必死の警告
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「そうか」
基地を出た後、未央と凛は新米刑事の黒川に全てを話した。
場所は未央の自宅のリビング。一人暮らし用の小さく狭いアパートで三人収まるのが限度と言ったところであろう。
そんなキツキツの場所に、女子高生二人と向かい合う形で黒川は腰を据えていた。
そして二人から今までの出来事を全て伝えられて、あまりの衝撃的事実に唸ることしか出来なかったという状態である。
「まぁ、細かいことはともかく、凛ちゃんに何もなくて本当に良かったよ」
佇まいを正してから黒川はそう言った。
「すみません。何か余計なことに巻き込んじゃって。元々はあたしが機密情報を聞いちゃったのが悪いのに」
凛が黒川に向かって頭を下げると、黒川は手を振って応えた。
「ううん、気にしないで。たまたま聞いちゃったんだし、それに終わったことは仕方ないよ」
「それで、その、森さんのことなんですけど」
おずおずと口を開いた未央に、先程までの鬼のような剣幕は見受けられない。凛の横で大人しく正座する彼女は、膝に置いた拳を見つめて言った。
「私が生意気な口叩いちゃったからきっと怒ってると思うんです。仕返しに私たちを襲いに来る、なんてこと無いですよね?」
不安そうに黒川を上目遣いで見つめる未央から視線を逸らし、黒川は顎に指を当てて、
「うーん、それは森さん自身にしか分からないけど……。大丈夫。万が一のことも考えて僕が毎日君たちの様子見に来るよ」
「良いんですか?」
尋ね返したのは凛だった。黒川の言葉に安心したのか、その微笑みに不安の影はない。
「もし森さんが二人に手を出すってことがあれば、暴行罪で現行犯逮捕出来るしね」
警察の制服に身を包んだ黒川は、ポケットから手錠を取り出して宙に掲げてみせた。
「おぉ〜!」
その姿に凛が目を輝かせながら拍手喝采。
嬉しそうに照れて頬を掻く黒川をじと目で見ながら未央はホッと胸を撫で下ろした。
たとえ刑事としては新米であっても、何の経験や実績もないど素人よりは黒川の方がよっぽど頼りになるのは間違いない。
すると突然、凛の小型スマホに着信が入った。
「あっ、これ返すの忘れてた!」
凛はポケットに入れたまま持ってきてしまった小型スマホを手に焦った様子で言った。
この小型スマホは、数日前に組織代表である森が本格的な組織全体での野外活動に先立ってメンバー全員に手渡した物だった。
あの日は凛を狙った銃撃から逃げるために途中でシュミレーションを中断したので、結局三人ともこの小型スマホの効果を体験することは出来ずじまいでいたのだ。
「どうしよう、森さんに怒られる要素が増えちゃった」
涙を流して悲しむ凛の背中をさすって宥めつつ、未央は着信が鳴り続ける小型スマホを指差して、
「とりあえず電話出たらどう? 和泉さんからみたいだし」
「えっ? あ、うん」
凛は涙と一緒に出た鼻水をじゅるっと吸い上げてから電話に出るボタンをタップした。
「もしもし」
通話が切れ、凛は電話に応答する。
「こんばんは。和泉麗華です」
「あ、麗華ちゃん?」
電話をかけてきたのは、表示されていた名前の主の娘だった。
「麗華ちゃんって?」
驚く凛の横で黒川がそっと未央に耳打ちする。
「私たちが泉ちゃんって呼んでた女の子です。本当の名前は和泉麗華。初対面の時に苗字で名乗ったのを私たちが勝手に勘違いしてたみたいで」
「へぇ、そうだったんだ」
黒川も少々驚きつつ、納得の意を示して会話は終了。
二人とも凛の通話に耳を傾ける。
「どうしたの? こんなに遅くに」
凛が尋ねると、
『夜分に申し訳ありません。少しお話がしたくて。今は父の端末を借りています』
電話口から、麗華の小さな声が聞こえてきた。
「そうなんだ。あたしで良ければ何でも聞くよ」
相談事だと解釈した凛は、笑顔で応対。
正座していた足をくずしてリラックスモードだ。
「ありがとうございます」
凛の言葉にお礼を言って、麗華は続けた。
「組織を脱退されたというのは本当ですか?」
「あ、うん。ごめんね、何も言わないで勝手に抜けちゃって。ちょっと色々あって」
凛は申し訳なさそうに謝罪する。
「いえ、大丈夫です。あくまでも確認ですから。それに、おおよその推測は出来てます」
「え? どういうこと?」
麗華は突如声をひそめ、トーンも落として静かに言った。
「いいですか、凛さん。落ち着いて聞いてください。バレると厄介なので手短に言います」
「うん」
麗華の後半の言葉に若干の違和感を覚えつつも、凛は真剣な表情で頷く。
電話越しに会話を聞いていた未央と黒川も何事だろうかと顔を見合わせた。
「森さんがものすごく怒ってます。それで、元々の後始末に一人加えろと父に命令してました」
「後始末……?」
「恐怖感を煽るようなことを言いますが、おそらく機密情報を知ってしまった凛さんのことです。そして追加されたのはきっと未央さんです」
「あたしと未央が始末されるってこと……?」
凛の萎むような問いかけに未央と黒川はハッとする。そしてより真剣に麗華の言葉を聞こうと神経を集中させた。
「私も父が命令されるところしか聞いていないので確かなことは分かりませんが、間違ってないと思います。凛さんたちもご覧になった通り、組織の人数は多いです。仮に組織全体で始末に取り掛かるとすれば凛さんたちが見つかるのも時間の問題になってきます。必要以上の外出は控えてください。どこで誰が見ているか分かりませんから」
「う、うん」
「それから父に『会いたい』とか『話がしたい』と言われても言うこと聞かないでください。勿論私の言葉もこれ以降は信用しないでください。森さんか父に脅されてしょうがなく言っている可能性も否定できません」
「うん、分かった。ありがとう、麗華ちゃん」
「それでは失礼します。くれぐれも気を付けてくださいと未央さんにも伝えてください」
麗華はそう言って素早く電話を切った。
「決めた」
黒川が言葉を漏らした。
不思議そうに見つめる女子高生二人に微笑みかけ、
「僕もあの組織を抜ける。メンバーじゃなくなれば夜通し監視も出来るし、何かあればすぐ踏み込める。僕たちが組織に加入してたって事実は今は伏せて先輩にも相談するよ」




