本当の真実は何処へ
「そうだったんだな」
病院のロビーのベンチでは左から悠希、龍斗、茜、早絵の順でそれぞれ腰を下ろしていた。
龍斗たちから事の成り行きを聞いた悠希は、龍斗の隣に座ったまま神妙な表情で俯いた。
「でも、あれだけ反省の色全然見せなかった陰陽寺くんが話しづらい風にしてたんだったら少しは反省し始めたんじゃないかな」
早絵がそう口にした。
そして茜の肩に優しく手を添える。
「それがよくわかんねぇんだよ」
「どういう事だ?」
龍斗のぼやきに悠希が聞き返す。
「いやー、だってさ」
龍斗が手を頭の上で組んで言った。
「反省してるんだったらあそこで早絵を刺した時の事言ったりするかなって思って」
龍斗の言葉に全員が俯く。
「確かに、普通は言わないかもな」
悠希が同意する。
「だろ?」
「それで茜ちゃん、倒れそうになっちゃったんだね」
早絵が茜に向かって言うと茜は小さく頷いた。
「ごめんね」
「何で早絵が謝るの? 早絵のせいじゃないよ!」
早絵の急な謝罪に茜は慌てて否定する。
悪いのは早絵を刺した大雅であって、早絵は少しも悪くない。
謝る必要などこれっぽっちもないのだ。
「早絵のことを言ったらどんな形であれお前らが出て行くって計算してたんじゃないのか?」
悠希が龍斗と茜の方を向いて言った。
「え? マジかよあいつ」
悠希の言葉に龍斗は驚きを隠せない。
「いや、本当のところはわからない。あくまでも俺の推測だけど」
悠希はそこまで言うと、顎に手を当てて考え込んだ。
「私たちが出て行った後に先生に本当のこと話したのかな」
茜が俯いたままポツリと言った。
※※※※※※※※※※
ガラッと病室のドアを開け、月影先生は中に入る。
病室のベッドでは悠希と早絵の姿は依然としてなく、大雅が大人しく本を読んでいた。
「陰陽寺」
歩きながらそっと声をかけると、大雅は先生の方を見て読んでいた本を急いで閉じ、枕元に置いた。
「はい。何ですか」
「さっきはごめんなさい。私も少し戸惑ってしまって。本当はあなたから全て本当のことを聞きたかっただけなのに」
先生は頭を下げた。
大雅はその先生の様子を黙ってじっと見つめる。
「もうほとんど話したと思いますが」
「そうなんだけどね」
「じゃあいいですか」
「え?」
再び大雅は本を手に取り開き始める。
「過去のことを何回も喋りたくないんです」
「でもね」
「今はまだやめてください」
大雅は先生の方を向かず本を見つめたまま言った。
「話す気分になったらお話ししますので」
※※※※※※※※※※
「でも先生に本当のことなんか言えるか?」
龍斗が悠希の方を見て言った。
「いや、普通大人に言うんだったら相当な勇気がいるはずだ」
「悠希だけに」
龍斗の唐突なボケにすぐさま茜の拳骨が落ちてきた。
「あいてっ!」
龍斗は頭を抑えて涙目になりながら茜に文句を言う。
「いってぇな! お前力強過ぎるんだよ。ちょっとは手加減しろよな」
「こんな深刻な状況で変なこと言うからでしょ」
茜はキッと龍斗を睨みつける。
「す、すみません」
龍斗は肩をすぼめてうなだれた。
(あいつと言えども所詮は俺たちと同じ高校生だし、本当のことをわざわざ大人に言うとは思えない。でも……)
悠希はそんな龍斗たちをよそに一人で考えていた。
(もう死にたいんだよ)
あの時体育館でボソッと呟いた大雅の姿が浮かんでくる。
(あいつはあの時死にたがってた。大人に全て話して警察に身を置くという策略なんじゃ……)
警察に捕まることで牢屋に入りそこで一生を過ごすことも不可能ではない。
(いや、それだと必ずしも死ねるとは限らない。今までのあいつの罪から考えれば死刑になる可能性の方が高いが……)
ほとんどの場合未成年が犯罪を犯すと少年院に送られる。
少年院では罪を犯した子供達が番号で呼ばれ、日々同じ時を生きているのだ。
(少年院で死刑が行われるなんてことあるのか……?)
悠希はそういう犯罪のことは詳しくない。
だから警察に捕まって少年院に送られた後の罪人たちの末路も知らない。
あそこで何が起こっているのか。
この世の中の犯罪をめぐる仕組みのことも現代社会の授業で少し触っただけで本格的には学んでいない。
出来れば大雅には死んでほしくないが、本人がそれを望んでいて今病院にいるのも全て死のための作戦だとするともう止める術はない。
(どうすればいいんだ……)
悠希は必死に頭を回転させた。
「おーい! 悠希ー!」
龍斗に呼ばれてハッと顔を上げる。
横を見ると龍斗たちが心配そうな表情で見つめていた。
「大丈夫か? 悠希。もう病室戻るぞ」
「あ、うん。わかった」
龍斗に言われて慌てて立ち上がり、悠希は三人と一緒に病室へと向かった。
※※※※※※※※※※
その頃警察署では、以前病院に足を運んでいた警察官・丸山と細川が大雅のことを必死に調べ尽くしていた。
「これもこれもこれも、全部この子がやったのか」
「そのようだな。どの事故でも必ず生還している」
机の上には今までの大雅が起こした爆破事件の資料が並べられていた。
丸山はこの全てが一人の少年によって行われたものだということをまだ信じることができないと言うふうに資料を見比べては、驚くばかりだった。
一方、細川の方は冷静で、聞き込みを繰り返して大雅を犯人と断定するための証言を集めていた。
「もう犯人は決まっているんだ。いちいち驚いてないでさっさと手を動かせ」
細川が呆れたように言う。
「わ、わかってるよ」
丸山は急いで資料をまとめ始めた。
着々と大雅を逮捕する準備が整いつつあった。
※※※※※※※※※※※
「先生」
早絵が病室の前で椅子に座って俯いている月影先生を見つけた。
四人が駆け寄ると、先生は疲れたような弱々しい笑顔を見せて言った。
「ああ、おかえりなさい。二人は検査大丈夫だった?」
悠希と早絵の方に目を向ける。
二人は笑顔で頷いた。
「そう。良かったわ」
そしてようやく本物に近い笑顔を浮かべた。
「何で病室に入らないでこんな廊下にいらっしゃるんですか?」
悠希が尋ねた。
「何かあったんですか?」
茜も心配そうに言う。
「ちょっとね、なかなか陰陽寺との話が進まなくて」
「あいつ、何て言ってるんすか?」
続けざまに龍斗が尋ねる。
「もう、過去の話はしたくないって。気持ちは分からなくもないんだけどね……」
「でも警察も動いてるんじゃ」
早絵が言うと、月影先生は重く頷いた。
「ええ。そうよ。だから早く本当のことを知りたいのに」
顔を手で覆って言った。
「私が強く言えないせいで」
震える先生の肩を早絵が優しく撫でる。
病室の廊下に暗く重い雰囲気が漂っていた。




