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破壊者の告白(前編)

 月影(つきかげ)先生の言葉に、龍斗(りゅうと)(あかね)も驚いてパッと顔を上げた。

 ついに先生が気づいてしまった。

 龍斗たちが先に握っていた情報を、先生も握ってしまった。

 月影先生は真剣な表情で大雅たいがを見つめ続けている。

 大雅はずっと俯いていたが、やがて顔を上げて、


「はい」


 と返事をした。


「何でこんなことしたの?」


 月影先生は資料を持ち上げて大雅に見せながら尋ねた。


「それは……」


 大雅は言葉を濁しまま俯いた。

 学校を燃やす前、悠希ゆうきと早絵に話したことをここでも言わなければならない。

 それは当たり前のことなのだが、自分の過去を話しているとどうしても周りの人間に対する憎悪が再び沸き起こってしまう。

 それでも龍斗たちは自分の話を聞いてくれるだろうか。

 側から見たら理不尽な理由でも耳を貸してくれるだろうか。

 そんなことが大雅の頭の中でグルグルと回っていた。


「どうして?」


 月影先生がまた尋ねた。

 依然として真剣な表情は変わっていない。

 まるで犯人に自白させる警察官のように厳しいまなざしを大雅に向ける。


「マッチが、すごくかっこよく見えて」


 大雅は声を絞り出すように話し始めた。

 最初にマッチという言葉を聞いても、月影先生は黙ったまま大雅が話すのを聞いていた。


「幼稚園の頃でした。たまたまつけたマッチの火がすごくかっこよく見えたんです。それで、当時山奥にあった父と母の別荘を燃やしてしまって」


 俯いていても目の前に立っている三人が動揺したのは感じ取れる。


(言わなきゃ、ダメなんだ……!)


 大雅は拳を強く握りしめて次の言葉を発した。


「も、勿論すごく怒られました。普通だったらそこで反省の気持ちが出てくるらしいんですけどなぜか僕には出てこなくて。代わりにマッチってすごい、火ってすごい、かっこいいなっていう気持ちがずっと渦巻いてたんです」


(何でだ……? 何でこんなに苦しいんだ? 早乙女さおとめたちに話してる時はそんなことなかったのに!)


 大雅はズキズキと痛む胸を我慢しながら続ける。


「小学生になって初めて火を好きなのは自分だけだって知りました。当然友達はできなくてずっと一人でした」


 まだ胸の痛みは消えない。

 それでも伝えないといけないのだ。


「それで周りが憎くなって。いっそのこと燃やしてやろうかって思ったんです」


「小学校を?」


 急に月影先生が口を開いた。

 大雅は俯いたままコクリと頷く。


「それが、この水の上小学校ね」


 先生は持っていた資料の中の全焼事件の犠牲となった学校一覧の中から、小学校の項目、その一番最初に記載されていた「水の上小学校」の文字を指差して言った。

 大雅はまたコクリと頷く。

 怖くて先生の顔は見れなかった。


「続けて」


 先生に促され、大雅は続きを話し始める。


「それで校舎を燃やして、先生や友達の……命を……」


 またズキンと大雅の胸が痛んだ。


(何なんだこの痛みは……!)


 胸を抑えると先生たちに気づかれてしまう。

 大雅は必死で何もせずに痛みを我慢するしかなかった。


「そのあとこの林田小学校に転校して、そこも燃やしたのね?」


 先生が大雅に尋ねた。

 大雅はまた頷く。


「ちょうどその頃は前の水の上小学校が燃やされたっていうニュースが毎日流れてたので憎い気持ちは止まりませんでしたけど、転校してすぐはやめました」


「そこでも周りの人が憎かったの?」


 そう尋ねたのは茜だ。

 大雅は一瞬だけ茜の方を見てまたすぐに俯き、続きを口にした。


「決め付けてた。こいつらも憎いヤツらだって。とにかく燃えてる火を見たくて。それも学校と同じ大きさくらいの特大の火」


「これまでの小学校とか中学校も全部その理由なの?」


 今度大雅に尋ねたのは月影先生だった。


「はい」


 大雅は小さな声で返事をした。


「……大体理由はわかったわ。じゃあうちの学校を燃やしたのもその、特大の火が見たいって理由かしら?」


 月影先生がため息混じりに尋ねた。

 大雅は大きく首を振った。

 実際、ここ最近は火への憧れがそこまで強くなかった。

 そのため、ここに入学した時もまた燃やしてやろうという気持ちは起きなかった。


「失礼な話ですけどここでも友達は出来ませんでした。そんな時にあいつが関わってきたんです」


「あいつ?」


「先生、早絵のことです」


「あいつ」というのが誰なのかわからない先生に龍斗が説明した。


「古橋? ……そうか、古橋は誰にでも優しいものね」


 そう言って少しだけ微笑みを見せる。

 その微笑みさえも申し訳なく思えて、大雅は上げていた顔をまた下ろした。


「誰も僕に近づこうとしなかったのに、あいつだけがしつこく僕に関わってきたんです」


「いいじゃん! 別に! それが早絵の優しさなの! 何でわからないの?」


 茜が怒りをぶつけた。

 早絵が刺された時の感情が一気に押し戻ってきたような感覚だった。


「茜、落ち着け」


 龍斗に諭され、茜は渋々黙る。


「僕はそれも憎いと感じてあいつが僕の家に宿題を持ってきた時に刺しました」


 大雅の言葉に、龍斗も月影先生も愕然とした。

 茜はショックのあまりその場に膝を折ってへたり込みそうになった。


「茜!」


 龍斗が気づき、慌てて茜を支える。


「西尾。岸を連れて一旦外に出なさい。ここからは二人で話をするわ」


「わかりました! ……行くぞ茜」


「……う、うん。ごめんね」


 龍斗と茜は病室から出て行った。

 ドアが閉まると、月影先生は再び真剣な表情に戻り大雅の方に向き直った。


「話の続き聞かせてくれる?」

続きは後編で!

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