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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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そしてあなたには心安らぐお茶を 2

「……はい」


 せっかく椅子を引いてくれたので座ったものの、私の頭の中は?で一杯だ。団長様の行動は、まるでお酒に酔った人のようでもある。

 どうして? お茶を飲ませただけなのに。

 リラックス効果でこんな風になるって、団長様ってよほど普段は自分を抑圧でもしているんだろうか?


 いやいや。別に暴れているわけでもないし。そこまで言うほど豹変しているとは言えない。

 もう考えてもしかたない。私もお茶の効果をしっかり受けて、同じようになれば気にならないはず!


 というわけでぐいっと飲んだ。

 お茶が喉を通って胃に落ちていく。

 ふわりと広がる温かさに吐息が漏れる。まだ夜は涼しすぎるから、温かいお茶がとてもしっくりとくる。


 そして私も、団長様の態度の変化を「ま、いっか」と思えて来たし、リラックス効果のせいなのか、隣に座っていても落ち着いた気持ちになれた。そうそう慌てる方が変なんだよ。

 その隣で、団長様はもう半分以上お茶を飲んでしまっていた。


「お代わりありますよ。あとヘルガさん達からいただいたお菓子も」


「菓子はあまり好きではないな」


「あ、ですよね。甘いの苦手でしょう団長様」


「よくわかったな」


「男性は基本的に甘いの苦手じゃないですか。あと、甘そうな香りのお茶の時に少しだけ表情固まるんですよね」


「……よく見ているな」


 今までで一番、団長様と沢山ささいなことを話しているような気がする。でもそれがとても楽しい。


「だってせっかく作ったなら、おいしいって言ってほしいじゃないですか」


 精霊のお茶は効果を追及したから、まぁ飲めなくはないなって感じになったけれど。あれだって、甘みを抑えて紅茶の味の方が強く出る様にして冷やせば、いい感じのティーソーダになると思う。

 精霊達にばら撒く時にはそうしようと思っているし。

 そんな普通のことを言ったのに、団長様がちょっと驚いたような表情になった後、


「そうだな……」


 と何か実感がこもったかのような口調で同意してくれた。


「そういえば団長様って、最初から私のお茶のこと疑いもなく飲みましたよね? どうしてですか?」


 今なら何でもしゃべってくれそうな気がして、不思議に思っていたことを聞く。すると団長様が「ああそうだな」と答えてくれる。


「私にとって危険なものであれば、精霊は止めるからだ」


 団長様の視線の先、カップを持っていた手に、いつの間にか現れていた精霊がくっついていた。

 何の精霊なのか全くわからないのは、ゴブリン姿だからだ。あ、でも青っぽい色の衣装だから水かな?


「ほら、茶の効能を言ってみろ」


 団長様が指先でゴブリン姿の精霊をつつく。

 やーんというように指から逃げた後、精霊は団長様の腕に飛びついてしまう。いじられても、嫌いじゃないから離れたくないのかな。

 精霊の行動にきゅんとくる。


「かわいい……」


 思わずつぶやいてしまうと、団長様に笑われた。


「最初はあれだけ怖がっていたのにな。魔物だと言っていたじゃないか」


「こんな姿の精霊がいるだなんて思いませんでしたし。それに私の紅茶、いつも魔法をかけてくれてるらしいのがゴブリン姿の精霊ばっかりなんですよね。それで愛着が……」


 にしても、なんでかれらばかりが私の魔法に手を貸してくれるんだろう。


「ねぇどうして?」


 団長様の腕にしがみついた精霊に尋ねても、返事はくれない。画面を出しても表示されない。


《水の精霊はあたたかく見守っている》


 なんて言葉が出て来るだけだった。

 すると団長様に言われる。


「お前は精霊が好きなんだな」


「はい、好きです。団長様も精霊が大好きですよね?」


「そうだな……だから、精霊を殺さないで済むならその方がいい。私にはそれができないからな……」


 そう言われて、私は思い出す。

 精霊を消したくなかったと言っていた、団長様の言葉を。でもあれも、なんだか変だなと思っていたのだ。


「団長様ならどんな精霊も助けられるんじゃないですか? なんだかすごく色々なことができますし」


 精霊を閉じ込める魔法とか、私はそんなものがあることすら知らなかった。さすが教会に特別扱いされる人なんだなと思ったものだ。

 けれど団長様は少しうつむく。


「殺す以外のことはできない」


「え?」


「精霊を生かす力ではないんだ。そういう方向に特化された能力だ。だから力を奪うことは得意だが、与えるのはとても苦手だ。精霊に関して何かがあっても、殺す以外の選択肢は私の手に余る。だから今回も、お前に頼んだんだ」


「あ……」


 確かにそうだと思った。

 強い力があるなら精霊を戻すことだってできるのが普通だと思う。けれど魔法のお茶が作れるようになったばかりの私が編み出すことになったのは、団長様にはそれができなかったからだ。


「殺すだけしか能がないからな。私だけだったら、今回のことも精霊をしらみつぶしに消していくことになっただろう」


 それは辛い作業だ、と思った。

 だって団長様は精霊のことがとても好きなんだから。

 私が何を言ったらいいのだろうと思ったその時、精霊がいつの間にか団長様の頭の上に飛び乗っているのが見えた。しかも撫でている。


「なんだかむずがゆいな。精霊か?」


「はい。精霊が……団長の頭を撫でてます」


 その様子を見て、私はちょっと目に涙が浮かびそうだった。精霊は団長様を慰めているんだとわかったから。仲間を殺してきたとわかっていても、それは彼のせいじゃないと言うみたいに。

 団長様は苦笑しながら、精霊を追い払おうとする。でも頭の上なんて見えないものだから、手が適当な場所をさまよう。


「それなら私が」


 精霊を摘まんでよけようと思ったので、手を伸ばす。その時体を伸ばしての態勢だったので、目算が狂って団長様の頭を撫でるような形になってしまった。

 精霊はぱっと消えてしまう。


「あ、すみません」


 成人男性の頭を撫でるなんて、ちょっと失礼だった。と思ったのだけど。

 団長様と私の手が触れた。

 しかもそのまま掴まれたので、いくら団長様が優しいとはいえ、なれなれしいことをされるのは嫌だったのかと思ったら。


 団長様は私の手を掴んだまま手を下ろした。


「嫌ではないので、謝らなくていい」


「はい……」


 握られたままの手が、あたたかい。

 じわりとそこから安心感が広がるような不思議な感覚と、団長様の手の感触に恥ずかしくなる気持ちとで、心が左右に揺さぶられているみたいだ。


「懐かしいと感じるのが、少し気恥ずかしい気がしただけで。嫌というわけではない」


「でもびっくりさせましたよね?」


 自分でもびっくりしたし、今手を握られたままのことにもびっくりしている。じわじわと驚きのせいなのか、お茶の効力が薄くなってきているような。

 おかげで恥ずかしさのゲージが上がってきて、まっすぐ団長様の顔が見られない。


「お前がすることで不快になったことはない。最初に拝まれた時からな。懐かしいとあの時に思ったせいかもしれない。私も祖母に育てられたクチだからな」


「お仲間でしたか」


「そういうことだ」


 団長様が視界の端でうなずくのが見えた。

 でもそれだけなら、どうして手を離さないんだろう。かといって、私も手を離して欲しいわけではなかった。

 なんだかとても離されたくないと思う。だから言えずにいたら、たぶん三分ぐらいはそのままだったと思う。団長様が口を開くまで。


「ユラ。精霊を元に戻すものが出来上がった以上、警戒線の周囲にばら撒けるだけの量が用意でき次第、実行することになる」


「たぶん、空からじょうろで撒けばいいと思うので、一樽分くらいを作れればいけるかと……」


「そうだな。私も精霊を集める術があるから、それと合わせれば一度で済むはずだ」


 団長様は手を離さないまま、ごく事務的なことを告げる。


「量産の目途がついたら知らせるように。いつまでこの茶が持つのかわからないだろうから、作ってすぐに出発した方がいいだろう。できれば午前中に用意し、午後には実行したい」


「はい」


 こんな状況で言うのは、団長様が私を子供みたいに心配しているからだろうか。それとも違う意味なんだろうか。


「お前の茶の魔法が、術者が離れても大丈夫なものかわからない以上、連れて行くことになる。ゴブリンが混乱の精霊に惑わされて全滅していた場合、他の魔物がいる可能性もある。前回巡回した時と同じようにフレイと行動させるが、一応不測の事態が起こることを心に留めておくように」


 そこまで言って、団長様の方からゆっくりと手を離した。

 ほっとしたような、寂しいような気持ちを抱えた私は、前も同じ気持ちになったなと思い出す。

 確か、団長様に頭を撫でられた時。

 思い出したら赤面しそうになった。


 そんな私に、団長様はさらに爆弾を落として行った。


「何があっても守る。それは覚えておけ、ユラ」


「…………!」


 夢うつつで聞いたのと同じ言葉を、今度はハッキリと口にした団長様は、少し笑って帰って行ったのだった。

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