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新たな動き

「森さん」


 薄暗く青白い光に包まれた部屋の中で若い男の声がした。


「何だ?」


 彼に呼ばれた男、森は尋ね返す。

 だが決してその声色は明るいものではない。

 むしろ機嫌を損ねているような声の高さだった。


和泉(いずみ)さんはまだ黙秘し続けてるらしいです。警察もお手上げ状態です」


 若干しわがれた声の男が警察署内の様子を森に伝えた。


「そうか」


 森が納得した直後、矢継ぎ早に次の男が声を発する。


「病院の方は賑やかでした」


「賑やか? どういうことだ」


 聞き返した森に、男は詳しく説明をする。

 この男は先程の男と違って若者らしい透き通った声だった。

 だがそれ以上にかなり弱気であることが震えるような声色から推測できる。


日向未央(ひゅうがみお)佐々木凛(ささきりん)、それから入院患者の和泉麗華(いずみれいか)の他にも子供がいました。しかも四、五人くらい」


「そいつらは何者だ」


「わ、分かりません。ですが、だいぶ親しげな様子で話していました。五人の方はすぐに帰ってましたが」


「分かった。下がれ」


「はっ!」


 場所は森が代表を務める地下組織の基地、そのとある一室である。

 既に日が落ちているにも関わらず、その部屋の電気は付いていない。

 窓の外から差し込む光が部屋の一部や男達の肌を青白く照らしていた。


「和泉が足止めしてくれてんなら俺たちも早く動いた方がいいな」


 森はそう独りごちると、自分の椅子の下で膝をつく男達に向かって言った。


「これより作戦を実行する。ただし動くのは明日からだ。今日は各自流れをしっかり頭に叩き込んどいてくれ」


 森の指示に男達の返事が重なった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 一方、中での様子が筒抜けだった警察署内では二人の刑事がいそいそと動いていた。

 署長からの許可も下り、本格的に地下組織の監視をすることが決まったのだ。

 勿論、直接許可を取りにいったため、地下組織の監視を任されたのはその刑事二人のみ。

 その他大勢の刑事はそのような捜査があることさえ知らされていない。

 まさに極秘の捜査である。


「良かったですね、先輩」


 やる気に満ち溢れた青年刑事、黒川翔(くろかわかける)は過去の組織関連の書類をたくさんの段ボールの中から探し当てていた。

 現在取り調べを行っている黙秘権行使男、和泉(いずみ)に文句を言って、取り調べのやる気を無くしていた時とは大違いだ。


「そうね。これで思う存分捜査ができるわ」


 頷き、同じように手を動かす女性刑事、早乙女千里(さおとめちさと)の顔にも血の色、もとい明るさが戻っていた。


「でも本当に僕たちだけで大丈夫なんですか? 僕、まだ新米ですし先輩に色々とご迷惑かけちゃうかもしれないですよ」


「じゃあ先輩にご迷惑かけないように頑張ってくれる?」


 多少、上から目線な言い方だが、千里としては黒川の言葉をそのまま引用したまでだ。

 偉そうに言ったつもりなど毛頭無い。

 むしろここ最近頑張っている黒川に対する信頼の気持ちが込められた言葉だった。


「あ、はい!」


 それは本人にも伝わったのであろう、背筋を伸ばして返事をする黒川に、


「あんたなら大丈夫よ。自信持ちなさい」


 千里は先輩らしく優しく微笑んだ。



「まず、監視時間なんですけど」


 過去の資料などに全て目を通した後は、現在の地下組織に関するミニ会議である。


「そうね。どうしようかしら」


 黒川の言葉に千里が考え込む。

 会議は予想外にも一発目で行き詰まっていた。

 何故なら、森率いるこの地下組織が犯罪行為を行ったり迷惑行為を行ったりした記録自体が一切無いからだ。

 つまり行動時間やパターンなどを予測できず、いつ、どこで何をするか分からないというのが大きな問題点。

 突破すべき関門はまずここだった。


「普通なら行動パターンが防犯カメラとかから割り出せて、それを元に監視するタイミングを決めるんだけど、今回の場合は何も土台が無いからね」


 何もないところから推測し、行動を見るというのは限りなく不可能に近い。

 いくら警察であるとは言え、24時間ぴったり居座って監視するということも出来かねない。

 警察が監視していることが近隣住民に知られ、それが運悪く組織のメンバー、もしくは森本人の耳に入ってしまえば、拠点を移されて捜査は白紙に戻る。

 森達地下組織の居場所を一から特定しなければならない羽目になってしまうのだ。

 千里と黒川にとってもそれは最も避けたい事態。

 これを防ぐための対策も練りつつ、同時に必ず抱いているであろう組織の陰謀を暴く必要がある。

 だがこうも悩んでいられない。

 向こう側に先に行動を起こされては監視よりも先に追跡などに移らなければならないことになってしまう。


「とりあえず一日のうち三回に決めよう。早朝と昼頃と夕方。これで大体の行動パターンと組織について知り倒すの」


 千里がそう提案した。

 極め付けは早朝と夕方。

 一日の始まりと終わりでは何かしらの動きがあるはずだと睨んだのだ。


「了解です。じゃあ朝七時から八時、昼十二時から一時、夕方の五時から六時でどうでしょう」


 黒川の具体的な時間の提案を了承し、千里は手帳に書き留めていく。

 これでひとまず監視時間については決定した。


「早速だけど明日から決行ね」


 千里の言葉に黒川は大きく頷いた。


 二人の組織到達までの道のりはまだ始まったばかりである。

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