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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
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5. 司書からの協力要請

 ティアラローズが自室で夜会やお茶会の招待状に返事を書いていると、ぽんっと机の上に丸まった封書が現れた。


「これは……手紙、かしら?」

「手紙のようですね……」


 ティアラローズの呟きに返事をしたのは、後ろから覗き込んできたオリヴィアだ。その後ろからは、レヴィも覗き込んでいる。

 葉に描かれ、くるりと丸めて花のリボンで結ばれた可愛い手紙だ。


 ――森の妖精かしら?

 けれど森の妖精から手紙をもらったことはないので、ティアラローズは首を傾げる。


「念のため、私が確認いたします」

「ありがとう、レヴィ」


 万が一危険があってはいけないので、オリヴィアの護衛も務めているレヴィが手紙を手に取った。

 花のリボンを取り、葉の手紙を確認する。


「ふむ……。司書からの手紙のようです。確か先日、森の書庫でお会いしたと言っていましたね?」

「ええ。まさか手紙をもらえるとは思わなかったわ」


 ティアラローズはレヴィから葉の手紙を受け取って、目を通す。

 司書の手紙には、大々的にマリンフォレストの歴史書を作り直したいこと、そのためにティアラローズやアクアスティードの話を聞きたいということが書かれていた。


「マリンフォレストの歴史書作り……」


 ――そういえば、最近のことを歴史書にしたいと言っていたわね。


 この国の歴史書を作るのだから、もちろん全力で協力させてもらうつもりだ。

 すぐに日程の調整をと考えたところで、オリヴィアが「歴史書を!?」と興奮して盛大な鼻血が噴き出し――たのだが、すぐさまレヴィがハンカチをあてたので事なきをえた。

 ティアラローズは最近は落ち着いてきたのにと思いつつ、心配そうにオリヴィアを見る。


「オリヴィア様の知識量はとても頼りになるので一緒に来てほしくはあるのですが……大丈夫で――」

「もちろんです!! マリンフォレストの歴史書を作るという歴史的瞬間に立ち会えるなんて、幸せですわ……っ!!」


 食い気味に返事をしてきたオリヴィアに、ティアラローズは「一緒に行きましょう」以外の言葉は言えなかった。



 ***



 数日後。

 ティアラローズは手土産に丸みを帯びた形のリーフパイを作ってキースの城へやってきた。メンバーはティアラローズのほかに、アクアスティード、オリヴィア、レヴィ、エリオットだ。

 子どもたちはフィリーネが子どもを連れてきてくれたので、一緒に遊んでもらっている。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……わたくし、わたくし……!」

「オリヴィア……!」

「「「…………」」」


 キースの城に来たとたん、オリヴィアが過呼吸もとい過鼻血で倒れてしまった。呼吸もままならず、肩で息をしている。


「もっもっもっもっ森の妖精王の城にいぃ!」


 オリヴィアのテンションはマックスだ。

 ティアラローズとアクアスティードとエリオットはどうすればいいのかわからず顔を見合い、レヴィを見る。この状況をどうにかできるのはレヴィだけだ。


「ここまで鼻血がすごいとなると、早急に帰らなければ命にかかわります」

「そ、それは駄目よ! これから森の書庫へ行って、歴史書が完成するところに立ち会うのだから……!! 鼻血なんて気合で止めて見せるわ!!!!!!」


 わなわな体を震わせるオリヴィアの横には、血塗られたハンカチが何枚もある。さすがにこれを止めるのは無理だろうと、誰もが思った。

 しかしオリヴィアは「ふんっ!!」と気合を入れて、ピタリと鼻血を止めて見せたのだ……!


「すごいです、オリヴィア! さすがです!! 特訓した甲斐がありましたね……!!」


 ――いったいどんな特訓をしたの?


 思わず心の中でツッコみを入れたティアラローズだったが、さすがに内容まで聞く気にはなれなかった……。



 そして「……もういいのか?」と微妙な顔をしているのは今の様子を全部見ていたキースだ。自分の城が赤く染まりそうになって顔が引きつっている。もちろんオリヴィアの鼻血はレヴィがすべて処理したのでキースの城には血の一滴もついてはいない。


「あぁっ、御前でお見苦しい姿を大変申し訳ございません!!」

「いや、まあいい。司書の手伝いをしてやってくれ」

「はい!!」


 扇で自分の肩をトントン叩きながら告げるキースに、オリヴィアが元気よく返事をした。歴史書づくりが楽しみで仕方がないようだ。




 ということで、森の書庫へやってきた。


『いらっしゃいませ! 今日は来てくれてありがとうございます!』


 森の妖精――司書が帽子をとってぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれた。

 すぐに初対面のオリヴィア、エリオット、レヴィも挨拶を行う。こんな風に妖精と改まって会うことはそうそうないので、なんだか不思議だ。


「お招きありがとう、司書さん。これ、お土産のリーフパイよ。今朝焼いてきたの」

『わあ、とってもいい匂い! んへへへ、お茶の時間にお出ししますね』


 司書はお土産を嬉しそうに受け取って、「どうぞ」と奥に案内してくれた。

 するとそこには、今までなかった一本の木があった。薄黄緑の葉がキラキラ輝いていて、特別な木だということが一目でわかる。

 同時に、魔力を含んでいるということも。


 ――今までのわたくしだったら、魔力のことに気づけなかったかもしれないわね。


 ティアラローズ自身、星空の王の力と、お菓子の妖精王となったことで、各段に魔力が増して扱い方も上手くなっていた。

 全員が木に注目していると、キースが木に触れる。すると、葉がキラキラと輝きだした。その理由は、キースの魔力が木に注がれているからだ。


「綺麗……。キースの魔力ね?」

「ああ。葉の本のなかでも特別なものはこうやって作るんだ。魔力で育てた木の葉を使う。ティアラ、アクア。それから――そこのお前、オリヴィア。木に魔力を注ぎ込め」

「わたくしもですかっ!?」


 キースの言葉に一番驚いたのは、オリヴィアだ。

 歴史書のためにすべての知識を献上するつもりはあったけれど、まさか魔力を要求されるとは思ってもいなかった。というよりも、自分がそれに参加してもいいのか!? と、混乱している。


 ティアラローズはそんなオリヴィアを見て、ぎゅっと手を取る。


「オリヴィア様の知識は膨大ですし、ぜひ協力してくださいませ」

「はぁはぁ、わたくしでよければもちろんですっ! すべての知識を木に注いで見せますわ……!!」


 大きく頷いたオリヴィアの熱量はすさまじく、ティアラローズも負けてられないと気合を入れる。


「わたくしも頑張ります! 素敵な木を育てましょうね」

「ええ!!」


 この二人はゲーム――この世界のことになると、かなり燃え上がる。そんなティアラローズとオリヴィアを見て、アクアスティードは苦笑した。

 というのも、アクアスティードはティアラローズたちがゲームをプレイしていた前世を持つということを教えてもらっている。なのでゲームの舞台となったマリンフォレスト王国とラピスラズリ王国に詳しいことは知っているのだ。


「二人が頑張るのだから、私もかなり気合を入れないといけないな」

「どんな木に成長してくれるのか、楽しみですね」


 ティアラローズが笑顔で告げると、アクアスティードも頷いた。


「よし、それじゃあ……オリヴィアから」

「は、はいっ!!」


 キースに呼ばれたオリヴィアは勢いよく返事をして、木の下まで歩き出す。右手と右足が一緒に出ているので、かなり緊張しているのだろう。

 そんな様子を見ながら、ティアラローズとレヴィが心の中で頑張って! とエールを送る。


 オリヴィアは木の前に立つと、すーはーと深呼吸をし、流れるような美しい所作で跪いた。


「あぁ、このように美しい木にわたくしのちっぽけな魔力を注いでいいものか……と不安になりますが、少しでもわたくしの魔力と、その知識がお役に立てましたら光栄です」


 そして、両の手で木へ触れる。

 ゆっくり、優しく、木を慈しむように、宝物のように――。



「……オリヴィア様の魔力が流れ込んでいくのがわかるわ」


 魔力の量自体は多くはないが、丁寧に流し込んでいっているのはわかる。オリヴィアがこの木をとても大切に思っているのが言葉だけではなく動作からも伝わってくるのだ。

 そして同時に、何やら小さな声でブツブツ言うのが聞こえてきた。


 ――何かしら?

 ティアラローズは首を傾げつつ耳をすます。


「わたくしの知っているマリンフォレストの歴史をすべてお教えいたします。まず王都の中央にある噴水には『ラピスラズリの指輪』のロゴマークがあり、デートの待ち合わせなどで使われることがあります。そして王城へ行くための極秘の通路もいくつかあって……」

「オリヴィア様、ストップ、ストップです!!」


 なんということを喋っているのだと、ティアラローズが慌てて止める。ここにいるメンバーならば聞いても問題はないだろうが、さすがに気軽に呟いていい内容ではない。


「すべての知識を提供しようかと……」

「魔力だけでいいんですよ……」


 もしや喋っている間中、ずっと魔力を注ぐつもりだったのだろうか? 間違いなく、喋り終える前にオリヴィアの魔力が枯渇するだろう。


「うぅ、魔力だけでは足りないかと思いまして……」


 そう言いつつも、オリヴィアが魔力を注ぎ終えると、赤い薔薇が咲いた。


「薔薇の木、だったのかしら?」


 ティアラローズが目を瞬かせながら薔薇の咲いた木を見る。けれど、木自体は普通のものだし、薔薇の葉でもない。

 どういうことだろうと思っていると、キースが「魔力で成長するって言っただろう?」と告げた。


「そいつの魔力で赤い薔薇が咲いたってことだ。ティアラとアクアも、それぞれの魔力にあった成長をするはずだ」

「なるほど……!」


 ただ木が大きくなるだけだと思っていたが、魔力を与えた人物により成長の仕方が変わるようだ。

 ティアラローズはわくわくしながら「次はわたくしが育ててもいいですか?」とアクアスティードを見る。


「ああ、もちろんだ」

「どんな成長をするか楽しみです!」

「…………」


 わくわくしているティアラローズには申し訳ないが、その場にいる全員がどんな成長をするかは確信していた。

 絶対にスイーツ関係の成長を遂げるはずだ……と!


 ティアラローズは木の前に行き、オリヴィアと同じように跪いて両手で木の幹に触れる。すると、ぱあぁっと輝き始めた。オリヴィアのときには見られなかった現象だ。


「すごい、魔力が吸い取られていくわ……!」


 びっくりして目を見開きながら、ティアラローズは木の様子を見る。

 するとオリヴィアの咲かせた赤い薔薇が一回り大きくなり、周囲に甘い香りがただよってきた。どうやら薔薇の香りが強くなったようだ。


 ――わたくしの魔力で、花がさらに成長したということかしら?


「ティアラらしい成長だね」

「本当だな」


 アクアスティードとキースには、どんな風に成長したのかがわかっているようだ。しかしティアラローズ自身は、まだぴんと来ていない。


 ――もう少し魔力を注いだらわかるかしら?


 そう思って、体内の魔力をどんどん手へ巡らせていき、木へ流し込んでいく。すると今度は、白薔薇が咲いた。


「! 新しい花が咲いたわ」


 魔力も十分に注いだので、ティアラローズは木から手を離してまじまじと白薔薇を見る。


「あら?」


 見ただけでもすぐにわかった。ティアラローズは指先で白薔薇に触れて、軽く叩く。すると、コツコツという音がする。


「この白薔薇、花びらが固いわ。花じゃないみたい。……いいえ、何か硬いもので作った花の装飾品……という感じかしら?」

「どれどれ」


 キースが覗きこむと、咲いた白薔薇と赤薔薇を一輪ずつ摘んだ。

 そして花びらをぱくりと食べた。


「キース!?」


 ティアラローズが「何してるの!?」と焦るも、キースは「甘いな」と言って笑う。


「これ、赤い薔薇は蜂蜜みたいな味がするな。白いのは、飴細工みたいだ」

「え?」


 まさかつい先ほどまでは普通の花だったのに、ティアラローズの魔力を与えたせいでお菓子になってしまった。

 驚いてアクアスティードに視線を向けると、納得しているようでうんうんと頷いている。後ろにいるエリオット、オリヴィア、レヴィも頷いている。


 ――うぅ、わたくしってそこまでスイーツ脳だと思われてるのかしら……。いえ、思われているわね。

 でも、スイーツな花ができたのでよしとしようと、ティアラローズも薔薇を見て頷いた。そしてちょっと食べたいと思いつつも、アクアスティードに場所を譲る。


「それじゃあ、最後は私の魔力だね」

『よろしくお願いします!』


 司書がわくわくした目で、『もう成長しきりそうですね!』と木の周りを飛んでいる。それをキースが「落ち着け」と言ってつまみ上げている。

 アクアスティードはその様子に苦笑しながら、跪いて木に魔力を注いでいく。すると、すぐ木に変化が現れた。


 木はぐんぐん伸びて、その背をどんどん高くする。あっという間に天井に届く高さになると、アクアスティードの魔力を放出するかのようにキラキラと輝きだして、星に形を変えた。木に輝く星が実り、まるでクリスマスツリーのようだ。


 ティアラローズがすぐアクアスティードの下へ行き、一緒に木を見上げる。光っている様子は、なんとも幻想的だ。


 ――アクアの星空の魔力、なんだか温かい。

 ほっこりした気分で眺めていると、司書が『これなら歴史書を作れそうです!』と嬉しそうに声をあげた。

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