてはハラハラして気が気ではなかったのだが……。


「まったく。ルチアもティアラに似て、どこへでも飛び出してしまいそうだ」

「将来の夢は騎士ですからね。アクアの娘ですから、きっと剣の扱いも上手くなります。わたくしは、運動はあまり得意ではありませんから……」


 前世からお菓子や乙女ゲームに極振りだったので、多少は体も動かしたりはしたが、自分から進んで運動の時間を取ったりはしなかった。

 なので、運動神経だけは自分ではなくアクアスティードに似てほしいと心の底から思っている。


 アクアスティードは顎に手を当てて、これからは必要なことが多くなるなと告げた。


「今はメイドに任せているが、ルチアの侍女や側近も必要になってくる。とはいえ、侍女に関してはエリオットとフィリーネの娘にお願いするのがいいだろうね」

「そうですね。ルチアの希望が一番ですが、クリストアと仲が良いですし、フィンやエレーネのことも可愛がっていますから。成長を待って、ついてもらえばいいと思います」


 ティアラローズとアクアスティードが人選をして侍女や側近を選んでもいいけれど、それはもっと成長してからでいい。

 ただ、護衛騎士に関してはアクアスティードが選んでいて、いつも離れたところで待機してくれている。王城の中とはいえ、何があるかわからないからだ。


「三人の成長が楽しみだね」

「はいっ」


 頷いて、ティアラローズはゆっくり両手を伸ばす。そのままアクアスティードの首に抱きついて、頬をすりよせる。

 子どもの話ももちろん楽しいけれど、二人の時間をもう少し堪能したい。そんな風に思ったティアラローズのアプローチだ。


「髪がくすぐったいね」


 アクアスティードはそう言いながらも、ティアラローズの両サイドに手をついて顔を近づけてくる。ティアラローズは目を閉じてそれを受け入れて、抱きしめる腕に力を込める。


「ん……」


 甘い吐息が部屋に響くけれど、ここにいるのはティアラローズとアクアスティードの二人だけだ。

 子どもと一緒に寝ていたときはいつもドキドキしていたので、それがないのはちょっと寂しいような気もしたけれど……思う存分甘えられるのはやっぱりいいものだとティアラローズは頬を緩ませた。

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