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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
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6. 妖精王の指輪と貪欲な本

 キースの魔力で大元の木ができあがり、そこにオリヴィアの魔力で赤薔薇が咲き、ティアラローズの魔力で白薔薇が咲き薔薇はお菓子になった。そしてアクアスティードの魔力で星が実り輝く木となった。

 これがマリンフォレストの新たな歴史を記す歴史書になるための木だ。


 それを見ていたティアラローズは、ハッと気づく。


「わたくし……作りたい指輪が決まったかもしれないわ」


 口にした途端、ティアラローズの周囲にきらりとした魔力が舞ってその姿は猫になった。そして、指輪の作り方が脳内に浮かび上がってくる。

 自分がどんな指輪を作りたいのか決めたことで、すべきことがわかったことにほっとする。


 アクアスティードが猫になったティアラローズを抱き上げてちょんと鼻同士をくっつけた。


「作りたい指輪が決まったんだね。おめでとう、ティアラ」

『あ……ありがとうございます、アクア』


 不意打ちの鼻ちょんに頬を染めつつ、ティアラローズは力強く頷く。


「なら、歴史書を作ってる間に一緒に作ればいい」

『本当? ありがとう、キース』


 キースに許可をもらったティアラローズは、よしっと気合を入れた。



 ティアラローズたちの魔力で育った木から、司書は一枚ずつ丁寧に葉をちぎる。これを加工して、歴史書を作るのだ。

 その横には花のテーブルが置かれて、その上でティアラローズが集中して指輪を作り出そうとしている。


 真剣な雰囲気に、オリヴィアはごくりと息を呑んだ。


「わたくしたち、歴史的瞬間に立ち会っているんですね……」

「滅多に……というか、普通は立ち会うことは許されないだろうからね」


 アクアスティードはティアラローズが作業する机の横に立ち、オリヴィアの言葉に同意する。

 その後は、とても静かな空間になった。

 司書が歴史書を作っていく音が響くだけで、そのほかはたまに聞こえる息遣いくらいだ。ティアラローズは目を閉じて集中しているようで、微動だにしない。


 そんな様子をアクアスティードはじっと眺めながら、どんな指輪が完成するのだろうと楽しみにしている。


 ――私も手伝うことができたらよかったんだけど……。

 さすがに妖精王が作る指輪では、何をしたらいいかわからない。そもそも指輪を魔力で作っているようなので、近づいていいものかも判断がつかない。

 ただただ、真剣なティアラローズの表情をみているだけだ。


 しばらくすると、キースが「まだかかりそうだな」と言いながらパチンと指を鳴らす。すると、地面から木の机と葉の椅子が生えてきた。


「確かティアラの手土産があっただろ? 食おうぜ。茶は妖精が淹れてくれる」


 キースは司書が受け取っていたティアラローズお手製のリーフパイを手に取る。作業に夢中の司書は、残念ながらキースの声が聞こえていないようだ。


 すぐに森の妖精たちがティーセットを持ってやってきた。

 花のコップに花茶を淹れ、砂糖の代わりに甘い蜜を用意してくれている。その横には、ミルクもある。

 妖精たちのしっかりしたおもてなしに、エリオットが驚く。


「すごい、しっかりしていますね。妖精にお茶を淹れてもらえるなんて……光栄です」

「ええ、ええ、本当に! お茶も淹れられるなんて、なんてすごいのかしら! あんな小さい体だというのに……」


 ちょっと驚くエリオットとは違い、オリヴィアは全力で絶賛している。

 キースはそんな二人にくくっと笑い、「すごいだろう?」とドヤ顔で返した。


「この城にはティアラがいつでも使えるようにキッチンも用意してあるからな。妖精たちはそこを使って、茶の淹れ方を勉強したんだ」

「そんなことをしていたのか」


 アクアスティードは「キッチンは必要ないから撤去してくれ」とキースを睨みつつ、ティアラローズに声をかける。


「ティアラ、お茶の用意ができたけどどうする?」

『……もう少しでできあがりそうなので、作っちゃいます』

「わかった」


 このまま集中力を切らさずに作り上げたいようなので、アクアスティードはティアラローズから離れてキースの作った椅子に座る。

 ティアラローズと司書以外の全員で、のんびりティータイムだ。


 花茶を堪能していると、レヴィが疑問を口にした。


「指輪と歴史書は、どれくらいでできあがるものなのですか?」

「ん? ん~、指輪は魔力の扱いとセンスによるから、ティアラはそこそこかかるだろうな。つっても、かかってあと数時間か。歴史書は司書の腕前次第だが……」


 キースの言葉で全員の視線が司書に向く。

 司書の手元はなんのためらいもなく動いていて、どうすれば歴史書を作れるか体が理解しているかのようだった。そのスピードも速く、とても精密な作業をしているとは思えないほどだ。


「……歴史書も早くできあがりそうですね」

「だな。あいつは本に関することだけはすさまじくて、右に出る奴はいない。任せておけばマリンフォレストの立派な歴史書ができるだろう」


 その言葉に全員が頷く。

 司書の本に関する熱量はすでに見ているので、なんの心配もしていない。


 話の流れで、オリヴィアも気になっていたことをキースに問いかける。


「歴史書ですが、内容はどうなるのですか? やはりマリンフォレストのすべてを記すべきだと思うのですが……」


 オリヴィアが昔からいつか作ろうと計画していた『マリンフォレスト大全』を今こそ創りあげるときではないのか……と思う。

 しかしキースは「ん~」と悩む。


「ざっくりした感じにわかればいいんじゃないか? 王の名前とか、大きな事件とか」


 けろりと言ったキースに、オリヴィアはがががーんとショックを受ける。


「そんな! わたくし、ドワーフが――地下のエルリィ王国が発見されてから、マリンフォレストの地下も調べたんです! それだけではありません。街の地形の移り変わりや、もしものときのためにこっそり隠し通路も作りました……!!」

「オリヴィア嬢!?」


 最後の話は聞いていないぞと、アクアスティードがオリヴィアを見る。


「あ……! 完成したら報告する予定だったのです。作業したのはレヴィだけですから、ほかの人間でこの通路を知る者はいません」


 うちの執事はすごいでしょうと言わんばかりにオリヴィアが胸を張ったので、アクアスティードとエリオットは二人でため息をついた。


「とりあえず、隠し通路を歴史書に記すのは却下だ。もし誰かに読まれて悪用されでもしたら、大変なことになる」

「――ハッ! そうでした……。わたくしったら、夢のマリンフォレスト大全のためとはいえなんと愚かな提案を……。申し訳ございません、アクアスティード陛下。わたくし――」

「いい、いいから土下座をしようとしないでくれ! レヴィも立て」


 どうしてこの令嬢と執事はナチュラルに土下座をしようとしてくるのか。いや、誠心誠意の謝罪ということはわかるのだが……。

 アクアスティードはもう一度ため息をついて、司書へ視線を向ける。


「ひとまず、内容の選定は司書にしてもらうのがいいだろう。今までの歴史書も管理しているだろうし、最適な内容がわかるはずだ」

「はい!」


 オリヴィアはアクアスティードの決定にすぐさま頷いた。




『――できたわ!』


 それから二時間。

 ティアラローズはとびきりの笑顔でアクアスティードたちの方を見る。なんども苦戦したけれど、どうにか指輪が完成した。


 ――ここまで集中して魔力を使ったのは、初めてかもしれないわね……。


 ティアラローズが安堵の息をつくと、お茶をしていたアクアスティード、キース、オリヴィア、レヴィ、エリオットがティアラローズの下へやってきた。


「お疲れ様、ティアラ」

『ありがとうございます、アクア。これがわたくしの作ったお菓子の妖精王の指輪です』


 ティアラローズが小さな猫の手の上には、可愛らしい指輪が載っていた。

 キラキラ光る指輪はまるでステンドグラスのようだけれど、ほのかに甘い香りが鼻に届いた。

 まじまじと指輪を見てアクアスティードが、「これは」と言ったので、ティアラローズはさすがだと思う。


『そうです。実はこの指輪、アクアの星空の魔力も一緒に使わせてもらったんです』


 元々、ティアラローズがお菓子の妖精を生み出したのは溢れ出してしまった星空の魔力をもらってもらうためだ。

 であれば、指輪にも自分の魔力だけではなく、星空の魔力を使ってもいいのではないか? と、みんなで木に魔力を注いだことにより思いついたのだ。


『この指輪の力は――回復。多少の怪我だったら、すぐに治癒できるはずよ』

「それはまた……すごいものを作ったね」


 アクアスティードは息を呑んで、ティアラローズを見る。この指輪の存在を知られたら、きっとほしいと望む人間は多いだろう。

 この世界にも治癒魔法はあるけれど、使い手は圧倒的に少ないのだ。


 ティアラローズは机の上にある花びらの上に指輪を置くと、鼻をくんくんさせる。


『いい匂いがします』

「ああ、花茶とリーフパイか。すぐティアラの茶も妖精に――」

『うわあぁぁっ!?』

「なんだ!?」


 淹れさせると、キースがそう告げる前に司書の声が響いた。作業机を見ると一冊の本ができあがっていて、その上に司書が乗っている。

 できあがったことが嬉しくて叫んでしまったのだろうか? そう思ったのもつかの間で、よくよく見ると、お菓子の妖精王の指輪と本がキイィンと共鳴して光り始めた。


『え!? どうなってるの!?』


 ティアラローズが慌てて指輪のところへ行こうとするが、アクアスティードが「危ない!」と叫びティアラローズのことを抱きしめる。

 状況が分からないのに、危険かもしれない指輪のところへ行かせるわけにはいかない。


「落ち着いて、ティアラ」

『アクア、でも……!』


 指輪に何かあったらと、さらに指輪のせいで誰かが傷ついてしまったらと、ティアラローズは不安になる。


「チッ、そういうことか! 指輪にティアラとアクアの魔力が入っていて、歴史書にもお前らの魔力が入ってるから共鳴して力が膨れ上がったんだ!」

『ええええぇぇっ!?』


 よかれと思ってやったことが完全に裏目に出てしまったようで、ティアラローズは悲惨な叫び声をあげる。

 すると、閉じていた本が勢いよく開いて司書が吹き飛ばされてしまった。


『うわああぁっ!』

『司書さん! キース、どうしたらいいの!?』

「俺だってわから――」

『でも――』


 どうにかして解決策をと、考えを巡らせるよりも本の動きは速かった。動きが速いとはどういうことだと、その場にいた全員が思っただろう。

 司書が作り上げた本は宙に浮き、開いたページをまるで口のようにして『知識の宝庫……!』と叫んでオリヴィアを食べてしまった。


「お、オリヴィア――!!」

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