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説得困難 早絵の想い

「____ってわけなんだけど……」


「ダメ!」


 早絵(さえ)に強気の口調で言われて、悠希(ゆうき)はしょぼんと肩を落とした。


 場所は教室。時間は昼休み。

 龍斗(りゅうと)(あかね)の覚悟をひしひしと感じた翌日のことである。


 昨日、悠希は龍斗と茜の本気の覚悟を目の当たりにして、危険な賭けだが二人のことも信用して頼ってみようと思うことが出来たのだ。

 そして、いよいよ悠希にとっての試練が始まろうとしていた。

 まだ春休みに入るまでには時間があるし、森達地下組織との戦いな日も遠い。

 にもかかわらず何故、悠希にこのタイミングで試練が訪れるのか。

 それは、紛れもなく今悠希の目の前にいる一人の少女を説得するためだった。


「なぁ、頼むよ早絵。俺達が止めないとダメなんだよ」


「別に警察に頼めばそんな組織ちょちょいのちょいだよ」


 悠希の言い訳を軽くはね返してしまう早絵。

 あまりにも悠希が執拗に協力を要請してくるため、早絵の機嫌は悪そうだ。


「どうしても俺がこの手で森達を倒したいんだよ。龍斗をボコボコにして閉じ込めて、おまけに母さんと黒川さんまで閉じ込めて。そんな奴許せると思うか?」


「悠希くんの気持ちは分かるよ? 私だって家族がそんな目に遭わされたら自分の命賭けてでも敵討ちたいって思うもん」


「じゃあ……」


 一瞬にして輝いた悠希の表情。

 だが、次に発せられた早絵の言葉によって、その表情が再び陰ることになる。


「でもだからって駄目! 危険過ぎるよ! 私達まだ高校生だよ?」


 声を荒げて否定し、早絵は危険を主張する。

 だが、それに対して悠希はいとも簡単に納得の意を示した。


「知ってるぞ?」


 当然のように頷く悠希にため息をつき、早絵はもう一押しと言葉を紡ぐ。

 早絵も何とかして悠希を思い止まらせようと必死なのだ。


陰陽寺(おんみょうじ)くんの時は何とか行けたけど、相手は大人だし何人もいるし。絶対負けちゃうよ。それに……死んじゃったら何もならないよ」


 不意に早絵の目に涙が滲む。

 悠希は早絵を見てハッと目を見張った。


 彼女自身、陰陽寺(おんみょうじ)大雅(たいが)に刺されたり、その後学校に向かったために悠希と共に体育館で炎の海に飲み込まれそうになったり、これまでにたくさんの死の崖っぷちを経験してきた。

 だからこそ分かるのだ。命の大切さや重さが。


 こんなことになることが予想できていたから、悠希は皆に内緒で森達とぶつかろうと思っていたのだ。

 それなのに自分の癖のせいで茜に嘘をついていることがバレてしまったせいで、予定とは大きく外れた展開になってしまった。

 全ては悠希の落ち度が原因なのだが。

 それでも悠希は言葉を紡ぐ。

 口を開き、顎を引いて。


「確かに死んだらそれで終わりだ。それはちゃんと分かってる」


「じゃあ何で諦めてくれないの?」


 早絵の潤んだ瞳が悠希を見つめる。


「森が、どうしても許せないからだ」


 もう一度、悠希は早絵を見据えて答えた。


「悠希くん……」


 早絵の声が震えている。

 しかしワナワナと震えているのは唇や声だけではない。

 彼女の瞳も同じだけ、涙を浮かべて震えていた。


 早絵、と悠希は名前を呼ぼうとして思いとどまる。

 彼女の目から一筋の涙が零れたのだ。


「こんなこと言ったらわがままかもしれない。でも、私は嫌なの。これ以上誰かが傷付くのを見るのも、危険に飛び込んでいくのを見るのも」


「さ、早絵、泣くなよ。俺は大丈夫だからさ」


 悠希が慌ててそう言っても、早絵は泣きながら首を横に振るばかり。


「え!? 早絵ちゃん泣いてるじゃん!」


「本当だ! 大丈夫? 西尾、あんたが泣かしたんでしょ!」


 いつの間にかもうすぐ昼休みが終わる時間になっていたのだろう、弁当箱を手に自分達の席に戻ろうとしていた女子生徒二人が、泣いている早絵を見て驚きの声をあげた。


 そして何故か龍斗のせいにされてしまい、龍斗が慌てて反論する。


「は? 何言ってんだよ! 俺じゃねぇし!」


「絶対西尾でしょ! 謝りなよ!」


「だから違うって言ってんだろ! 何で俺なんだよ……」


 龍斗は突然振りかかってきた災難に頭を抱えた。


「何かあったの?」


 女子生徒の一人が尋ねてきた。


「う、ううん、大丈夫。何でもないの」


 早絵は急いで目尻を拭って笑顔を見せた。


「本当に? よっぽどのことじゃないと泣かないと思うけど」


「そんなに西尾に嫌なこと言われたの?」


「だから何で俺なんだよ!」


 龍斗が自身を指差して声をあげた。


「龍斗くんは悪くないよ。本当に何でもないから気にしないで」


 早絵本人の説得に、女子生徒二人は『ふーん』と言ってそれ以上龍斗をなじることはしなかった。


「何の話してたの? 早絵ちゃん」


 龍斗へのなじりを止めたかと思うと、今度は話の内容について尋ねてくる女子生徒達。


「ううん、何でもないよ。ちょっと私……弁当に嫌いなものが入ってて、我慢して食べたら涙が出ちゃっただけなの。だから龍斗くんに何か言われたとか、話の内容が原因じゃないから心配しないで」


 早絵が瞳をクルクルと動かして苦し紛れの言い訳を放つ。

 龍斗に濡れ衣を着せられても、話の内容について知られても困るため、どちらからも程遠い理由を言ったのである。


「そう? 本当に?」


「西尾に遠慮しなくて良いんだよ?」


 それでも女子生徒二人は追及を止めない。

 心配そうな顔で何度も尋ねてくる。


「本当に。本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう」


 いつものような笑顔で早絵はニコリと笑った。


「そ、そう? なら良いけど」


「行こっか」


「うん」


 そう言って女子生徒二人は悠希達から離れていった。


「心配性だね、あの二人」


 食事を取り終わった後で眠くなったのか、大きな口を開けてあくびをする茜。


「そうだね。心配してくれるのは嬉しいことだけど」


 早絵が茜のあくびに軽く吹き出しながら言う。


「ていうか、根拠も無しに俺のこと犯人扱いすんなよな」


 悠希達に背を向けて去っていく女子生徒二人を見ながら、龍斗が不満そうに文句を垂れた。


 だが、悠希だけは少し嫌な予感がしていた。

 今まであの二人と早絵が仲良さそうにしているのは見たことがない。

 にもかかわらず、彼女達は急に早絵を心配してきたのだ。

 しかも、悠希達が森率いる地下組織について話している最中に、だ。


(まさか、な……)


 ある可能性が悠希の頭を巡ったが、すぐに首を振ってその考えを振り切る。

 あの二人の乱入によって直接的に早絵から承諾を得ることは出来なかったが、森達と戦うタイミングを早めなければいけない。

 悠希は彼女達の背中を見つめながらそう思っていた。

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