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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
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9. 一件落着パーティー

 ティアラローズたちがお菓子の家にお菓子の妖精王の指輪を設置したあと、お菓子の妖精たちが明日のお菓子パーティーの招待状を届けにきてくれた。

 その場にいたフィリーネやオリヴィアのものもあるので、みんなを招待してくれるようだ。

 受け取ったエリオットは、「全員!? 今日は残業して仕事を前倒しでやらないと……」と青い顔をしていたが、アクアスティードやほかの人が総出で取りかかるので残業は免れた。



 エリオットは、妻のフィリーネと息子のクリストア、遊び疲れて眠ってしまった娘のフィンとエレーネを連れて馬車で屋敷へ帰った。


 屋敷へ着くと、フィリーネはメイドに娘二人を預けて寝かせるように指示を出す。フィリーネはクリストアを抱っこしている。


「お疲れ様です、エリオット。明日はお菓子の家でのパーティー、楽しみですね」

「ええ。帰りが遅くなってしまってすみません、フィリーネ」


 エリオットはフィリーネからクリストアを受け取り、「楽しかったか?」と高い高いをしてあげて、床におろす。


「あい!」


 クリストアはにっこり微笑んで、大きく頷いた。

 エリオットとフィリーネの第一子で、長男のクリストア。今日はルチアローズやシュティルカとシュティリオと遊んでくれていた。年齢は双子の一つ下なので、二歳だ。

 今はいろいろなことが楽しくて仕方がないようで、屋敷の中でも楽しく遊び回っている。そのため、フィリーネはいつも気が抜けない。


 フィリーネはしゃがんでクリストアと視線を合わせると、いいこいいこと頭を撫でる。


「明日はお菓子の家にご招待されたから、おめかししましょうね」


 兄妹三人のお揃いで仕立てたものがあるので、それを着せてあげようとフィリーネは思う。あまり着る機会がなくて残念に思っていたのだが、機会があってよかった。

 エリオットも「いいですね」とすぐ賛同してくれる。


「明日はアクアスティード様の視察があるので、それが終わったら迎えにくるので家で待っていてくださいね」

「でも、迎えに来るのはエリオットが大変じゃありませんか?」


 フィリーネが子ども三人を連れて、直接お菓子の家に行っても問題はない。しかし、エリオットは首を振った。


「妻のエスコートは、夫の特権なんですから。その機会を奪わないでください」

「――!」


 少し拗ねた様子で言うエリオットに、フィリーネの頬が染まる。だってまさか、そんなことを言われるとは思わなかったからだ。

 エリオットはフィリーネと子どもをとても大切にしてくれるけれど、やはり仕事が忙しい。フィリーネもエリオットの負担にならないようにと、心掛けてきた。なので、こういったエリオットの気遣いのような、独占欲のようなものがとても嬉しい。


 頬を染めるフィリーネを見て、エリオットも顔が赤くなる。まさかそこまでフィリーネが反応するとは思わなかった。


「フィリーネ……」


 エリオットはゆっくり手を伸ばして、フィリーネの頬に触れる。わずかに熱くなっていて、それだけで心臓の鼓動が早くなったのを感じた。


「あ! ええと、エリオット……その……」


 フィリーネも同じように鼓動が早くなるけれど、フィリーネの足元にはクリストアがいるのだ。きょとんとした顔で、こっちを見上げている。そのせいで、フィリーネは恥ずかしくてさらに顔が赤くなった。

 エリオットもフィリーネの言わんとしていることに気づいたようで、目がしまったと言っている。


「私たちは部屋へ戻ってからゆっくりすることにしましょう」

「……っ、はい」


 フィリーネはほっと胸を撫でおろすもさらに顔を赤くしつつ、エリオットの提案に頷いた。


「夕食は王城でいただきましたから、クリストアはお風呂に入ってしまいましょう。エリオット、お願いしてもいいですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます。わたくしはその間に、明日の手土産の準備をしておきますね」

「すみません、お願いします」


 クリストアと一緒にお風呂へ向かうエリオットを見送り、フィリーネはコーラルシア家の執事を呼んで明日の手土産の準備を進めた。



 ***



「お母さま、早く、早く~!」

「そんなに急がなくても大丈夫よ、ルチア」


 馬車から飛び出したルチアローズは、ティアラローズの制止も聞かずお菓子の家へ向かって一直線に走り出した。

 その後を、「待って~」とシュティルカとシュティリオが追いかける。

 すぐにお菓子の家からお菓子の妖精たちが出てきて、『いらっしゃいませ~!』と子どもたちを迎え入れてウェルカムお菓子の詰め合わせを渡してくれている。


「ふふ、至れり尽くせりですね」

「そうだね。ルチアたちも嬉しそうだ」


 ティアラローズとアクアスティードが馬車から降りて話をしていると、二台目、三台目の馬車がやってきた。乗っているのはオリヴィアと、その後ろはフィリーネたちだ。


「はああぁ、お菓子の家! また進化しているわ!!」


 オリヴィアは最初からテンションマックスで、お菓子の家がどんな風に進化したのか確認をしているようだ。きっと記録を取ってまとめるのだろう。

 マリンフォレストの知識量でオリヴィアの横に並べるものはそうそういないだろう。歴史書作成に協力したこともあり、オリヴィアはグリモワールを自由に読む権利も有している。


「オリヴィア、窓枠がマーブルチョコレートになっていますよ」

「本当だわ!! とっても美味しそうね」


 レヴィがスケッチしながら、お菓子の家がどのように変わったのか検証している。これはなかなか時間がかかりそうだ。

 そんなオリヴィアとレヴィを微笑ましく見ながら、フィリーネたちが馬車から下りてきた。フィリーネはクリストアと手を繋ぎ、エリオットにエスコートをしてもらっている。


「わあ~おっき!」


 クリストアはお菓子の家を見上げて、大きく口を開けている。すると、その隙をついたお菓子の妖精がその口にボーロをひょいっと投げ込んだ。


「ん! おいし!」

『美味しいでしょ~! こっちにおいでよ!』

「うん!」


 お菓子の妖精が集まってきて、クリストアをお菓子の家の中へ連れて行ってくれた。きっとルチアローズたちのところに案内してくれたのだろう。

 フィリーネは馬車からフィンを抱っこして、エリオットはゆりかごで寝ているエレーネを連れだした。


 ティアラローズはフィリーネのところへ行き、「待ってたわ」と微笑む。


「二人ともぐっすり寝ているのね」

「はい。移動中にずっと寝てくれていたので、わたくしは助かりました」

「そうね」


 馬車の中でぐずって大泣きしては大変なので、ティアラローズとフィリーネは二人で笑う。以前、ルチアローズが馬車の中でぐずってしまったときは大変だったのだ。

 二人が話していると、お菓子の妖精と森の妖精がやってきた。


『いらっしゃい!』

『ようこそ!』

「お招きいただきありがとう」


 ティアラローズとフィリーネが妖精たちに挨拶をすると、中から賑やかな声が聞こえてくる。


「行きましょう、フィリーネ」

「はい」


 アクアスティードとエリオットも一緒に中へ入ると、ほかにもキース、クレイル、パールの三人と、空と海の妖精もいた。どうやらお菓子の妖精たちは、みんなを招待したようだ。

 想像よりも規模の大きなスイーツパーティーに、ティアラローズは目をぱちくりさせる。お土産にケーキを持ってきたけれど、この人数では足りない――そう思いかけて、テーブルの上にあるたくさんのケーキが目に入ったのでいらぬ心配のようだと苦笑する。

 テーブルの上には、ケーキやクッキー、マドレーヌにチョコレートなど、様々なお菓子が並んでいる。それどころか、どんどん新しいものも作っているようだ。

 ティアラローズは絶対に食べきれないなと思いつつも、たくさんあるお菓子にわくわくした。


『グリモワール完成パーティー!』

『楽しんでいってね!』

「え、グリモワールの完成パーティーだったの?」


 思いがけない妖精の言葉に、ティアラローズは聞き返す。すると、森の妖精と一緒に司書がやってきた。


『んへへ、わたしが話したのよ! 差し入れてくれたショートケーキのお礼をしに来たときに、無事に完成したことを伝えたら……今日のスイーツパーティーでお祝いしてくれるって』

「そうだったの」


 司書の言葉を聞いたお菓子の妖精は、うんうん頷いている。


『わたしたちの王様が頑張ったんだから、パーティーしなきゃ!』

『大事な指輪だって完成したもんね!』

『一件落着?』

『そうそう!』


 妖精たちはお互いに情報交換をし、今日のスイーツパーティーをグリモワール完成、一件落着お疲れ様スイーツパーティーにしてくれたようだ。

 ティアラローズはアクアスティードやエリオットたちと微笑み合って、改めて司書と妖精たちに礼を述べる。


「ありがとう、今日は楽しませてもらうわね」

『お礼を言うのはわたしたちです。歴史書……グリモワールのために力を貸していただき、ありがとうございました。これからもしっかり書庫の管理をしますから、いつでも遊びにきてくださいね』

「ええ」


 司書の言葉に頷き、遊びに行く約束をした。

 それから、ティアラローズは「そうそう」と準備していたものを妖精たちに差し出す。


「お土産のケーキよ。これもみんなで食べましょう」

「わたくしとエリオットからは、果実の紅茶です。甘さ控えめなので、お菓子に合うと思います」

『わあ、ありがとう!』


 お菓子の妖精がティアラローズとフィリーネからお土産を受け取ると、それもさっそく並べ始めた。テーブルの上はもう置き場もないほどお菓子で埋め尽くされている。


 今度は「お邪魔します」とオリヴィアが中に入ってきた。どうやらお菓子の家考察とスケッチは無事に終わったみたいだ。

 しかし先ほどとは違って、レヴィが麻布で包まれた大きなものを背負っている。その高さは、レヴィの身長よりも大きく、軽く二メートルを超えている。


 ――何かしら?


 お菓子の妖精だけではなく、森、空、海の妖精たちも『大きい~』と荷物の周りに集まってきた。


「これは本日ご招待いただいたお土産ですわ。どうぞ受け取ってくださいませ」

『ありがとう!』


 オリヴィアが合図をすると、レヴィが麻布を取ってその中身を見せた。


『わあああぁぁ~!! これは最高の栗!!』

『お菓子の材料になるね!』


 すぐに森の妖精とお菓子の妖精が歓声をあげた。――そう、レヴィが背負っていた荷物は栗の木だった。


 ――木を手土産にするなんて聞いたことがないわよ!?


 ティアラローズは目を瞬かせて驚くが、オリヴィアは誇らしげに胸を張っている。


「この栗の木は、とても大きな実をつけるのです。材料に使ったら、それはもう頬が落ちるほど美味しいモンブランができますわ!」

『おぉ~!』


 お菓子の妖精から盛大な拍手が起こった。どうやら、手土産の中で一番喜ばれたのがこの栗の木だったようだ。


『お菓子の庭に植えよう!』

『こっちこっち!』

「はいっ!」


 お菓子の妖精と森の妖精に手招きされて、オリヴィアとレヴィは庭へ出ていった。




「アクア、いい酒を持ってきたぞ! 花びらと果実から試行錯誤して作ったんだ」


 キースが軽く手を上げてアクアスティードを呼んだ。その手にはキースが告げた通りお酒の瓶があった。細くお洒落な造りで、花の蓋がついている。

 それを見たパールが「まったく」と呆れた様子を見せた。


「菓子なのだから、タピオカミルクティーに決まっておろう! まったく、酒を飲むとはわかっておらぬの」

「お前こそ、おこちゃまで酒のよさがわからないんだろうよ」

「なんじゃと!?」


 パールはキースの物言いに目を見開いて、「そんなわけなかろう!」とグラスを掴んで花酒をグラスに注いで一気に飲み干した。


「これくらい余裕じゃ!」

「パール!」


 クレイルが慌てて水を用意してパールに飲ませているが、すでに顔が赤い。


「あのな、一気に飲んだら楽しめないだろ……。クレイル、酒の飲み方くらい教えてやれ」

「そうだね」


 キースに言われて、クレイルは苦笑する。パールにお酒を飲ませようと思ったことはなかったのだけれど、この先もこんなことがあってはたまらない。クレイルはパールと一緒に飲むためにいいお酒を用意しようと決めた。


「あそこに混ざるのは大変そうだ」

「あはは……」


 アクアスティードがやれやれと苦笑したので、ティアラローズも苦笑で返す。お酒は美味しそうだけれど、今は間違いなくパールに絡まれるだろう。




 ルチアローズたちはどうしているのだろう? と視線を動かすと、お菓子のキッズスペースのようなところができており、そこで遊んでいた。いるのは、ルチアローズ、シュティルカ、シュティリオ、クリストアの四人。

 近くにはボールやガラガラなどのおもちゃが用意されていて、何人かの妖精も一緒にいる。

 すぐ横には子ども用の小さなテーブルと椅子があって、その上には一口サイズのケーキやカットフルーツが用意されている。子どもが食べやすいようにと、お菓子の妖精が食材や大きさを気にかけてくれたみたいだ。


「ふはは、騎士ルチアローズは悪を許しはしないのだー!」

「うわああぁ」


 ルチアローズが剣を振り回す仕草をすると、シュティルカたちが「やられた~」と言って倒れこんだ。どうやら騎士ごっこの遊びをしているようだ。


「うぅ、エレーネ姫はわたさないぞ~!」

「姫は返してもらう!」


 どうやら、ゆりかごで寝ているエレーネを勝手にお姫様役にしているらしい。今はエリオットが抱えていて、姫役になったエレーネを思わず見ている。


 しばらくすると疲れたのか、ルチアローズたちは小さなテーブルでお茶を始めた。仲良く美味しそうにケーキを食べている。


「子どもたちは楽しそうに遊んでいるわね」

「ああ。私たちもお菓子をいただきながら、ゆっくりしようか」

「はい」


 アクアスティードの言葉に頷いて、ティアラローズはエスコートしながら妖精たちが用意してくれた席についた。

 美味しいお菓子を食べて、パーティーは夜まで続いたのだった。

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