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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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魔女という存在は

 標的は私だ!

 危険を感じて思わずしゃがみこんだ私の周囲で、盾の魔法と共にいた精霊達が大騒ぎして、その光をなんとか遮ってくれる。


「がんばれ!」


「光になんか負けるな!」


「闇、やみがほしいいいい」


「土ががんばる!」


 そうして光が消え去り、私を憎々し気に見つめるメイア嬢と視線が合った。


「魔女は二人もいてはいけない。あなたはもう、静かに眠るべきなのよユラ」


「ちょっ、死んだ扱いですか!?」


 思わずツッコミを入れてしまう。

 だけどメイア嬢はわけがわからないという表情をした。


「あなたは一度殺されたと聞いたわ。魂を精霊のものにするために。なのに人として普通に生活できるわけがないのよ。私のように、精霊の血を引いているのではないのだから」


 それとも、と彼女は一拍置いて首をかしげる。


「精霊が、体の記憶に左右されて人間だと勘違いしているの? リュシアン様の側にいようとしたり、フレイに懐いているのは精霊だからと思っていたけれど、恋をしていると勘違いしていたの?」


 メイア嬢の言葉に、私は血の気が引いた。彼女は、私を人だとすら思っていないの?


「精霊だと聞いたから、リュシアン様の側にいても仕方ないと思ったわ。精霊王の剣を持つ人だもの。リュシアン様もそのつもりでいるのだと考えたの。でも人のつもりだったのなら、不愉快だわ」


 衝撃を受けた私に、メイア嬢が何かの魔法を発動しようとしている。彼女の周囲に黒い球体のような精霊がいくつも現れ始めた。

 あれは冥界の精霊。


 冥界の精霊は、悪いものでも良いものでもない。

 ただ彼らは、冥界に属し、死と空間を越える存在。その知識が私にはあるのだけど。


「そうか……」


 魔女スキルに冥界の知識があるのって、まさか、一度殺されそうになったから?

 え、私本当に死……。


 その時、メイア嬢の周囲にあった黒い球体が切り裂かれた。

 精霊の悲鳴に耳を塞ぎそうになる中、メイア嬢に剣が突きつけられる。

 横にいたミタスの掲げた杖で、剣は止められたものの、その瞬間に発生した突風が吹きつけ、メイア嬢も私もよろめきながらなんとか耐えた。


 でもメイア嬢は剣の持ち主を見て、一歩退く。

 信じられないと言うように、美しい表情がゆがんでいる。


「リュシアン様」


 まっすぐに切っ先を向けている剣は、装飾用かと思うほど優美な、蔦が絡む意匠に宝石まではめ込まれた剣。

 持っている人間は、冷たい表情をした銀の髪の人だった。


 私も息をのむ。

 メイア嬢を攻撃したのは団長様だった。


「精霊は死を怖がらない。消滅することは、彼らにとって死ではないからだ」


 団長様がミタスの杖を払い、剣を掲げる。


「ユラは人だ。それは長く接している私だからこそ理解している。そして魔女の基準が精霊の魂を分け与えられることなら……お前は魔女ではないメイア・アルマディール。精霊を融合したわけではあるまい?」


「そんな。私だって、禁術を受けた身です! ただ私の魂は元から精霊に近いから、禁術に死を必要としなかっただけで!」


「魂が精霊に近いというならば、私に従うはずだ。私に敵対するな。精霊に近い者ならばそうせずにはいられないだろう」


 メイア嬢は口を半開きにしたまま、信じられないものを見るような目を団長様に向けていた。

 聞いていた私は、「あれ?」と思う。

 私そんなに団長様に従っていたっけ。するとそれを察した団長様が、私に言う。


「お前は根本的には、私に反抗したことなどない」


 そうかもしれない。納得した私の様子に、メイア嬢の瞳が揺らいだ。


「私……は……」


「できないのならば、お前は魔女ではない。魔力を受け取る器だけを広げられたのだろう。それでも十分に危険な術だったのだろうが。ユラのように、剣で胸を刺されたわけではあるまい?」


「刺されては……いませんが……」


 メイア嬢は困惑した表情になる。


「そんな重大な要素が違うのに、同じ術を受けたと思っていたのか?」


 団長様の言葉に、私は目を丸くした。


「え、私と同じ禁術を受けたわけじゃないの?」


 メイア嬢は、受けた術の様式がちょっと違うだけで、同じ術をほどこされたのだとばかり思っていた。

 だったらなおさら暴走するよね?

 魔力を大きくしただけの人に神を呼ばせるって……魔女ほど魔力の器が広がらないってことで。魔力量が少ないメイア嬢は、神を呼べば確実に死んでしまう。


「その男は偽者の精霊王の剣を与えられた者ですよ、メイア様。我が精霊王こそが正しい存在。火竜もほら、精霊王様には抵抗などできませぬ」


 ミタスは笑みを浮かべて頭上へ視線を向けた。


「火竜さん!?」


 上空にいた火竜さんが、黒い靄にとりまかれて墜落していく。

 森のどこかに落ちて、地響きが私のいる場所の地面をも揺らした。

 黒い竜が雄たけびを上げ、ふっとその姿が小さくなってゆったりと降りてくる。

 近づいてくるその姿は、まるで……。


「ソラが、もう一人?」


 黒髪のソラがもう一人いる。黒い衣をまとっているから、違うとわかるけれど。

 もっと言うなら、団長様が三人いるみたいでなんか怖い。団長様も、偽者のソラを見て不愉快そうに顔をしかめていた。


「さあメイア様。神を呼ぶため泉へ!」


 ミタスが呼びかけ、団長様に術をしかける。

 地面から湧き上がる黒い靄に、団長様が足をとられた。


 フレイさんとイーヴァルさんは、そんな団長様を攻撃しようとする四人の黒ローブの相手をしていた。

 精霊の盾の魔法のおかげで攻撃は受けていないみたいだけど、ミタスの方まで手が回らない。


 ……って、そうだ。私!

 人を操れるって言っていた。紅茶という形で私の魔力を口に入れた人達のことを。


「操る、操る……」


 私はメイア嬢を見つめて止まってと願う。

 でもメイア嬢は足を踏み出した。

 願うだけじゃだめなんだ。私はすぐにその足が動かないように……彼女の中にある魔力が止まる様子をイメージする。


 すると、メイア嬢がはじかれたように私を見た。

 彼女はもう、一歩も前へ進もうとしない。


「まさか、ユラ……あなたが」


 メイア嬢は私がしたのだと気づいたようだ。その表情に戸惑いがあった。

 私は成功したことにほっとしながら、メイア嬢に言った。


「今ならわかります。本当は……あなたが魔女ではなかったってことが」


 メイア嬢に私のようなことはできない。

 しようとしないのがその証拠だ。

 魔女が人を操れるというおとぎ話を知っているメイア嬢は、私が彼女を操ったことで心に揺らぎが生じたのだと思う。小さく息を飲んだ。


「私は知っていたんです。魔女がいずれ現れて、世界を壊してしまうことを。でも私が魔女なら問題は起こらないと思ったのに、魔女が起こすだろう出来事が次々起こって……」


 はっとしたように、ミタスと対峙する団長様が私に視線を向けた。

 すぐ向き直ってしまったけれど、もしかしたら団長様はずっと不思議に思っていたのだろう。私の行動を。


 そうだよね。気をつけていたつもりだけど、何かを知ってるみたいな行動をしてしまったこともあるから。

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