ソラ、さらに変化する
その姿形から、なんとなくソラだという認識には至った。
けど、身長がまたさらに伸びてる。私より高くて、上向いた感じが……どこか、誰かを見上げた時に似てる。
団長様のことを私は思い出した。
でもソラの顔を見て、また違う誰かに似ている気がした。
造作としては、長い黒髪のやや顔色が青白いけれど、柔和そうな面差しの青年。だけど見覚えがあるような……。でも誰だったのかは思い出せない。
「ようやくこの姿で君と出会えたね」
ソラが私を微笑んで抱きしめる。
私はどう考えていいのかわからなくて、硬直してしまった。
ゴブリン姿のソラは人と同じくくりではなく、どこか神様みたいな存在として考えていたせいか、今まで抱きしめられても何も感じなかった。だけど今は、人そのものの姿をしていて。
こんなことをしていいものかと、戸惑う。
そんな私をしばらくして離し、ソラが苦笑いする。
「どこかおかしいかな?」
私は首を横に振るしかない。おかしくはない。姿的には。むしろ今まで『精霊の王様』なんて呼ばれていた彼が、ゴブリン姿だったことの方が異常だったのだ。
でも待って。
今まで、ソラの姿が変化するのには一定の魔力を私が取り込んだ時だったはず。
私、火竜さんに勝った後とか、魔物の魔力を取り込んだりしたときとか、とにかくゲームのイベントらしきものをクリアしたわけじゃないのに。
「なんで……姿が人みたいに変化したの?」
私の疑問に、ソラは困った顔になる。
「詳しく説明するのは難しいな。ただ少しは、君に話せることが増えたんだ。だから今言えるのは……精霊王の剣の持ち主に、君が魔力を分け与えたからだよ」
ん?
私は最初、よくわからずに首をかしげてしまいそうになる。でもソラは、それ以上ヒントを出す気はないようだ。あとは察してほしいという表情をして黙っている。
まずは素直に考えてみた。
精霊王の剣の持ち主に魔力を分け……。私、団長様に魔力なんて分けたことあったっけ? と考えたところで、ふわっと思い出した。
――魔力を移すには、手より、口からが一番効率がいい。
思い出すと恥ずかしさでおろついてしまうあの出来事で、私、団長様と唇を合わせてしまった。もしかしてあの時!?
でもどうしてそれがソラに関係するの? ……ってそうだ。ソラは精霊の王様だ。団長様の持つ『精霊王の剣』と関係があるに違いない。
たしか精霊王の剣は、剣が直接魔力を吸収できる量に限りがあって、残り半分は団長様から分けられていると聞いた。
団長様に私が魔力を分けてしまったとして、それが精霊王の剣から……ソラに渡ったの?
そうとしか思えない。
じっとソラを見ると「君が想像している通りで、たぶん間違いないんじゃないかな」と答えた。
だから尋ねてみた。
「あなたは精霊王……でいいのね? ソラ」
剣の持ち主とつながってはいるけれど、ソラ自身は好きに出現している。だから剣にしばられている存在ではない。
となれば、むしろ剣を仲介にして団長様と精霊王のソラが繋がっていると考えた方がいいだろう。
ソラは微笑んでうなずいた。
以前はほとんどこういう問いに答えてもらえなかったけれど、何かの条件を満たして秘密が解禁されたのか、今回は肯定してもらえた。
「自分からはまだ言えないけどね。その認識で間違いないよ」
「でもおかしいことがあると思うの。団長様とつながりがあるのはわかったけど、私とソラの間は?」
私の魔力が増える度に、ソラや精霊達も影響されて大きさや衣装なんかが変わって行った。それはどうして?
「君が魔女だからだよ、ユラ」
ソラが単純な話だといわんばかりに答えた。でもそれじゃわからない。
「魔女は精霊の一種なの? でも精霊が一体だけ力を得たからって、ソラやほかの精霊に影響を与えるもの? むしろソラだったら……」
精霊王が力を得たから変化した、というのなら納得できるのだけど。
言いかけて私は言葉を自分で止めた。
魔女は精霊と融合せねばなれない。
そして膨大な魔力を自分のものにできる上、国を滅ぼすこともできる力を持っているのだ。しかもソラは魔女が将来破壊を行うのを知っていながら自分でメイア嬢を直接止めないところからして、魔女になってしまった人を止める力は精霊王には無い?
なんだかそれって……。
「魔女って精霊王と同等かそれ以上の……」
存在という位置づけなの?
聞きたいと思ったけれど、ソラにすいっと話をそらされる。
「それより、僕も長い時間こうしていられないんだ。今日呼び出した用事はいいのかな? ユラ」
「あ、うん」
そうだ。魔女について追及するより先に、直近の問題をかたずけなければならない。
ソラにしたかった相談は二つある。
「まず、植物の姿をした精霊っているの?」
導きの木の精霊だって可愛い女の子っぽい姿だったし。魚やトカゲのような動物的な姿の精霊は多いけど、植物そのままというのは……葉っぱ姿の精霊ぐらい? でもあの精霊にも手足はついていた。
「なんていうか、土に生えてる樹がそのまま精霊の姿で、それが動くような……」
「まずないかな」
ソラの回答はあっさりしたものだった。
「え、じゃああれは……」
精霊じゃないってこと?
「ソラ、この周辺の精霊が、動いてケーキを食べる薔薇と仲良くしているみたいなんだけど、その薔薇が何なのか教えてもらうことはできる?」
「動いてケーキを食べる……」
つぶやいたソラは、すっと空中に手を差し伸べる。そこにふっと現れたのは、薔薇の冠をした葉っぱ型の精霊だ。
その精霊をじっと見つめた後、ソラはとんでもない事実を告げてきた。
「ああ、君が見たのはたぶん、魔物だね」
な、なんですとー!?
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