光の射す方へ
救急車のサイレンが昼の街に響き渡る。
まだ車通りの多い道路を、二台の救急車が並んですごいスピードで走っていく。
同じくして道路を走っていた車は次、また次へと道の端に寄って救急車が通れるよう道を開けた。
※※※※※※※※※※※
処置室の前のベンチでは校長先生が暗い表情で俯いて座っていた。
昼なのもあって病院の電気をついておらず、寂しそうな雰囲気が醸し出されていた。
そんな校長先生の前を二台のストレッチャーが通り過ぎて行く。
あのストレッチャーに乗せられている人もきっと辛い思いをしたのだろう。
そんな考えが浮かんだ。
校長先生はそれを無言で眺めていた。
「校長!」
声が聞こえて校長先生が入り口の方を見ると、月影先生と龍斗、そして茜の三人が走ってきていた。
「お疲れ様」
そう、一言声をかける。
その言葉に頷き、月影先生は言った。
「古橋と陰陽寺も見つけました。奇跡的に二人ともまだ生きています。……あ、さっき運ばれていきました」
月影先生はストレッチャーが通り過ぎて行った方を指差した。
「そうか……。よかった」
校長先生は胸をなでおろした。
さっき目前を通り過ぎて行ったストレッチャーは早絵と大雅を乗せたものだったのだ。
「それで、早乙女は?」
月影先生に尋ねられ、校長先生はまた表情を暗くした。
「まだ、処置が終わってないみたいだ……。もうかれこれ20分は経ってるはずなんだがなぁ……」
そう言って左腕につけた腕時計を見る。
時計の針は1時30分を指していた。
「もうこんな時間……今まで朝だったのに」
月影先生は時間が進む早さに驚いた。
「西尾、岸、先に公民館に戻って昼ごはんを食べて来なさい。きっと弁当を用意してくださってるはずだ」
「え、でも、もう皆はほとんど家に送られたんじゃ……」
茜がそう言うと、先生は首を振った。
「いいえ、もうすでに陰陽寺も病院だし安全よ。学校が爆破されることはないわ。生徒たちを家に送るのも止めているはずだから残っている生徒も少なくはないわ」
「行くか? 茜」
先生の言葉を聞いて龍斗が茜に尋ねる。
三人のことが心配だが、せっかく弁当を用意してくださっているのだったら食べるのが礼儀だ。
それに月影先生の指示でもある。
でももし、自分たちがご飯を食べに行っている間に何かあれば、その場に立ち会うことができなくなってしまう。
茜は迷ってしばらく考えた末にこう提案した。
「あの……」
月影先生、校長も茜の方を向く。
「どうしたの?」
月影先生が聞いた。
「えっと、実は、相談、というか提案があるんですけど……」
「言ってみなさい、何だい?」
校長先生もそう言って茜の提案を聞いてくれる姿勢に入った。
龍斗は茜の横でポカンとしている。
「その弁当って、先生方の分もあるんですよね?」
最初に念のため聞いておく。
「もちろんよ」
月影先生が頷いた。
それを受けてさらに茜は続ける。
「私が公民館まで行ってみんなの分の弁当貰ってきます」
「ええっ!?」
急に龍斗が驚いて声をあげたために茜の方もびっくりしてしまった。
「こら、処置室なんだからそんなに声をあげないで」
ところが月影先生に注意されて、龍斗は申し訳なさそうに頭を下げる。
「続けて」
校長先生に促され、茜は頷いた。
「もし私たち二人が公民館に行ってる途中に悠希たちに何かあったら困るし……。絶対私たちのどっちかはここに残っておくべきだと思うんです。だから、私が全員分持ってきます」
「心配しなくても何もならないわよ」
「そうだぞ。今ちゃんと処置をしてもらっているからな」
月影先生と校長先生がそう声をかけるが、それでも茜は不安だった。
「お願いします! そうさせてください! じゃないと、私が不安で……」
頭を下げて必死に頼み込んだが、三人の反応が気になって思わず頭を上げてしまう。
目の前の三人はすごく困ったような顔をしていた。
月影先生と校長先生は互いに顔を見合わせて考え込んでいて、龍斗は心配そうに茜の方を見ていた。
ここは弁解しなければ!
そう思って茜はさらに言葉を紡いだ。
「あ、も、もちろん、自分勝手なのは重々承知してます。本当にごめんなさい」
もう一度頭を下げる。
「で、でも、私、すっごく不安で……」
自己中心的なことを言っているのはわかっている。
すごく自分勝手なことも、皆を困らせていることも。
茜は頭を上げて続けた。
「そうしないと、向こうで食べてても気が気でなくてそんなに食べられないと思うんです。それに、私早いので秒で帰ってこれます!」
そして三人の目を真っ直ぐ見据えて訴えた。
「お願いします! 行かせてください!」
※※※※※※※※※※
悠希がいる場所は、まだ霧がかかっていて何も見えない。
おまけに目の前には泣きじゃくって止まらない大雅が座り込んでいる。
「ったくもう……、こっちもこっちでややこしいな……」
悠希はそう一言ボソッと呟いた。
出口を探そうにも霧はまだ晴れないし、このまま泣いている大雅を置いてけぼりにするわけにもいかない。
「はぁ…。おい、陰陽寺、行くぞ」
ため息をついていつまでも泣いている大雅の肩に手を置こうとする。
だが……。
「えっ!?」
信じられない出来事が起こったのだ。
悠希の手が大雅の肩をすり抜けている。
まるで透明人間を触ろうとした時のように、大雅の肩に触れることができない。
「嘘だろ……!?」
何回も何回もやり直してみるが、一向に触ることができない。
膝を抱えて泣いている相手を立たせるには身体に触れるしか手段がないのに、こんな風になってしまっては一貫の終わりだ。
おまけに悠希の声は大雅には聞こえていないようだ。
声も聞こえない、身体にも触ることができないとなれば、悠希の存在を大雅に示すこともできない。
二人ぼっちでこのまま永遠にこんな所で過ごさなければならないのか。
「マジかよ……」
悠希はあまりにも残酷な未来に絶望した。
すると……。
「悠希!」
急に悠希を呼ぶ声がした。
声の高さからして女性ではない。
それに、悠希にはこの声に聞き覚えがあった。
「この声……龍斗か!?」
悠希はどこからともなく聞こえる龍斗と思われる声に向かって叫ぶ。
「悠希! 悠希!」
だがその声は永遠に悠希の名前を呼ぶだけで、こちらの返しには無反応だ。
何度も何度も名前を呼び続けている。
その声が悠希と大雅がいる空間にわんわんと響き渡っている。
「おい! 龍斗! どうしたんだよ!」
悠希はありったけの声を振り絞ってその呼びかけに答えるが、一向に反応がないままだった。
「何で俺の声は聞こえないんだよ……」
悠希はボソッと呟いた。
すると、目の前に眩しく光る白い光が見えた。
「うわっ!」
眩しく目を直撃してくる光に思わず目をつぶって避ける。
「悠希!」
また声がした。
よく聞いてみると、その声はあの光の方から聞こえてきているようだった。
あそこに行けばもしかしたら龍斗たちに会えるのかもしれない。
そんな希望が見えてきた。
「よし! あそこに行けば!」
悠希は意を決して走り出した。
なおも出口のような場所は眩しく光を放っているが、それに向かって進んでいくうちにその光も弱まっていく。
そのままさらに足に力を込めて地面を踏みしめ、悠希は走るスピードを上げていった。
さっきまでいた霧だらけの空間が徐々に遠ざかっていく。
そしてその中に人の姿はなかった____。




