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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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タナストラの国境へやってきました 2

 タナストラの国境の砦は、シグル騎士団の城よりも小さい。

 アーレンダールへ侵略するための拠点として、急造した、という経緯があるからだろう。


 砦の中に詰めている人間も、シグルより少ないみたいだ。騎士の他に兵士達もいる。

 国境ということで、すぐ近くには町があるので、そこの住人か、もしくはそこに住んで砦へ通ってきているのだと思う。


「どこの人間の住まいも狭いな」


 火竜さんが辺りを見回してそんなことを言っていた。

 タナストラ国境騎士隊長の部屋は、砦の主塔二階へ上がってすぐの場所だ。


 石壁がむき出しの部屋の中はそれほど広くはない。

 机と椅子、書棚があるだけ。

 入室すると、すぐに奥の椅子から立ち上がったのは、三十代ぐらいの男性だ。


 彼がタナストラの隊長さんだろう。

 口ひげを生やしている姿が自然に思える、やや山賊風の面立ちをしている。容姿に見合った肩幅や体の厚みから、魔法を使うよりは武闘派なのかもしれない。


 団長様やイーヴァルさんやフレイさんも、シグルの人は魔法剣士系が多く細身なので、武闘派っぽい人が多いタナストラの騎士達が部屋の中に居並ぶ様子は、威圧感がある。


 そこに全員でぞろぞろと入るわけにもいかないので、部屋に入れてもらったのは私と団長様、イーヴァルさんとフレイさんまでだ。

 タナストラ側の隊長さんは、うちの団長様の顔を見て、その肩にいる火竜を移し、難しい表情をした。


「ようこそ、タナストラ国境騎士隊の砦へ、リュシアン殿。まず先に、勝手に動物を砦の中に入れてほしくないのだが……飛びトカゲの子供でも、しつけても急に暴れることはあるのでな」


 タナストラの隊長さんは、火竜さんのことを飛びトカゲの子供だと考えたらしい。おとなしく肩に留まっているので、そう判断したのだと思う。

 まぁ、火竜だと思ったら、こんなにも落ち着いて抗議はしないか。


「しかも、こちらから訪問はあと三日後にしてもらいたいと、連絡の使者を飛ばしたはずなのだが……」


 確かにそういう使者は来ていた。

 団長様はしっかりとそれを無視しただけである。「えっ?」て顔をしてた使者の人を置き去りにして出発したので。


「これは魔法で暴れないようにしてあるので気にしないでもらいたい」


 団長様は、火竜さんのことをそう説明する。一瞬、火竜さんがものすごく顔をしかめたけど、見えないので団長様はそのまま話を続けた。


「使者については行き違いがあったようだ。我が国の国王陛下より、緊急の連絡が来てな。急ぎタナストラの王都へ向かいたかったのだ。けれどそちらも、魔女と火竜のことが収まらなければ通行を許可しにくいだろうと、先にこちらへ伺った。これを見てもらいたい」


 団長様は動揺一つせずに、自分の持っていた手紙を渡す。

 これは国王陛下にお願いして書いてもらった指令書だ。


「こ、これは……」


 中を見たタナストラの隊長さんが渋い表情になる。


「本当のことですかな?」


「酔狂でそんなことを書く王は、アーレンダールにはいない」


「では、ここに書かれている通り、人質と一緒にイドリシアの者が侵入したことや。王都で問題を起こす可能性があるとの情報は確かなのか。そちらは彼らを捕縛しに来たと……?」


 団長様は国王陛下にお願いして、そう書いてもらっていたらしい。

 私達がイドリシアへ移動したなら、必ず側にいる誰かとメイア嬢自身が来る。

 なにせもう一人の魔女である私を狙って、襲撃してくる人達だ。タナストラに入国したあげく、イドリシアへ向かっていると知ったら、きっと妨害するだろう。


 なのでその前に、こちらがメイア嬢の側にはイドリシア人の不審人物がいると、国王陛下の名前でタナストラに警鐘を鳴らしておくのだ。

 こうしておけば、メイア嬢達に私たちが襲撃されても、タナストラ国内で倒す大義名分があるわけで。


「しかし魔女がいるという情報は、タナストラの宰相から発せられたもので……」


「おそらくはイドリシアの者を侵入させるために、疑いの目を他に向けさせようと思ってのことだろう。王都にも、イドリシアに協力する者がいるのではないか?」


「そんなばかな……」


 この話にはタナストラの隊長さんも信じられない、という態度をとる。

 自分の国の中枢に、滅ぼした相手国の人間に通じた者がいるとは、とうてい考えられないものだろうから。


「私はあると思うがな。あの国を滅ぼす際に、イドリシアの内部に精通した人間を使っているはずだ。その人間が、何らかの理由で今度はイドリシアの味方をするというのは、あり得る話だろう?」


 タナストラの隊長さんは考え込んでしまう。

 これは信じてしまいそうな話だと思う。

 影でこそこそと敵側に通じる人間は、信用されにくい。自分の故郷を裏切ったのだから、いつ味方になっていた国も裏切るかわからない、と思われてしまうからだ。


 そこでイーヴァルさんが発言した。


「横からですみませんが、もう一つ、魔女の件について可能性を進言いたします。こちらに魔女がいるなどと言ったのは、人質として差し出された公爵令嬢メイア・アルマディールの嫉妬からの発言ではないか、と」


「嫉妬?」


 いぶかしげにしながらも、目に興味の色が濃くなる。


「一度、リュシアン団長が婚約していた女性だったのですよ。彼女は。

 後で破談になったのですが、どうもご令嬢はリュシアン団長に未練があった様子。ずっと復縁の打診が来ていたのです。それがかなわなくなって、当てつけをしたのでは……と考えています。

 そしてリュシアン団長の側に若い女性を置いておきたくないから、投獄してやろうとしたのでは。そのためにタナストラにいた元イドリシア人に、過去の罪については問わないから、ある人物を魔女だと疑う情報を流してほしいと言えば……。タナストラの方々も、何年も側にいた人物のことは信じてしまいますよね?」


 イーヴァルさんが推測を並べ立てる。


「下世話な推測はよせ、イーヴァル」


 団長様が渋い顔をするものの、イーヴァルさんは涼しい顔だ。


 ……この流れはイーヴァルさんの発案で予定通りに行われたものだ。

 正攻法だけでは、相手にとっては『自国の人間がたやすく騙されている』と侮辱されているように感じてしまい、拒否感が強くなる。

 だから単純な愛憎劇を手伝ってしまった、という別な方向性の話をつけ加えるのだ。


 団長様は気乗りしなかったようだが、タナストラの人間を騙すのには有効な手段だと判断し、受け入れた。

 イーヴァルさんは『当たらずとも……なところがあると思うんですがね』と言っていた。それにフレイさんまで同意していたと聞いて、私は不安になったものだ。


 もしかして私って、メイア嬢に嫌われていたの? と。


 でも状況的にはあり得るか……。

 メイア嬢は団長様のこと気にしてたみたいだったし。元がついても婚約者だったら、もやもやするかもしれない。

 私の方はこう、住む世界の違う人だからとばかり思ってたんで、嫉妬されるような要素があるなんて考えもしなかった。


 もしあの時団長様が……私のことを恋愛的な意味で気にしているとわかっていたら、メイア嬢への印象も変わっていたのだろうか?

 連想してしまった私は、つい団長様に口づけされた時のことを思い出し、心の中で自分を殴り飛ばすイメージをする。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 魔女の事件に決着をつけるまでは。


「このようにうちのリュシアン団長はあまり気づかない質ですので。なおさらに周囲から女性を排除したいと考えても、おかしくないかと」


「……嫉妬か」


 あちらの隊長さんは、すっかりイーヴァルさんの話に納得したようだ。


「まぁとにかくここまで来たのなら仕方ない。今、精霊教会から司祭を呼んでいる。一番近い聖堂からの派遣になるので、一時間ほど待ってもらいたい」


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