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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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その言葉については保留です!

「先にタナストラの国境へ伝令を出すにしても、明後日には出発する。先方が完全に心構えができないうちに、時間を置かずに急襲したい」


 火竜さんの報告をしたら、団長様はすぐに出発の日程を告げた。

 なので私はその日のうちにヨルンさんの元へ走った。

 事情を話して、今まで作った紅茶を引き取ってもらうのだ。


 ……なにせ私、戻って来ない可能性もあるから。予定外の買い取りになるので、半額でいいからとお願いしての上だ。


 おかげで喫茶店にある在庫は、一応置いて行く小袋一つ分と、今日作った紅茶Aが小袋一つ分。

 精霊に力を与えるというなら、これぐらいするべきかもしれないと思って、Aランクの紅茶を持って行くことにしたのだ。


 出来上がった紅茶を鑑定してみる。


《紅茶A:気力の回復+20。スキル練度+20》


「うん、前回と同じだね」


 確認した上で、紅茶A用の袋に入れた。もちろん、防水のものだ。濡れたら一巻の終わりだもの。いや、作ればいいんだけどね。


「あとは、ちょっと前に作っておいた砂糖漬けぐらいかな」


 ジャムだと重いし。イドリシアまでえんえん歩くことになるかもしれないし、荷物は軽くしておきたかった。

 そうして片づけた喫茶店を見回した。

 明日は午前中だけ営業。明後日にはここから旅立つことになる。


「これでお別れになるかもしれないのか……」


 つぶやくと物悲しい気分になってきた。

 前世で憧れがあった喫茶店経営。火竜さんが喫茶店内で煙を吹いたことも、なにもかも懐かしくなってくる。


 思い出しながらぼんやりしていたら、喫茶店の扉が叩かれた。

 営業時間を終えて、閉店の札を出しているのに訪ねて来る人は限られている。さっき会った時に、紅茶のまがい物……というか魔力がこもっていないお茶の開発について話したイーヴァルさんかもしれない。


 私が紅茶の生産だけで手いっぱいだけど、もっと安価に紅茶の味に親しんでもらいたいし、廉価版の開発ってイーヴァルさんの方でできないものでしょうか、と話を振っておいたのだ。

 それを詰めるために来たのかなと思ったら。


「どうぞ」


 返事を聞いて入って来たのは、団長様だ。


「あ、お疲れ様です」


 頭を下げて一礼すると、団長様は「ああ」とうなずく。


「準備は明日で済みそうか?」


「はい。王都から帰ってきたばかりで、荷物はまとめてありますし……行先でお茶を使うにしても、カップを沢山持って行く必要はありませんから」


 葉っぱと湯を沸かす道具、ポットとカップが少しあればいい。ああ、水筒は必要かな。中に紅茶をあらかじめ入れておいて持ち運べるし。


「団長様の方こそ、ご準備が大変なのではありませんか?」


 数日は騎士団の城を離れるので、その間の仕事を片付けたりとか、公爵様なので、御領地のことに関しても、書類仕事などがあると聞いている。主にイーヴァルさんから。

 だから私は、そのために出発を明後日にしたのだと思っていた。


「いや、私の方は王都からの連絡を待っている。あの話し合いの後すぐに、国王陛下に急ぎの手紙を運んでもらった。その返事を待つ時間が必要で、三日開けただけだ。それに今すぐ移動しなくてもいい。一応人質として移動するのだから、メイア達もすぐにイドリシアへ移動することはできないだろう」


「そうであるよう祈ってます」


 私としてはそう答えるしかない。

 確かにすぐは行動しないだろう。だけど私達が行動したら、知られてしまうんじゃないかと思う。


 精霊は、頼めば私達の行動を教えないようにしてくれる。

 ただ「知らないよ」とか、「ずっと騎士団の城にいるよ」と嘘をついてくれるだろうけど、不自然だとあちらが気づいてこちらの行動を探りに来るだろう。

 メイア嬢も魔女なのだから、精霊にお願いもできるはず。精霊さんがどっちのお願いを優先してくれるかはわからない。


「お前も懸念はあるだろう。私としても、おそらくお前が魔女だと気づいたあちら側の人間が、こちらに監視をつけているかもしれない、とは思っている。動きに気づけばお前を再び襲撃してくる可能性もある」


 団長様は別な面からのことを心配していたようだ。


「そうですね。襲撃されたらちょっと困ってしまいます」


 特に魔女ではないと言い逃れをしようとしている時なんかは、私が戦うわけにはいかないし。


「基本的には私やフレイ達で守るが、どうしようもなくなったら、魔法を使っていい。誤魔化す方法は考える」


「そんなことできません! それぐらいなら、団長様達にまでご迷惑をおかけしないようにします」


 もしそんなことになったら、私は魔女なのよ! とでも言ってしまおう。団長様達を騙していたことにしたらいい。

 高笑いしつつ、逃げるついでにタナストラ国内に侵入して、そのままイドリシアを目指すのだ。


 ――だけど嫌だな、とも思ってしまう。


 本当は沢山の人に魔女だってバレたくはない。フレイさんやイーヴァルさん以外の騎士さんも同行するのだ。さすがに騎士団長が他国に訪問するのに、四人だけで行動するのは不自然だから。

 今まで仲良くしてくれていた騎士団の人達に、白い目で見られたら……。

 つい視線を下げて考えに沈んでしまいそうになったら、


「迷惑をかけてもかまわない、ユラ」


 そう言って、団長様は私の肩を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。


「あの、だん……」


 そこで私も言葉が止まってしまう。

 怖い想像をしてしまったせいで、心細かったから。

 どれだけこの人を頼ってしまっているんだろうと、私は自分が情けなくなる。


「私には精霊王の剣がある。多少の魔法なら、精霊達が愛し子を守りたくてやったことだとでも理由をつけて、精霊教会にも認めさせてみせる。魔女だと疑いを持たれたところで、精霊教会が認めてしまえばそれで済むはずだ」


「はい……」


 それで済めばいい。そう願いながら素直にうなずく私に、団長様は続けて言った。


「本当は、私が魔女を倒すことができればいいんだが」


「団長様にそんなことさせられません」


 私は団長様に言った。団長様にメイア嬢を殺させたくない。


「なぜだ?」


「一時でも婚約者だった相手を傷つけるなんて。お辛いでしょう」


 結婚するかもしれなかった相手だ。

 どういう形であれ、情を持っていたのでは? と私は思っている。

 しかも団長様は、メイア嬢達が多くの国を滅ぼしてしまう未来を知らない。あくまで可能性がある、程度にしか考えていないのだ。


 なのにメイア嬢達と戦って……もし殺してしまったとしたら。

 後になってから、殺す必要まではなかったんじゃないかと悩むことになりかねない。そんな辛い思いはさせたくない。

 フレイさんにもそんなことはさせたくないのだ。


 もちろん、私だって誰かを殺したくはない。

 だから最初は、精いっぱいメイア嬢の行動を阻止する。それで難しければ……仕方ない。

 問題は、私なんかより魔術に精通してそうなメイア嬢と真正面から戦ったら、私だって無事ではいられないだろうなってこと。

 すると団長様が、妙に固い声で言った。


「ユラ。私は彼女とはさして関係もないし、それほど人となりを知るほど交流があったわけではない」


「でも、意識はなさったでしょう?」


 団長様が少し腕をほどいてくれる。見上げると、団長様が固い表情をしていた。


「意識した覚えはない。結婚はしないと決めていた。どんな手を使ってでも断ろうと考えていたぐらいだ」


「でも情ぐらいは湧い……」


 言葉は止めさせられた。

 唇がふさがれたから。団長様の唇で。

 それはほんの短い時間だったのに、団長様のあたたかな唇の感触と、離れる時の少し甘い感覚が脳裏に刻まれた。


 ……ああ、抵抗できない、と思い知らされる。


 何度も逃げて、あいまいにしていたけれど。

 こんな風に、口づけをされても私、やっぱりこの人の手を振りほどいたりできない。

 もっと側に置いてほしいなんて考えそうになる。 

 そんな私に団長様が言う。


「私が唯一、そういった情を感じたのはお前だけだ。側に置きたいと思ったのも、お前だけだ」


 逃がさない、という意志を感じた。今度ばかりは団長様は許してくれそうにない。


「でも、団長様は貴族ですし、こんな私じゃ」


 平民なだけでもハードル高いのに、魔女なんて側に置いたら、どんな面倒なことになるかわからない。


「受け入れてくれるというなら、貴族の地位は必要ない。元々爵位は捨てても良かった」


 だから、と団長様は私の手を握る。


「ユラ、君に一緒に生きてほしい。ただ君が別な人生を望んでいるのなら、無理は言わない。君が望んだ首輪も、その妨げになるのなら外す」


 そこまで言った団長様は、「考えておいてほしい」と言って喫茶店から立ち去った。


 私は立ち尽くしてしまう。

 ややあって顔を手で覆い、その場にしゃがみこむ。


「あれって、あれって……まさかプロポーズ?」


 最後の方の言葉ってプロポーズじゃないの!?


「え、ちょっと待って。確かにそういう心配をしたけど、でも気が早くない? しかも貴族の地位もいらないとか」


 平民だからって言い逃れができないじゃない?

 だいたい団長様が貴族をやめたところで、団長をやめるわけじゃないだろうし。騎士団をやめたところで、精霊教会が精霊王の剣の持ち主を放置しないだろう。枢機卿とかそんな感じのポストに団長様を勧誘しに来そうだ。


「いやいや問題はそこじゃなくて」


 そもそも結婚したくないとか言ってたし、そこまで望まれるとは思わなかった。


「え、なに、私どう答えるの?」


 うろたえすぎて自分がよくわからない。

 魔女の問題が解決したら、団長様とはもう会わない覚悟で外国に高飛びするつもりだったのに。


「うぉぉぉぉ」


 うなった末に私は思った。


「そうだ、お茶作ろう」


 それで心を静めるのだと、私は新しいお茶の開発に手をつけた。

 おかげでその日の晩御飯に遅れそうになったのだった。

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