新たな決意を胸に
「えっとね。……あ、悪ふざけする人のこと!」
咄嗟に思い付いたことを咲夜は口に出す。
だが出してしまってから、この答えで本当に大丈夫なのか気が気でなかった。
おそるおそる悠希の顔を窺うと、悠希はふむふむと納得するかのように頷いていた。
「なるほどな。でもなんでそれを新聞記者が探してるんだ? そこらにいる中学生なんてお年頃だし……あ、悪い意味で言ってるわけじゃないよ!」
慌てて否定する悠希に咲夜もコクコクと頷く。
悠希は安心したように続きを話し始めた。
「中学生なんて色々遊び回りたい時期じゃん? そういう悪ふざけするのは仕方ないと思うんだけどなぁ。だからマスコミ沙汰にならなくてもいいはずなんだよ。それが何で……?」
もはや頭の上にたくさんのはてなマークが浮かんでいるほどに、悠希は不思議がっている。
確かに、ただの悪ふざけする中学生達をわざわざマスコミが調査するなんて、普通はあり得ないことだ。悠希が疑問を持つのも当然だった。
「さ、さぁ」
咲夜はついはぶらかせてしまう。
破壊者=悪ふざけする人だと解釈されてしまうとツッコミ所が満載だ。
流石にマズかったと咲夜は反省する。どの道切り抜けなければいけない関門なのだから、ツッコミ所のないようにしっかり言い訳しないといけない。
「まぁいっか。今日はせっかく楽しい買い物だったのに変な話で気分悪くしたくないよね。ごめんね」
冷や汗をかく咲夜を見て悠希が慌てて謝った。
「ううん。ボクこそごめん」
「咲夜くんは悪くないよ。怖い思いしたんだからどちらかっていうと被害者だし」
「うん……。でも」
咲夜はそこで言葉を切り、顔を上げて笑顔で言った。
「助けてくれてありがとう、お兄ちゃん。本当は怖くて仕方なくて、でもお兄ちゃんが助けてくれるかどうか分からなくて不安だったんだ」
「そうだったんだ。なら、その不安を解消できたってことか」
そう言って悠希は満足そうに笑った。咲夜も笑顔で頷く。
「母さんが帰ってきたらその服見せてあげて。多分大喜びするよ」
「そうなの?」
咲夜の反応に悠希は力強く首を縦に振って、
「母さん、何だかんだ咲夜くんのこと本当の子供みたいに思えるって言ってたし。でも本当に服一着だけで良かった? 本当ならもっと買ってあげたかったんだけど、何せ俺の小遣いが少なくて。ごめんね」
悠希は申し訳なさそうに謝った。
「ううん」
咲夜も慌てて手を振って否定する。
まさか服を買ってもらえるなんて思ってもみなかったことだし、それだけでも有り難いのになお力不足かもしれないと思って謝ってくれる悠希がすごく嬉しかった。
本当に心の優しい人なんだなぁと改めて思う。悠希に出会えた奇跡に人生で一番感謝したかった。
何度お礼を言っても言い足りないほど、悠希も千里も咲夜に優しくしてくれている。そのことが本当に有り難かった。
「あ、そうだ。明日からの学校はどうする? 荷物、家じゃないの?」
悠希に言われて咲夜はハッとした。
服の次の問題は学校の準備だった。すっかり忘れていた。
家出した当日は次の日が日曜日だったので油断していたが、それから一日を悠希の家で過ごすことになるのも想定外で、本当のところは気が済んだら家に帰ろうと思っていたのだ。
警察に連行されたらその時だ、と覚悟を決めながら。
だが運良く悠希に拾ってもらえた。こんなに優しくしてもらえた。人の優しさに触れるということがこんなにも温かいことなんだ、と改めて実感させられたのだ。
そう思うと少しだけ勇気が湧いてきた。今なら家に帰れるかもしれない。
「お兄ちゃん」
咲夜は悠希に話しかけた。
「ボク、やっぱり家に戻るよ」
「え?」
驚く悠希を前に咲夜は続ける。
「すっごく短い時間だったけどお兄ちゃんの家に泊めてもらって、お母さんにも優しくしてもらって、一緒に買い物してくれてすごくすごく楽しかったし嬉しかった。でもだからこそやっぱり迷惑はかけられない。ボクが長い間ここに居続けたら、きっとお兄ちゃんたちが不幸になっちゃう。理由は……言えないけど、でも、絶対なんだ」
悠希の目を真っ直ぐ見据えて咲夜は微笑んだ。
「本当にありがとう。お兄ちゃんたちが優しくしてくれたから、ボクもこうやってもう一回家に戻ろうって思えたよ。元々ボクのわがままでこんなことになっちゃったのに言えた義理じゃないかもしれないけど」
「そんなことないよ」
咲夜の言葉に悠希は首を横に振った。
「じゃあ、本当に家に戻るの?」
「うん」
咲夜は笑顔で頷いて、
「もしかしたらまたお邪魔するかもしれないけどその時はお願いしてもいいかな? ボク、よく母さんと喧嘩しちゃうんだ」
「ああ、いいよ。いつでも来い」
悠希は胸をドンと叩いて言った。
「ありがとう」
咲夜は、ついさっき買った服と昨日着ていた服を洗濯物の中から取り出して手に抱えて玄関へ。
「本当にありがとう。お兄ちゃん、ボク、お兄ちゃんのこともお兄ちゃんのお母さんのことも大好きだよ」
そう言ってニッコリ微笑む咲夜に悠希も微笑み返す。
「ああ。俺もだよ」
「じゃあ、またね」
「うん」
二人は手を振って別れた。
咲夜はドアを閉めて悠希の家から離れ、ふぅと短くため息をついた。
急な心変わりで悠希の家をお暇したが自分の決断に後悔は微塵もない。
それに何より悠希達に迷惑はかけられない。そのためにも早いうちに距離を置かなければいけないと思ったのだ。
警察が来てももう逃げない。自分が犯した罪をしっかり償うのが人間として当然のことだ。
咲夜は強く心に誓って家路を急いだ。
まだ昼頃で青空が広がる住宅路を一歩一歩決意を新たに進んでいく。
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「え⁉︎ 咲夜くん出て行っちゃったの⁉︎ 」
「うん。決めたみたいだったよ」
夜になって、千里は勤務を終えて家に帰るなり、咲夜が出て行ったことを悠希から聞いて驚いていた。
「そうなの。まぁ、自分で決めたなら仕方ないわね。人に言われるより自分で決めて行動するのが一番よ」
「そうだな」
勿論咲夜が出て行ったことは寂しいが、悠希も千里も清々しい気持ちだった。
「弟が頑張ろうって決めたんだ。俺も頑張らないとな」
ガッツポーズを決めながら悠希は気合いを入れる。その姿に千里もエールを送った。
「おっ! がんばれ! 悠希!」
「ああ!」
二人は微笑み合ってダイニングテーブルに腰掛けた。
「それで、例の件はどうなってる?」
さっきとは打って変わって神妙な顔つきで悠希は尋ねる。
「うん……。調べてみたんだけどやっぱり間違いないみたい」
「そっか。じゃあ正解だったってことだな」
悠希の言葉に千里も頷く。
二人が挟んでいるテーブルの上にはあることに関する記事や資料が並べられていた。千里が職場から持ち帰ったものだった。
その記事には『破壊者・百枝 咲夜』の名前があった___。




