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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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死霊のダンジョンへ出前です 3

 幸いなことにダンジョンボスの攻撃範囲内なので、後ろの魔物はまたしても通路で足止めされている。

 おかげで私は足を止めても無事でいられるんだけど。


「ソラ……」


 つぶやくように尋ねる。


「彼女は、私と同じ?」


 年は私よりも下だと思う。ドレスを着たら誰もが振り返るような令嬢に見えるだろう。

 そんな彼女が自分と同じ目に遭ったのか。

 胸苦しく感じた瞬間、ふいに自分の脳裏をよぎる記憶がある。


 剣で刺される痛み。

 たぶん、実験の時に刺されたのだと思う。あの魔力の渦に巻き込まれた時にも、そんな光景を見た。


 でものことを思い出すと、なぜか心が凪ぐ。

 誰かが落ち着かせようとしているみたいに、一人じゃない、大丈夫って、辛いことを分け合って和らげてくれた記憶も隅っこにあって。

 これが、精霊と融合している証なのかもしれない。

 そしてソラが返事をした。


「うん、君と近いようだね」


「やっぱり、精霊と融合させられた人なんだね」


 精霊との融合が上手くいかなかったのだろうか。だからこんなダンジョンで、魔物が復活するような魔術に利用されて置いて行かれたの?

 そして彼女の周りにいる、踊るような白い炎。それには顔があった。

 リアルなものではないけれど、炎の中にある動かない黒く塗りつぶしたような丸部分が目で、時折炎に穴が開くのが口だと思う。


「彼女の周りにいるのは精霊?」


「そうだよ。冥界の精霊だ」


 冥界と聞いてぞっとする。


「彼女は冥界の精霊と……融合させられそうになった、とか?」


 だからああして側から離れないのではないだろうか。


「少し違うかな。あの狂った冥界の精霊が、このダンジョンのボスになっているんだ」


「え? ここのダンジョンボスって、スペクターじゃないの?」


 複数の死霊が集まってできたという、恐怖心を煽る魔物。

 対戦時には《恐慌》という独自の技で、プレイヤーの行動を一時的に麻痺させる、ちょっとやっかいなボスだったはず。


 一度にダンジョンに入れる人数は8人制限なので、4人でアタックするよりは楽なボスだという話だった。初対面同士でぎくしゃくしながら戦った上、麻痺で動けない人間が多発するとボスにやられてしまうから。

 ……まぁ、私は戦っていないけど。


 そもそもこのダンジョン、いわゆる始めてのパーティー戦をする場所でもある。もちろん友達がいなくても、オートマッチングシステムがあるので一人で遊んでいても来られる場所だ。

 そのボスが変わってしまっている。


「でもそっか。魔物が変化しているのに、ボスが変化していないわけがないか……」


 とにかくあれを何とかしなくてはならない。


「どうすればいいのかな。精霊さん達と一緒に戦って、あの精霊を倒せばいいの?」


 尋ねると、ソラがあっけらかんと言う。


「戦闘は必須だけど、あの精霊に飲ませなきゃだめだよ?」


「え?」


「お茶は、あの精霊に飲ませるんだ」


「ご無体な!」


 とんでもない無茶振りきた! 口っぽいのはあるけど、どうやって飲ませるの!?


「まずあの精霊を止めなくちゃね。そこは『プレイヤー役』に任せよう」


 そしてソラが指をパチリと鳴らすと、精霊達が女性と精霊に向かって飛び出していく。

 一抱えある人形ほどの大きさの冥界の精霊三体は、プレイヤー役精霊に立ち向かうように並ぶ。

 精霊達は一斉に小さな剣を光らせ、冥界の精霊三体と普通に戦い始める。

 ということは、HPを削ったところでお茶を飲ませるのかな?


「いや、どうやって?」


 あの炎型の精霊が、お茶を飲みたがるものなのだろうか。


「大丈夫だよ、ユラ。彼らは、お茶に込められた君の魔力をあてにしてくるから」


「魔力、あ……」


 結局それなのだ、と私は思い出す。

 お茶にかかった魔法は私の魔力によるもの。たとえ精霊が煙玉を投げつけて変化したように見えても、それによって私の魔力が固定されるとか、そういう感じなのではないだろうか?

 その上、今持っている紅茶にはソラに言われて約1万のMPを込めている。数字で考えると、なんか微妙な気分になるけど。


「むしろ飲んだ後が問題だよ。とりあえずお茶の用意をしたらどうかな?」


 精霊達は順調にHPを削っているようだ。

 あんなにちっちゃくて可愛いのに、強い強い。

 しかも鳥姿と炎姿が戦っているせいで、なんだか熾烈な戦いという感じが一切しない。

 おかげで私も落ち着いて行動できた。


 さっそくお茶をカップに注ぐことにする。

 水筒の蓋の部分になっているカップを外し、ネジを回す形の入り口を開ける。

 魔力を込めた成果なのだろうか、ほとんど冷めていない。湯気がふわりと立って、香ばしさの中に甘さがある紅茶独特の香りが広がった。


 水筒のコップに注いで、私はそっと地面の上にお茶を置く。

 その頃には、冥界の精霊は大分小さくなっていた。

 さっきまでは一抱えのぬいぐるみ大だったのに、今は指を伸ばした手の大きさぐらいになっている。


 ソラに指示されて、私は魔物のいない壁際に退避。

 味方の精霊達も合図を受けたように一斉にこちらに逃げて来る。

 そして小さくなった冥界の精霊は、ふわりふわりと移動して、水たまりに集まるスズメみたいにカップの側に集まった。


 ……ちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。


 その間も、金の髪の女性はぼんやりと同じ場所に立っていた。

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