お買い物へ行く前には尋問を
「具合が良くないって聞いたけど、平気そうだね」
ユラ係のフレイさんにまで、顔を合わせるなりそんなことを言われてしまった。
団長様……。心配して下さっているのはわかるんですが、こう、オルヴェ先生までにしていただけないでしょうか。説明に詰まるんです……。
でも悩んでいることを言うわけにもいかず、私は笑って誤魔化しながら「昨日は少し疲れていたので」と言うにとどめた。
だって森でゴブリンを討伐して、返ってきて教会へ行って、その後副団長さんのクエストクリア。
その後に魔力を引っこ抜かれたかと思ったら……だもの。疲れていたのは本当だ。
「そういえば、今日からハーラル副団長が団長と打ち合わせしてましてね」
フレイさんが言うと、オルヴェ先生が目を見開いた。
「急に気が変わったのか? 何かあったのか?」
「いや、団長が昨日話し合ったらしいってことは聞いたんですよ。それで誤解が解けたのだとは言うんですけど、何の誤解だったのか……」
私は余計なことを言わないように、フレイさんから視線をそらす。
その顛末については知っているけれど、団長様が説明していないのなら、言うべきではないだろうし。
「とにかくハーラル副団長が、森に精霊を追い払うために必要なものを取りに行ったみたいだ。だからユラ、他のものだけ揃えるといい」
「あ、わかりました」
そういえば森に採取に行かなくてはならないものがあったんだった。
ブドウに似たミリオルトの実。それなら私はカモミールと、他の精霊が元に戻ることができるようなお茶にするべく、思いつくものを買い込めばいいはず。
それにしても、無事にハーラル副団長さんが団長様ときちんと話せるようになって良かった。
ほこほことした気分で、私はフレイさんに連れられて外へ出た。
町へ行くのはわかっていたので、フレイさんは馬を用意してくれていた。
「今日もお世話になります」
と先にお礼を言い、先に乗ったフレイさんに引き上げられる形で前側に横乗りさせてもらった。
馬を歩かせ出してまもなく、私は思い出してフレイさんに相談した。
「そういえば乗馬の練習って、させてもらえるんでしょうか?」
「一人で乗りたくなったのかい?」
「いつも迷惑をかけていますし、町に行くくらいなら一人で出来ないと、いつも呼び出すのは申し訳なくて」
フレイさんだって、隊長さんとしての仕事があるはずだ。なのにちょくちょく私のお世話ばかりして、時間をとられてしまっている。それが無くなるだけで、フレイさんも楽だろうと思ったのだけど。
「俺は全く問題ないけどね?」
「え、でもお仕事ありますよね? 魔物を大量に倒す機会を失うのは、惜しくないんですか?」
戦闘狂の気があるらしいフレイさんなら、私のお買い物に付き合うよりも、ゴブリンなんかをばったばったと倒す方が楽しいに違いないと思って言ったのだけど。
「君もなかなか興味深い人だからね。同じくらい見ていて楽しいんだよ」
なんて言い出す。
「え、どういうことですか……」
ちょっとドキっとしたけど、これは絶対恋愛的な楽しいじゃないと思う。あれだけ戦闘前に楽しそうにしていたのだもの。絶対に手品とか見るような感じの気分に違いない!
そう確信していたら、フレイさんが肯定してくれた。
「ユラさんは想像がつかないことを次々するからね。見ていて飽きないよね。最初はただのかわいそうな被害者だったのに、魔法効果のあるお茶を作るようになったり、精霊が見えるようになったり」
フレイさんは話の途中で、くすくすと笑った。
「精霊がかわいくないと叫んだのには、思わず笑いそうになったけどね」
「あれは……でも、ゴブリンみたいな姿の精霊がいるとは思わなくて」
だから最初、新種の魔物かと思ったわけで。
「それどころか、副団長が気を変えたのにも、ユラさんが関わっているんだろう?」
「…………いえ、そんなことは」
「俺は見たんだけどね。副団長がオルヴェ先生のいる居住棟に入った後、団長までやってきたところを。オルヴェ先生を尋ねたにしても、二人は確実に中でかち合うはずだ」
見られていたらしい……。でもうなずきにくくて黙っていると、フレイさんはそのまま推測を話し続ける。
「そして今まで、団長が食後すぐの時間にオルヴェ先生に会いに行くこともなかった。とすれば、今までとは変わったことが起こったはず。オルヴェ先生でも副団長の頑なな態度は崩せなかった。他の要素と言えば最近やってきた君しかいない、ユラさん」
ちらりと横目で見れば、フレイさんが私を見て微笑んでいる。
これはダメだ。もう確信している顔だ。
「どうやって二人を会わせて副団長の気を変えさせたのかは気になるけど……。団長も教えてくれなかったことだからね。君から無理に聞き出して、団長に怒られたくないけれど」
そう言いながら、フレイさんが私の腰に左腕を回して引き寄せた。
「ひゃっ」
横向きの私は、あっさりとフレイさんの懐に肩をぶつけることになる。全く痛くはないのか、フレイさんはそのまま私にささやいた。
「なかなか面白いし、どうしても事情を聞き出したくなったら、二人きりになる必要があるだろう? 馬に乗せる時っていうのは、とても最適だと思わないかい?」
「ようするに私から話を聞き出すためには馬、私が馬に乗れない方が好都合だと?」
「察しが良くて嬉しいよ。あと、君が色々とやらかすのを見るには、側にいる必要があるだろう? 君が馬に乗れない間は、間違いなく俺は後ろをついて歩くことになるからね。楽しいことを見逃さずに済むと思うんだ」
そう言って笑うフレイさんは……、確かに、あの戦闘前にものすごく楽しそうにしていたのと同じ表情をしていた。
私、ヤバイ人に娯楽を提供してしまった……!?
怯える私に、フレイさんはさらにとんでもないことをささやいた。
「それに今一番興味深い女性が、君だしね」
「きょっ……!」
興味深い女性って、その言い方はものすごく誤解しそうですよ!? 思わずドキッとした私は、目を白黒させながら絶句する。
するとフレイさんはますます面白そうに笑ったのだった。
絶対これ、からかわれてる……。見せ物として興味深いとかそういう意味に違いない!




