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彼の血と看板と

「血?」


「ああ。暗かったから俺の見間違いかもしれないんだけど、でも確かにあれは血だったんだよ」


 翌朝。龍斗と二人で学校への道を歩きながら、悠希は昨日の咲夜のことについて話していた。


「怪我とかじゃねぇの? そんなに気にするようなことでもねぇと思うけどな」


「うーん、だよなぁ。でも何か引っかかってさ……」


 龍斗の呑気な言葉もにわかに信じられず、悠希は顎に手を当てて考え込む。


 誰だって怪我をすることはあるし、それは咲夜に限った話ではない。少し流血があっただけで、本当は龍斗の言う通りそこまで気にする問題でもないのかもしれない。


 実際、周りが暗くて見えづらかったのは事実だ。


「咲夜って奴は何て言ってたんだ?」


「大丈夫だって。その後すぐ帰ってった」


 腕の血のことを聞くと急に焦ったように家に帰った昨日の咲夜を思い出す悠希。


 あの時は血のことで頭がいっぱいでそこまで頭が回らなかったが、今考えてみると少し変だったかもしれない。


 あの態度は明らかにいつもの咲夜ではなかった。秘密がバレそうになって慌てている時の表情であり、仕草だった。


「ちょっと怪しいな」


 龍斗も悠希と同じ考えらしく、考え込むような仕草をしながら言った。


「やっぱりそう思うか?」


 悠希の問いかけに頷く龍斗。


 龍斗から地面へと視線を移し、悠希はまたも考え込んだ。


 ______確かに、怪しい。


 まだ数回しか会っていないが、あんなに急いで帰る咲夜は初めて見た。別に急いでいるとも用事があるとも言っていなかったのに、腕の血のことを聞くとあからさまに態度が変わっていた。


 頰に汗をかきながら『大丈夫!』と言っていた少年が頭に浮かぶ。


「まぁ、今日も会うし、もう一回本人に直接聞いてみるよ」


「それが手っ取り早いな」


 うなずき合い、悠希と龍斗はこれ以上咲夜の話もすることなく学校に向かった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 だが______。


「やっぱりなぁ……」


 昼休み。悠希、龍斗、茜、早絵の四人で弁当を食べながら、悠希はため息をついた。


 あれからやっぱり気になって、茜や早絵にも龍斗と同じことを相談してみたのだが、どちらの答えも龍斗と同じだった。


 まさかこんなに引きずることになるとは悠希も思わなかったので、若干予想外ではあるが。


 本当に、あの咲夜の血はほんの些細な怪我なのだろうか。

 それとも、もっと他の理由でついた血なのかだろうか。


「なぁ、どっちだと思う?」


 悠希はまた三人に尋ねた。


「怪我だろ」


 いい加減この話をするのはやめてほしい、と言わんばかりにどはぁーっと悠希よりも大きいため息をついて、龍斗が言った。


「怪我……じゃないかな」


 早絵も龍斗に賛同する。


 茜も二度頷いてから、『そもそもさ』と人差し指を立てた。


「仮に怪我じゃなかったとして他の理由、考えられる?」


 茜に聞かれて、悠希はなるほどと納得した。

 今まで悠希は、本当に咲夜の腕についていた血が怪我によるものなのかどうかをずっと疑ってきた。


 しかし、じゃあ他の理由は? と聞かれると即答できない。


 つまり、怪我以外の答えが考えられないのだ。


「……となると」


 昨日の夜から今日の昼にかけてほぼ半日考え続けて出た答えは、


「やっぱり怪我か」


 悠希の納得ぶりに、三人は思わずずっこけそうになっている。

 しかし、悠希としては大真面目である。


「だから言っただろ?」


「いや、龍斗のことだから信じられなくて」


「おいっ‼︎」


 これまた真面目に返す悠希に、龍斗が不満げな声をあげる。


「ていうか、俺のことが信じられねぇんだとしても、茜も早絵も同じ答えなんだからその時点でわかるだろ」


「自分で納得したかったんだよ」


 初めて見た幼馴染の頑固っぷりに、龍斗はため息しかつけないようだ。


「で、結局今日の夜に聞くんだろ? そいつに」


「うん。聞こうとは思ってるけど」


「じゃあああああそれでいいじゃねぇかああああ‼︎」


 龍斗は我慢できなくなったのか、イライラを吹き飛ばすように叫んだ。


 すると、教室で同じくして弁当を食べていた生徒達が、ぎょっとして龍斗の方を見る。


「ん? ……だぁ! 悪りぃ!」


 自分があまりにも大声で叫んでしまったことに気付き、龍斗は慌てて両手をバチン! と合わせて謝罪する。


 特に何もなかったことがわかると、生徒達は何事もなかったかのようにお互い向き直り、弁当を食べ始めた。


 龍斗の声があまりにも大き過ぎて、何かあったのではとドキドキしたのだろう。


「ったく、お前のせいだぞ!」


 龍斗は悠希に文句を言ってきた。

 クラスメイトの前で恥を晒してしまったせいだろう、顔が赤くなっている。


「何で俺なんだよ」


 悠希は濡れ衣を着せられてムッとした。


「今のは完全に悠希のせいだろ! 終わったことをウジウジウジウジ!」


「気になってたんだから仕方ないだろ」


「そういうウジウジがムカつくんだよ!」


「龍斗が勝手にムカついてるだけだろ」


 悠希の頑固な優柔不断ぶりに、龍斗はずっとイライラを募らせていたようだ。

 おそらく、簡単に爆発してはいけないと思い、龍斗なりに我慢して耐えていたのだろう。


 だがあまりにも悠希の優柔不断が続き、しかも散々悩んで出した答えが龍斗達が最初から言っていたものだったために、余計に腹が立ったといったところか。


 だが、イライラを抑えて放った文句も悠希にサラッと返されるだけ。

 龍斗の腹の虫はなかなか治らないようだ。ため息をつきつつムスッと頬を膨らませている。


「ま、まぁまぁ、もう結論は出たんだし、お弁当食べよ? ね?」


 早絵が火花バチバチの二人の間に入ってなだめ、やっと喧嘩(?)は終わった。


「喧嘩するほど仲がいいってこのことかぁ」


 と、茜は一人あくびをしていたが。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 放課後。


 掃除も終わり、部活もない日だったため、悠希は急いで門を出て家に向かっていた。


 早く荷物を置いて、今日は早めに咲夜に会いに行こうと思ったのだ。

 昨日の血のことを聞くのも勿論だが、それよりも悠希の頭の中に残っていたのは、あのオンボロな白い看板だった。


 あれは誰の仕業によるものなのかずっと気になっていた。

 ただのいたずらな気もするが、どうしても只事に感じられない。


 荷物を置いて再び家を出ながら、悠希はクスッと笑った。


 何だかんだ言って、自分が四六時中何かを気にしてずっと考えているのに気付いたからだ。


 咲夜の血にしてもあの看板にしても、なるべく早く片付けておいた方が良いな、と思いながら。

 悠希は、あの道端へと足を進めた。

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