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すごい話(前編)

 まず花奈(かな)は現在の家族構成になった経過を説明し始めた。


「小さい時はまだ父も居たんですけど会社が破綻したせいで母と口論になって家を出て行っちゃったんです。父とはそれきり会ってません。今もどうしてるか分からなくて」


「連絡は?」


 未央(みお)は花奈に尋ねた。行方不明で何をしているかも分からないのであれば連絡を取れば済む話だ。今時ほとんどの人間が自分専用の携帯を持っている時代。難しいことではない。


 だが花奈は首を横に振った。


「母が連絡先を消しちゃったみたいで分かりません。父は私と弟がまだスマホとか持ってない時に出て行ったので唯一連絡できたのが母だったんですけど」


「そうなんだ……」


 口論になって出て行った相手の連絡先をずっと持っているのも花奈の母親にとっては嫌だったのだろう。未央自身もそういう立場だったら花奈の母親と同じことをするはずだ。


「まぁ、気持ちは分かるけどね」


「私もです。でも、今となってはちょっと会いたいなっていう気持ちも……。あっ、こんな事は二の次です。私が話したいのは弟とのことなんです」


 自身の心情を語っていた花奈は不意に思い出したように話題を転換させ本来の話題に戻した。本来の話題とは彼女が言っていた「すごい話」のことである。


「あぁ、うん。どうぞ」


 未央は花奈が出してくれた紅茶をすすった。


「前置きしておいて先輩にとってはすごくない話になっちゃうかもしれないですけど……」


「大丈夫。花奈ちゃんが聞いてほしいっていうなら聞くよ」


 不安そうな表情に微笑みかけて未央は話を聞いた。


 花奈が言うことには、まず自分たち___自身と弟の咲夜(さくや)は何の変哲もない普通の子供であり、決して特別な遺伝子を兼ね備えた人種という物でもない。


 そんな突然の予想を超える角度からの弁解に思わず未央は苦笑。だがすぐに表情を固めて花奈の話に耳を傾ける。これは彼女にとって真剣な話なのだから未央が真剣に聞かなければ花奈の気持ちも治らないだろう。


 ある日弟の咲夜の様子がおかしくなったという。


 毎晩のように出歩くようになり外出時間も延びていった。まだ中学生にも関わらず、だ。気になった花奈は色々と独自に調査を行ったが、咲夜の周りにはそのような夜遊びをしている友人は誰一人としていなかった。友達による影響だと踏んでいたが真っ先にその可能性がなくなった。


 次に花奈が焦点を当てたのが詐欺グループなどによる電話だった。花奈がおらず母親もパートで家を開けている時は大抵咲夜が電話に出ることが多い。その時に詐欺グループなどに脅されて毎晩何かひどい目に合わされているかもしれないという可能性も否定できない。だがそれもすぐに崩れた。まるで変態のように弟の身体をじっくり観察したがどこにも外部から攻撃されたような跡は残っていなかった。


 外部からの影響ではないとなれば自然に証明されるのは、咲夜自身の意思によるものだということ。だが何不自由なく育ってきた少年がいきなり夜遊びを繰り返したりするだろうか。ましてや第三者に唆されたわけでもないというのにあり得ないことだ。


 反抗期や思春期などの心の変化による平常心の乱れから来るもの。その次は心による可能性を探った。中学生ともなれば勉強や友達関係、部活動での上下関係など新しい事が盛り沢山で精神的に追い詰められそうになる年頃だ。そんな日頃のストレスが咲夜を変えてしまったのではないか、と。


 自らの調査の結果でも一番可能性として考えられるのが精神の不安定から起こるものだった。そこで花奈はさりげなく咲夜に日頃のことを尋ねた。返ってきた答えは「大丈夫」だった。だが明らかに異常なこの状況下でその言葉を信じろと言う方が無茶な話だ。咲夜は確実に変貌を遂げていておそらくエスカレートすれば姉の花奈でも母でも止められなくなってしまうに違いない。


 花奈もずっと不安だった。弟のことが心配でたまらなかった。明らかに咲夜は不安を抱えている。だがその抱えている不安を誰かに話すのは時に辛いこともある。それは花奈自身も知っていたのであまり深追いはしなかった。咲夜が本当に助けが必要になった時にその助け舟になってあげられるように近くで見守っていた。


 そんな時だった。


「弟が、咲夜が私に泣きついてきたんです」


 花奈はおそるおそる未央の目を見て続けた。


「『人を殺した』って」

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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