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募る悔しさ

 森が爆破装置のスイッチを押した直後のこと。

 意外なことに、高校の校舎が炎に包まれることはなかった。

 しかしその代わりに爆破された場所に、日向(ひゅうが)未央(みお)佐々木(ささき)(りん)には心当たりがあった。

 それは自分達が次に行おうとしていた行動の場所であり、今助け出したい人物が居る場所でもある。


「「少年院!?」」


 二人の声が重なった。

 どうやら未央も凛も同じ推測をしていたようだった。

 森が自分達の計画を殆ど把握しているのなら、自分達が次に起こすはずの行動も見切っているはず。

 それを受けて考えてみると、校舎の代わりに爆破された場所は一つしかなかった。

 ____未央もかつて入院していた、少年院である。


「フハハハハハ! 正解だ!」


 広いグラウンド中に響き渡るほどの大きな声で森は笑い、二人の推測を肯定した。

 森の笑いを聞いて、凛が顔を青くする。


「早く行かなきゃ!」


 そして踵を返したように裏門の方に向かい、そこから少年院に赴こうとしていた。


「待って、凛!」


 しかし未央は彼女の手首を握って引き止めた。


「何で!?」


 振り返った凛の眉が今まで見た事のないくらいに寄っていた。

 こんなに必死な表情をしている凛など、森に殺されそうになって心の底からの恐怖を抱いた時以来である。

 悲痛な凛の叫びに、未央は落ち着いた声で答えた。


「今ここで少年院に向かったら、学校を守る人数が減っちゃう」


「でも……建物が爆発したんだよ!? 中に居る人達とか助けなきゃ……」


 確かに凛の言い分はもっともだ。

 計画が破綻した今、それを取り繕うとせめて中に居る人達の命だけでも守りたいと思うのが当然の心情である。

 未央だってそれは同じだった。

 本当なら一刻も早く少年院に向かって、少年院に入院している人達を助けたい。

 そこには、かつての仲が良かった友達や生意気で少し暗くて、未央の彼氏殺しを推理してきた後輩____陰陽寺(おんみょうじ)大雅(たいが)も居るのだから。

 しかしここはグッと堪えなければならない。

 何故なら____、


「少年院の人達は少年院の人達でちゃんと自分の身は守ってる。今、私や凜が行ったって邪魔なだけ。力になれないわ」


 首を横に振って、未央は自分達の力不足を断言する。


「未央……。____くっ!」


 凛はどうして分かってくれないのか、と言わんばかりの助けを求めるような顔で未央の名前を口にした。

 だが、凛にも自分達の無力さは分かったのだろう。

 悔しげに歯を食いしばって、凛は顎を引いた。


「分かった。本当はすごく気になるけど……今はここに残るよ」


 凛の出した決断に、未央は頬を緩めつつ答える。


「不安な気持ちは分かるわよ。私も一緒だもの」


 そう言って、未央は凛の肩をポンポンと叩いた。


「ありがと、未央」


 安心したように凛は微笑み、未央にお礼の言葉を述べた。

 そんな二人を見て笑みを浮かべたのは森である。

 しかし彼の笑顔は普通のものとは違った。

 眉を上げて未央と凛を嘲るような嫌味な笑みを浮かべていたのだ。


「あっれぇ~? 助けに行かねぇのか?」


 まるで本当に不思議がっているかのような素振りを見せて、森が二人に問いかける。

 未央はそんな森に怖じけることなく、ただ真っ直ぐ彼を見つめて言った。


「私達が行っても邪魔になるだけだもの」


 続けて凛も、腰に手を当てて森に向かって声をあげる。


「あたし達が全部森さんの思い通りに動くと思ったら大間違いですよ!」


 だが、そんなことを言っている凛も数分前まで少年院に向かおうと必死だった。

 そのため、


「動こうとしてた人が言うから説得力ないのよね」


 未央は腕を組んで凛をジト目で見つめる。


「うっ、ごめんなさい……」


 冷や汗をかいて喉を詰まらせながら、凛は顔を引きつらせる。

 しかし未央としては凛が少年院に向かわずに高校に一緒に残ってくれただけで嬉しいのだ。

 凛に非の打ち所はない。

 未央は冷めた目を細めて、再び森に真剣な視線を送った。


「まぁ、良いわ。戦闘再開よ!」


 凛も楽しそうな笑みを浮かべながら拳を握りしめて戦闘体勢に入る。

 森は改めて自分に牙を剥いてきた少女達を見つめて悔し紛れに舌を鳴らした。


「チッ! そう都合良くはいかねぇか。仕方ねぇ。相手してやるよ」


 少年院を爆破したと聞けば、少年院に入院している者達を救うため、すぐに高校から離れてくれる。

 森はそう踏んでいたのだが、実際は簡単にはいかなかった。

 それに、森は別に少年院の爆破を告げるのが未央と凛相手でなくても良かったのだ。

 それを聞いた敵が自分の視界から消えてくれれば、後は残った敵を潰せば良い。

 そうして初めて森の敵は居なくなったと言えるのだ。

 たとえ相手が学生であっても、森は油断もしないし見くびりもしない。

 少年院の爆破に関しては少々予想と違ったが、それは別に森が未央達を見くびったからではない。

 単に、森の読みが間違っていただけのことである。

 自分の読み通りに行動しないのなら、最初の目的をそのまま実行し続ければ良い。

 そう結論付けて、森は再び未央と凛相手に拳を交えることに決めたのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※


 その頃、未央と凛にその場を任せた月影(つきかげ)先生は、保健室に居た。

 白いベッドに横たわっているのは、左腕を銃弾が掠めて負傷した早乙女(さおとめ)悠希(ゆうき)

 そして森と直接拳を交えてボロボロになった西尾(にしお)龍斗(りゅうと)である。

 未だに二人は眠ったままで意識は戻らない。

 月影先生は二つのベッドの間に置いた椅子に座って、暗い表情で床の一点を見つめていた。


 ____見つめて、自分の失態を悔いていた。


 あそこで自分が森に反抗をしなければ、悠希と龍斗を巻き込むこともなかったのだから。

 何より高校を危険にさらしてしまったことが、彼女にとって大きな悔いだった。

 彼女が自分の高校を守るために『内通者』を勝手でなければ、こんなことにはならなかったのだ。

 暗闇の中で、自分の耳元で、そっと囁いてきた森を思い出す。


『お前の職場を壊してお前の生徒の命を奪われたくなかったら、早乙女悠希っつーガキ等が企てている作戦を俺に話してくれ』


 そう、森は言ったのだ。

 言う通りにしてくれたら、彼女の大切なものには一切手を下さない、と。

 それなのに……。


 月影先生は悔しげに歯を食いしばった。

 森は彼女を欺いて学校に奇襲を仕掛けてきた。

 そしておまけに悠希達にも手を出してきた。

 何のために約束を交わしたのか。

 その意味が無いではないかと、自分は完全に良いように利用されて騙されたのだと。

 自分に対する悔しさが募るばかりだった。

 月影先生が太ももに置いた拳を強く握り締めた時だった。


「____ぁ」


 蚊の鳴くような声がして、月影先生がハッと顔を上げると、悠希が細々と目を開けていた。

 意識が戻ったのである。


「気が付いた?」


 頭の下に枕を敷いた悠希の顔を覗き込みながら、月影先生は先程の悔しげな顔を一変させて頬を緩めたのだった。

170話目突入!いつもありがとうございます!

そして総合ユニーク4600人突破しておりました!

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